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第16話「魔界からの使者」

「ええ!?セディユって年齢3ケタなんですか!?」

「天界では年齢という言い方はしません、何年生きているという認識で……」

「俺様も3ケタぞえ!4ケタ行ってやっと一人前ぞえ!」

「皆さん私より随分と年上なんですね、セディユお兄ちゃんイロイロ教えてください~ゴロゴロ~」

「…………」


 セディユは心底嫌そうな顔をウィンに見せた。


 天使との騒動から2週間が経っていた。

 その後、セディユを追う者は現れなかった。天界は完全にセディユを切り捨てたという事だ。それはセディユにとって大手を振って喜べる事でも無かった。

 セディユは最初の数日は部屋に篭っていたが、チルダに手を引かれ庭を散歩したりする内にウィンの前にも少しずつ顔を出すようになっていた。

 


「おーいウィン、バニラビーンズってある?」


 リビングに入って来たのはエプロン姿のシャープだ。シャープは屋敷のキッチンを使いこなし、毎日趣味の料理やお菓子作りを楽しんでいた。


「確か下の棚にあった気がしますが……随分古いものですよ」

「見てみるわ」

「猫兄!ばにらぶぃーんずで何するぞえ?」

「クッキー焼こう思って」

「えー!嬉しいです、可愛い猫ちゃんの手作りクッキー」


 ウィンは全身でウネウネと喜びを表した。それをシャープは「はいはい」と軽くあしらった。キッチン同様すっかりウィンの扱いにも慣れていた。


「クッキーって何ぞえ?」

「ピリオドクッキーを知らないのですか?」

「ウィンはそんなの作ってくれた事ないぞえー!」

「私はそういうの作れないので」


 ウィンは紅茶が好きでよく淹れた。だが、そこに合わせてお菓子を用意するなどという事は無かった。ピリオドがウィンとの生活でクッキーを知らないのも頷けた。


「俺はクッキーには特別自信あんで。ティータイムには旨いの食わしたるわ」


 シャープは楽しそうにキッチンに戻ろうとした。


「あ……あの」


 おずおずとセディユがソファーから腰を上げた。


「私も作り方を教わってもいいですか?」

「え!?セ……セディユさんが?」

「ダメでしょうか?」

「や……でも手とか汚れるで?」


 シャープはセディユの細くて美しい手を見て困惑した。


「私は長生きしていただけで身についた事なんてほとんどありません……」


 セディユは長い睫毛を伏せ続けた。

 

「もっと色んな事を学ぶべきなのかもしれない……そう思っています」


 シャープは『それがクッキー作り?』という顔を見せたが、すぐに笑った。


「うん!じゃあ教えたるよ」

「ありがとうございます」


 セディユはウィンには絶対に見せない笑みを見せた。


「ああああ~可愛い猫ちゃんと!美しい天使様が私のためにクッキーを焼いてくれるなんて!私の目指すべくハーレムへ近づいている証!」

「別にウィンだけのためちゃうで」


 シャープは呆れた顔を見せながらセディユの背を押してキッチンに向かった。


 ――――――

 

「あの天使どうしたぞえか!?」

「何がです?」

「お前たち下等生物がっ!クソがぁぁ!!死にさらせやぁぁ!!って言ってたくせに」

「いや、そんな口悪くないですよね……それに、私から見れば出会った時とさほど変わつていませんよ」

「そうぞえか?」

「セディユが気を許すのはシャープとチルダだけです」

「私とは会話してくれるようにはなりましたが、いつも目が変態を見る目です」

「変態だからじゃないぞえか?」

「え?」


 セディユは天界で生まれ長い期間を天界で過ごした。まだまだ心の整理もつかないだろうし、考えたい事も多いはずだ。今は干渉せず、見守るのが1番だろうとウィンは考えていた。



 

「ヒマぞえーウィン虐めがいのある奴とっつかまえに行くぞえ」

「ティータイムまで間がありますね……では近くを散策でも……」



 (ドォォォーーン!)

 突如窓の外で赤い光と共に轟音が響いた。


「おおおー!なんぞえ!天変地異ぞえか!?」

「地を割るような衝撃でしたね」

「ピカッってしたぞえ!赤かったぞえ!!」

「ピリオドが人間界に現れた時とよく似ています」


 ウィンとピリオドは顔を見合わせた。




 庭に出てみると地面に人1人分の穴が空き土埃を巻き上げていた。

 その土埃の中に人影……いや、人にあらず。そこには1体の『悪魔』が立っていた。


「悪魔……さん?」

「おお~ぞえ」


 背には悪魔の象徴である蝙蝠のような黒い羽。赤黒い髪からは左右対称に2本の巻き角、尻には尻尾があり、それは牛の尻尾に似ていた。


「牛さんのようで可愛い悪魔さんですねぇ」

「あれはミノタウロスの血筋ぞえ」


 ウィンは悪魔に熱い視線を送った。悪魔も燃えるような赤い目でウィンを……ではなくピリオドを見た。


「ピリオド探したのだ……魔界にいないと思ったら人間界にいたのだ」

「え?ピリオドのお知り合いなんですか?」

「『シグマ』ぞえ。魔界でよく遊んだぞえ」

「シグマさんというお名前なんですね」

「シグマ、俺様を探してたぞえ?もしかして、遊んで欲しくてわざわざ人間界まで追いかけて来たぞえか?」


 その言葉にシグマは表情を失くした。


「忘れたのだ?」

「ほえ?」

「ピリオド……忘れたのだ?」

「俺様、何か忘れたぞえ?」

「許さないのだ……」


 シグマはとてつもない殺気を出しながらウィンの肩に乗るピリオドに歩み寄った。

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