第19話「チルダの見えないお友達」
「なぁ……ウィン……ちょっと相談があんねん」
ウィンが1人になった所を見計らって、シャープは声をかけた。
「シャープから私にお願いですか!?なんですかぁ~!?私はもう何でもしてさしあげますよぉ」
ウィンはベロベロと舌を出してはしゃいだ。
(こいつは普通にしてたら知的に見えるのに、本当に残念すぎる……)
シャープは口には出さず心でそう思った。
「で!?何をして欲しいのですか!?毛並みの手入れ!?それともマッサージとか!?」
「いや、相談やっつーてるやろ!……ちょっとチルダの様子がおかしいねん」
シャープはそう言って真剣な顔を見せた。
「チルダがですか?毎日嘗め回すように見ていますが特別おかしな所は無いと思いますが?」
「屋敷の中では普通やねん……庭に居る時に1人で喋っとって、まるで誰かいるみたいに……」
口にしていると寒気がしてシャープは体を震わせた。
「霊的な何かかもしれん……もし、チルダにそういうのが取り憑いてたらどないしよ」
「霊……ですか……ああ、そういえばこの屋敷……」
「え!?なに!?」
「昔むかぁ~し……」
「!!」
「と言うのは関係ありませんが。チルダの様子は気になりますね」
シャープはホッと肩を落とした。もし、そんな話が本当なら夜中屋敷の中を動けなくなると思ったからだ。
2人は、直接チルダの様子を見るため庭園に足を向けた。
――――――
「いた……あ……ほら、誰かと話しとる」
2人は隠れてチルダを観察する。
「絶対怖くないお」
「そんな事ないお~」
「お兄たんも、おじたんも、カラスたんも、天使たんも、悪魔たんもみぃ~んな面白いお!」
「あと、たまに遊びに来るルートお兄たんも優しいお~」
シャープが言った通り、チルダは花壇に向かって話をしている。
「な!?どないしよ……チルダが霊に取り憑かれとる」
シャープはウィンの服を掴んで困惑するばかりだった。
ウィンは顎に手をやりながら、チルダの様子を観察していたが「ふむ……」と呟き物陰から体を出した。
「この距離じゃ解りません」
そう言ってチルダの方に向かって歩く。
「ウ……ウィン!?近づいて霊を怒らせたらどないすんねん!?」
「私は霊なんて信じていませんよ……しいて言うなら『霊のような魔物』ならいるかもしれませんね」
「霊のような魔物……?」
そんな魔物をシャープは聞いた事も無かった。
「チルダ?誰かいるのですか?」
「!」
突然掛けられた声に、チルダは驚いた顔を見せて振り向いた。
シャープはチルダの前を確かめる、だが近くで見てもそこには花しかなかった。
「チ……チルダ……お前……体とかおかしくないか?寒いとか重いとか……」
「お兄たんこそ顔色がおかしいお?大丈夫かお?」
チルダはシャープのおでこに手を伸ばそうとした。
「ヒャ!」
シャープは情けない声を上げてウィンの後ろにサッと隠れた。
「シャープ、ビビリすぎですよ。どう見てもチルダはおかしくないです」
「で……でも……じゃあ独り言は?」
「独り言では無いのでは?」
「で……でも!」
シャープはチルダが話しかけていた場所をチラリと見た。その時、チルダがそこを隠すように不自然に体を動かしたのをウィンは見逃さなかった。
「おや?チルダ、そこに何かいるのですか?」
「え!?い……いないお!チーたん何も隠してないお!」
チルダはアワアワと両手を振った。
「大変解りやすくて可愛らしいですね」
ウィンは涎を垂らしてウフフと笑った。
「ちょっと失礼します」
「あ!おいたん!」
ウィンは花壇を覗き込んだ。
チルダの酷く慌てる様子をシャープは疑問だらけで見ていた。
(一体、花壇に何が?)シャープがそう考えた時だった。
(ザッ!)
花の中から何かが飛び出しシャープの方に飛び掛かった。
「にゃぁぁぁ!!」
シャープは情けない声を上げて尻もちをつく。
(霊が怒ったに違いない!!俺に取り憑こうとしている!!)
シャープはそう考えて頭を抱えた。
「ちょっと、シャープ尻尾踏まれた猫みたいな声出さないで下さいよ」
「お兄たん驚きすぎだお」
「で……でも!霊が!俺に!!」
「シャープ、よく見てみなさい。それがオバケに見えますか?」
「え?」
シャープの頭上を指差すウィン、シャープは恐る恐る顔を上げた。
「う……う……人間に見つかっちゃった……狭い檻に入れられて、舐め回されて、最後は姿焼きにされて食べられちゃうに決まってるぅ」
シャープの頭上、そこには小さな生き物がいた。姿は人間と変わらないが、その縦サイズはリンゴ1個分程度だ。背には薄い四枚羽、それをパタつかせて飛んでいた。
「コロンたん、大丈夫だお!ウィンおいたんはそんな事しないお」
チルダはそう言うと小さな生き物を両の掌に乗せた。
シャープは改めてその姿をじっと見て『まるで妖精のようだ』と思った。
「というか?もしかして……妖精!?」
ウィンはと言うと目を輝かせていた。
「こ……これは珍しいですね!妖精は最近めっきり数が減ってなかなかお目にかかれません」
「そうだお、コロンたん1人なんだお……可哀そうだお」
「そ……その珍しい妖精がなんでこんな所におるねん!?」
シャープの言葉に妖精はしゅんっと項垂れ、か細い声で話した。
「仲間は人間に見つかって捕まっちゃった……ボクは逃げたけど、全然知らない場所まで来ちゃって。疲れてここのお花の中で寝てたらチルダが助けてくれたんだよ」
「人間は妖精を捕まえてどないすんの?」
シャープはウィンに聞いた。
「闇取引で高額売買されています。見た目が可愛らしいので、小鳥を飼うように籠に入れて愛でたり……一部では食べると若返るとかいう噂もあって……」
「おい、さっきコロンが言うたまんまやんけ……引くわ」
「おいたん!ひどいお!!」
「わーん!やっぱり姿焼きにされちゃうー!」
「いえ!私はそんな事いたしません!こんな可愛らしい妖精さんを食べるなんて……ねぇ?フ……フフ」
ウィンはペロペロとキショイ顔を見せた。
「ああ……そうや、ウィンは可愛い魔物を狭い所に閉じ込めたり、丸焼きにして食べたりはせん……やけど、舐め回すのはするかもしれん」
ウィンの様子を見てシャープは真剣な顔でそう言った。
「それは味見じゃないの?」
怯えて問うコロンにチルダが首をブンブンと振った。
「コロンたん違うお!だってウィンおいたんはチーたんのホッペもペロペロするお!」
「は?」
シャープはウィンをゆ~くりと見る。
お化けを怖がるシャープの方が、よっぽど化け猫をほうふつとさせる形相だ。
「チ……チルダ……お兄ちゃんには内緒って……」
「ウィン……お前……」
「いえ!あまりに可愛いのでホッペにチュウしているだけです!」
「それがアカンのやぁぁぁ!!」
その後、ペロペロしない(もちろんチルダにも!)という事をシャープはウィンに固く約束させて、コロンも屋敷に住む事になった。
――――――
幽霊騒ぎから数日が経った。
「今日はこの種を蒔くお!」
「お庭をもっとお花畑にしたいね☆」
チルダとコロンははしゃぎながらリビングを出て行った。
リビングにはウィンとシャープの2人が残った。
「コロンとは契約してへんの?」
「コロンと契約しようとしたら、チルダが「チーたんもしたい!」と言いまして」
「え?……ああ」
ウィンは『チルダとは契約をしない』というシャープとの約束を守っていた。
実は今となっては、『契約してくれた方が安心』……とシャープは思っている。
だが、出会った日の自分の拒絶ぶりを思い出すと、どうにも恥ずかしくて本心は言えないのだった。
「それにしてもシャープがあれほどおばけが苦手だとは」
ウィンは事あるごとにシャープのビビリようをイジって遊んでいた。
「煩いなぁ~!」
「そういえば、この屋敷でその昔……女性が」
「もうそのウソはええよ」
「ウソ?本当ですよ」
「え?」
「そりゃぁ、この屋敷は先祖代々長い歴史がありますので……」
「へ……」
シャープは背筋に悪寒を感じてゾクリとした。
「最近はチルダはコロンと寝てシャープお一人で寝てるんでしたっけ?」
「……」
「おばけって一人で怖がってる者を狙うそうですので……お気をつけて下さいねぇ」
ウィンはニチャァァと笑みを見せる。
「ですがぁ、シャープがどうしてもって言うならぁ~私が一緒に寝てあげてもいいですよぉ?」
「そ!そんなんええわ!」
シャープはウィンにクッションを投げつけてリビングを出た。
「こ……怖くなんか……」
そう呟くシャープだったが、とてつもなく怖かった。
このままでは夜中にトイレすら行けなくなってしまうと思った。
その日の夜。
まくらを持ったシャープが、セディユの部屋に行く姿が目撃されたのだった。




