第18話「黒こげクッキー」
「う~……人間に負けた」
「シグマの負けぞえー!バツゲームぞえっ!そうぞえなぁ~……100年間煉獄の炎で焼かれるとか面白そうぞえ!」
流石の悪魔も、悪魔の考えるバツゲームは厳しくシグマは顔を青くした。
「ちょっとピリオド!勝負で勝ったのは私です、バツゲームは私が考えます。ふふふ……そうですねぇ、あ~んな薬を使ってみたり、あそこにあんな物を入れてみたり……あそこにあれを刺してみたり……色々やりたい事が多すぎて……グフフ」
「ピリオド……この人間なんなのだ……悪魔より笑みが邪悪なのだ」
シグマはバツゲームの内容よりも、不気味に笑うウィンを気味悪そうに見た。
「なのでっ!こうしましょう。シグマさんも私と契約いたしましょう♪そうすれば慌てずじっくり遊べますもの」
「契約?それは困るのだ、俺はピリオドを連れて魔界に戻らないとダメなのだ」
「は?俺様を連れて帰る?」
ピリオドは迷惑そうな顔を見せた。
「魔王様に頼まれていたのだ」
「父がぞえ?」
「魔王様はピリオドにそろそろ時期魔王になるための勉強をちゃんとして欲しいと言ってたのだ」
「魔界の王ですか……凄そうですね」
「だから俺はピリオドを連れて魔界に戻るのだ」
「嫌に決まってるぞえ!勉強なんてつまんないぞえー!」
「ピリオド困るのだ!」
シグマはピリオドを捕まえようと飛び掛かった、それをピリオドはバサリとかわした。
「シグマがどうなろうと知らんぞえ!1人で帰るぞえ~!」
「待つのだ!」
再び悪魔達の追いかけっこが始まった。
「おーい、クッキー焼けたで」
そこにシャープと、暗い顔のセディユが現れる。
「なかなか戻って来んから呼びに来たわ。紅茶も冷めてまう」
「そうですね……そうしたいのですが……今ちょっと取り込み中でして」
ウィンが揉める悪魔を指差すと、シャープとセディユもそちらを見た。
「誰や?あれ?」
「角に黒い羽……悪魔?」
「はい、ピリオドのお友達だそうですが……揉めています」
シャープはハァ……と大きなため息を吐き、セディユは増えた悪魔に身を固くした。
「絶対!ずぇーたい!帰らんぞえー!」
「ダメなのだっ!俺が困るのだ!」
ピリオドがバサバサとウィン達の方に逃げる。
「待つのだー!まっ……」
シグマの視線がセディユで止まった。
「お?おぉ?天使なのだ?初めて見たのだ」
セディユは警戒して更に身を固くした。
だが、シグマは遠慮なくグルグルとセディユの周りを回りながら観察した。そして……ほぉっと溜息を吐く。
「キレイなのだぁ~」
そう言って、シグマは目を輝かせながら満面の笑みを見せた。
「な!?あ……悪魔が気安く話かけるな」
セディユは精一杯の余裕顔を作って言ったが、シグマはまったく気にする様子は無い。
「天界族は眩しくて目障りだって聞いてたけど、全然なのだ!」
「な……何を……私の肌が黒い事への嫌味ですか?」
「なるほどなのだ!黒は好きな色だ!お前は黒くて可愛いのだ」
「へ!?……」
「それにお前はとぉ~てもいいニオイがするのだ」
シグマはセディユに顔を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。
「ちょ!これは……クッキーの香りです」
「クッキー?て何なのだ?」
「シグマ!クッキーも知らんぞえか!?」
「ピリオドも知らないって言ってましたよね?」
「だからもう焼けてるから皆で食おうや」
やっとティータイムの流れとなり、皆でリビングに移動する。
その移動中もセディユは終始難しい顔をしていた……
――――――
「これがクッキーぞえー!」
「これがクッキーなのだー!」
テーブルの上には可愛らしい形のクッキーが並んでいた。
「すごいですね~、これが手作りなんて」
「お兄たんのクッキーはとっても美味しいお!」
「そんじょそこらのお店のよりチョット自信あるで~」
クッキーは2種類味があって、一方はプレーン味だった。
「これは……チョコ……チョコ?」
ウィンがそう言ったのも無理はない。
もう片方は焦げていた。漂う香りは、明らかにクッキーが出すには香ばしすぎだった。
シーンと静まり返る場の中で、背の翼をプルプルと震わせてセディユだけが顔を伏せている。
「あ……あんな!俺の教え方が悪いねん!セディユさんの厚みが足りないのか……何回焼いても……」
「シャープ……いいんです……」
黒コゲクッキーの量がやたら多いのは何回も焼いた結果だった。
「不器用天使さん萌え萌えですぅ~」
「バカにしないでください……」
セディユは涙目でフイッと横を向いた、そのプライドはボロボロだった。
「クッキーいい匂いぞえ!我慢できんぞえー!食うぞえ!」
「いただくのだー!」
悪魔達が我先にと手を伸ばす。
「俺様はこの黒いのを食べるぞえ!」
「俺も黒いのがいいのだ!いい匂いなのだ!」
悪魔達は黒焦げクッキーを鷲掴みにして一気に口に放り込んだ。
「あ…………」
セディユはその様子を絶望顔で見る。
ボリボリとクッキーが出すとは思えない音を出しながら、悪魔達は黒焦げクッキーを噛み砕き……そしてゴクリと飲み込んだ。
「うっ!……」
クチバシに黒い粉を沢山着けてピリオドが動きを止めた。シグマも目を見開き口の動きを止める。
「こ……この下品でまがまがしい食べ物……なんぞえ」
「ヤバイのだ……人間界ヤバイのだ……こんな食べ物が存在するなんて……」
「だ……だからセディユさんはまだ練習中やって……」
シャープが慌てて言うが、悪魔達が大きな声で叫んだ。
「ゲキウマだぞえー!」
「うまいのだ!口に含んで噛み砕いた時の刺激が死を連想させて興奮するのだ」
悪魔達はボリボリと凄い勢いで黒こげクッキーを貪り食った。
「悪魔の味覚について勉強出来ました、案外天使と悪魔っていい関係になれるかもですよ?」
「もうほおっておいて下さい……」
セディユは翼を項垂れるしか無かった……
「決めたのだっ!」
口に黒焦げクッキーを詰め込んで、頬を膨らませたシグマが突然叫ぶ。
「俺もしばらくここにいるのだ」
「シグマの用事は終わったぞえ!帰るぞえ!」
「ピリオドを連れて帰らないと一人で帰れないのだ。何よりこの美味いクッキーをもっと食いたいのだ」
「俺様よりクッキーのが重要になっとるぞえ」
「それは願ったりですけど……さすがに契約もしていない悪魔を家に置くのは私の立場が危ないです」
「契約したらいいのだ?」
「まぁ」
「じゃあするのだ」
シグマはクッキーをボリボリしながら「ほれ」っとウィンに手を差し出した。
「そりゃ可愛い悪魔さんが危険を冒さずに契約してくれるのは願ったりですが……なぁーんか余りにも簡単だとテイマーとしての血が騒ぎませんね」
「俺様の時もこんなノリだったと思うぞえ」
「悪魔って1番簡単に契約出来ますよね……」
こうしてなんだかとても簡単なノリでシグマがウィンのハーレム(予定)に加わった。
――――――
余談
「ところで気になっていたんですけど、ピリオドって本名ピリオードなんですよね?なのにシグマもピリオドって呼ぶのはなぜですか?」
ウィンの問いにシグマはきょとんとした顔を返した。
「同じなのだ?」
「え?いや、伸ばし棒の存在がありますよね?シグマもシーグマだったら違いますよね?」
「?」
その夜、ウィンは研究ノートの悪魔の項目に以下を付け足した。
『とんでもなく適当』




