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先生あのね

作者: lemoncurry

「自分のことばかり考えるんじゃない」


 そう言われて僕は顔を上げる。その言葉はまるで天から降ってきたように感じたが、そこには見慣れた教師の顔があった。何のことだかさっぱりわからずに僕はただポカンとして彼の次の言葉を待った。

「このクラスの一員として、まず最初にクラス全体のことを考えるんだ。何がクラスのためになるか、クラスみんなのために自分に何ができるのか。それなのにおまえは自分のことばかり、自分が得をしたり楽をすることばかり考えている。おまえはずるいヤツだよ」

 僕にはこの男の言っていることが何一つとして理解できなかった。僕が自分で自分のことを考えないのなら、いったい誰が自分のことを考えてくれるのだ? 僕にはわかっていた。彼はクラス運営を行なうのに担任の教師として楽をしたいからそう言っているのだ。クラスがまとまっていることが担任教師の評価につながるから、教師として良い評価を得て得をしたいからそう言っているのだ。

 問題はそれを彼自身が無自覚なことだ。そんなことを彼に言ったら腹を立ててより攻撃的な態度を取ることになるだろう。

 うんざりだった。話してわかり合える相手ではない。話の通じない相手というのに出会ったのはこれが人生初めてではないが、担任の教師という絶対権力を持った相手がそうだとどうしようもない。こんな相手にはできるだけ関わらないのが一番だが、それが担任の教師となるとそうはできない。逃げ場がなかった。

 だから僕は表面だけは彼に合わせて従うことにした。でも実際は今まで以上に自分のことだけを考えるようになった。他のクラスメートがどうなろうと知ったことではない。彼らは彼ら自身で誰よりも自分のことを考えているのは知っているし、他人がそれに取って代わろうとするのは余計な迷惑以外の何物でもない。僕は心の底から教師を軽蔑した。


 結局僕は担任の教師だけではなく、自分の周囲にいる大人というものをことごとく軽蔑した。そこにはもちろん、両親も含まれていた。いや、含まれているなどと言う生易しいことではなくて身近である分、もっとも軽蔑していたと言える。思春期で反抗期だった、と片付けてしまうこともできるが自分が自分のことをより考えられるように、自分の将来のことを考えることができるように彼らを排除したかったんだと思う。自分以外の人間が自分のことを考えているという状況に耐えられなかった。誰かが僕の人生の責任を取ってくれるわけではないことを僕は知っていた。責任のない発言。それも本当に彼ら自身が考えたことではなく、どこからか引っ張ってきたいかにも常識を装った他人の意見の押し売り。だから彼らの意見は雑音以上のものではなかった。

 雑音を排し自分の人生に、自分のするべきことに集中しなければならない。それが僕の正義だ。自分のことを、自分の人生のことを、何よりも優先して考える。それが間違っていると主張するのなら、彼らは僕の人生を侵害しているだけだ。永遠に彼らとはわかり合えないだろうし、道を違え別の方向に進んで離れるべきだろう。


 僕はその選択をした。僕は自分の人生を考え、自分の人生を歩むことを選択をした。

 だから、自信を持っていい。自分の正義を支え、肯定するための人生を歩んでいい。その人生を。その人生の終わりを恐れなくていい。

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