第17話「悪魔とのゲーム」
「ちょっと!悪魔同士の喧嘩に私を巻き込まないで下さい!」
ウィンは肩に乗るピリオドを手で払った。
シグマの手が大きく振りかぶった。それは、ウィンの顔面もろともピリオドを消さんとする勢いだった。
「わー!ピリオドなんとかしなさい!」
「なんとかと言われても俺様シグマを怒らせた覚えないぞえー!」
無情にもシグマの手が振り下ろされた。そしてウィンの肩に衝撃っ……(トン☆)
「ターチッ!なのだ」
「……え?」
シグマはピリオドに掌でタッチしていた。
「俺の勝ちなのだぁ」
ニシシと牙を見せてシグマは笑った。
その様子を見てピリオドが「あっ!」と声を上げバサバサと騒ぎ出した。
「あああああ!そうだったぞえー!俺様シグマと鬼ごっこの最中だったぞえ!」
「ピリオド忘れるなんてヒドイのだぁ」
「シグマトロイぞえー!俺様逃げてる間に何してるか忘れたぞえ」
「え?ピリオドと私が出会ってから数年経ってますが……シグマさんはその間ずっと鬼ごっこ継続中だったと?」
シグマはムゥという顔を見せた。
「まさか人間界に隠れてるなんて思わなくて少し時間がかかったのだ」
「少し……ですか」
魔族の時間感覚が人間とズレすぎているのか?シグマが少し頭が緩いのか?……人間のウィンには測れない事だった。
「ピリオド!バツゲームなのだっ!」
「ほえ?」
「言ったのだ!負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くって」
「あんま覚えてないぞえ」
「ダメなのだ!そうだなぁ……」
シグマは視線をウィンで止める。
「その人間はピリオドのお気に入りか?その人間を俺が貰うのだ」
「え?いきなりの結婚宣言ですか?シグマさんって強引なタイプなんですね」
「目玉を取って、手足をもいで遊んだら楽しそうなのだ♪」
「想像したんですけど、あまり楽しくはなさそうですね……主に私が」
「いいのだいいのだ♪俺が楽しければ♪まずは目玉から♪」
シグマの鋭く黒い爪がダイレクトにウィンの目を狙った。
「待ちなさい」
「何を言ってもダメだ、お前は俺の玩具なのだ」
「逆です」
「逆?」
「私はピリオドの下僕ではなく、私がピリオドの主です」
「ん?」
シグマは少し考えた顔をしてピリオドを見た。
「ピリオドは人間と契約したのだ?」
「そうぞえー」
「なんでなのだ?人間なんてすぐ死ぬし、弱いし面白くない」
「ウィンは一緒にいて結構楽しいぞえ。飽きるまでは俺様ウィンの所にいるぞえ」
「という訳です、私はピリオドの下僕ではありません」
ムゥ……とシグマは考えた顔を見せた。他のバツゲームを考えなくてはいけなくなったからだ。
「では、シグマさんこういうのはどうでしょう?」
「なんだ?」
「ピリオドの主である私と勝負して、貴方が勝てばピリオドと私はバツゲームを受けましょう」
「ほぉ……」
「その代わり貴方が負ければ、貴方がバツゲームです」
「解ったのだ!じゃあ追いかけっこで勝負だ!」
「いえ、私は体力がありません、追いかけっこでは勝負になりません。なので、コチラを使った勝負をしましょう」
ウィンは召喚の術符を1枚抜きスペルを唱えた。
(ポヨン!)
ウィンの掌にプヨッとした半透明の魔物が現れた。
「それは……スライム?なのだ」
「これを森に放ち先に捕まえた方が勝ちという勝負です。勿論、テイマーの力は使わないと約束します」
「スライムを捕まえるのなんて簡単すぎるのだ」
「ですよね?少し簡単すぎるかもしれませんね?」
「俺の勝ちは間違いないのだ」
「では、この勝負で問題ありませんね?」
シグマは頷いた。その顔には余裕しか無かった。
「それでは、放ちます」
魔物を放つと、それは森の茂みに入り込みすぐに姿は見えなくなった。
「スライムにしては案外素早いのだ!でも、俺が先に捕まえてやる!」
シグマは魔物を追って茂みに突入して行った。
「さて、我々も追いますかね」
ウィンは歩き出す。シグマとは反対にとてもゆっくりしていた。
「随分とゆっくりぞえ~」
「はい、走るのは苦手なので」
「負けてもいいぞえか?」
「いえ、私はまだ誰のものにもなる気はありませんので」
ピリオドはポカンとしていたが、何かを思い出した顔を見せた。
「そういえば……あのスライム、ウィンと契約してるのに契約の石が着いて無かったぞえ」
「え?私スライムとは一言も言っていませんよ?」
「ん?ん?そういえばシグマが勝手に言ってただけぞえ……」
「はい、実はあれ本体の一部分なんです」
「ほえ?」
「本体が大きすぎて全部は召喚が難しいんですよね~」
ポカンとしていたピリオドだったが、状況を理解してみるみる目を輝かせた。
「むっ!なんか面白い事になってる予感がするぞえっ!」
「ですよねっ!急ぎましょう!」
――――――
「うわわっ!なんなのだっ!!」
茂みの奥からシグマの慌てた声が聞こえた。
ウィンとピリオドは我先にと茂みを掻き分けシグマの元に向かった。
「おお!ぞえ!」
「いいですね~とってもいい景色です♡」
シグマは粘着性のある触手に全身をネットリと絡み付かれて身動き出来ずもがいていた。
ウィンが召喚した魔物はスライムではなかったのだ。
ウィンが召喚した魔物は、口から幾本もの触手を伸ばすワームだった。
「実は、スライムのように見えたものは触手の一部なんですよ。分裂した場合本体に戻ろうとします、その性質を利用しました」
「なるほどぞえ~!」
ウィンとピリオドの言葉を聞いてシグマは叫んだ。
「お前!ズルイのだっ!」
シグマは完全に手も足もからめとられ宙吊り状態だった。
「別にズルくないですよ、逃げた魔物を捕まえればいいと言いましたよね?」
「そうぞえ!シグマが勝手に早とちりして逆に捕まっただけぞえー!」
ピリオドはケタケタと可笑しそうに羽でシグマを指差した。
「むぅ……確かにそうなのだ……捕まえてやるのだ!こんなの魔法で簡単に」
シグマは呪文を詠唱しようとした。
が……
「むぐっ!」
ワームが触手でシグマの口を塞いだ。
「むっ……んっ……」
「シグマはマヌケぞえ!詠唱出来ないと魔法は使えないぞえ」
「ふふふ……私の魔物ちゃんは育て方が良いでしょう。さて?次に塞ぐのは『下のお口』ですか?♡」
ウィンはグフフと下品に笑った。その様子を見てシグマは手足をバタつかせ出した。
「むー!」
「降参だーって言ってるぞえ」
「え?随分と諦めが早いですね……」
「悪魔は天使みたいなプライドはないぞえ」
「少しは持ちましょうよ……」
(あわよくば、もう少し触手に弄ばれる所を見たかった……)
ウィンは悪魔の諦めの早さにガッカリするのだった。




