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曇りガラスの向こう

作者: 雉白書屋

 あれは……雀だな。


 明け方、目覚ましが鳴る前に目を覚ました男は、曇りガラス越しに浮かぶシルエットを見てそう思った。

 それは男があくびをしている間に、音もなく姿を消した。男は特に気にすることなく、再び眠りについた。


 あれは……鳩だな。


 翌日の明け方、また目覚ましよりも早く目を覚ました男は、窓の向こうに見える影を見てそう思った。丸みを帯びたその輪郭がベランダをちょこちょこ歩き回り、またふっと消えた。


 あれは……鴉だな。


 その翌日の明け方、今度は鴉の黒いシルエットが曇りガラス越しに浮かんでいた。「ベランダに何か食べ物でも置いてたか?」男はまだ靄がかかった頭でぼんやりと考えた。三日も続くと少し気にはなるが、ほうっておいても問題はないだろう。そう考え、また眠りについた。


 あれは……猫だな。


 さらにその翌日の明け方、今度は猫のような影が見えた。昨日、出勤前にベランダを見たときは何もなかったが、ひょっとして、あの猫がネズミの死骸でも置いていったのか? それで鳥が集まってきていた? 男はそう考えたが、眠気を振り払ってまで起きる気は湧かず、そのまままた眠りについた。


 あれは……犬か?


 翌日の明け方、男はそう思った。このアパートはペット禁止で、隣も犬を飼っていないはず。じゃあ、あれは野良犬か? いや、この辺りに野良犬なんているのか? 迷子犬か? でも、ここは二階だぞ。結構大きそうだし、どうやって……。

 さすがに気になった男は、布団をずりずりと抜け出し、窓の鍵に手を伸ばした。


 これは……なんだ?


 窓の向こうの影と目が合った瞬間、男は思わず息を呑んだ。

 それはマグロのような大きな目をしており、左右の目の間隔が異様に狭かった。

 男は鍵を開けるのをやめ、ゆっくりと手を引っ込めた。


 ――チッ。


 低い舌打ちが曇りガラスの向こうから聞こえた。そして、それは音もなく消えた。

 それ以来、男はカーテンを買い、毎晩閉めて眠るようにしている。

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