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アイテム士ジッパの不思議なダンジョン  作者: 織星伊吹
◆第六章 戦火を交えて

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第48話

 コーラルは金の鞘を革帯レザーベルトに取り付け、空を舞う赤竜を見上げた。

「それにしても――本当に居たんだね……赤い……ドラゴン」

「小娘よ、何を言う。ここに気高いバベルサーガの血を継ぐ我が――」

「いや、いいからそういうの」と、ジッパが呟いたとき――。


 辺りで大きな爆発音が轟いた。猛々しい男たちの悲鳴が同時に聞こえてくる。


「ハッハッハ……オレたちの十八番はこいつだよ、爆弾ってやつさ。知ってるか」


 もくもくと立ち上がる灰褐色の爆煙の中から現れたのは、煤汚れたカイネルだった。彼の両手にはそれぞれ黒い球体と、赤い筒が何条にも束ねられたアイテムが握られている。


 カイネルは付近に倒れている仲間であるはずの団員たちには目もくれず、自らの手に収まっている危険物をにやりと見つめ、その指先はサンドライト騎士団たちへ向けられた。


「アンタらが来たせいでオレの計画は滅茶苦茶さ。本当にとんでもないことをしてくれた。どう責任を取って貰おうかと考えていたところなんだが……」

「大変申し訳ありませんが、どういった要望であれ応えることはできませんわ。……貴方がSランクアイテム《飛竜の火炎薬》を不当所持している大罪人――『心許ない爪元』の団長である限り」


 ヴァレンティーナは騎士らしく礼儀を持って一礼し、《白金の剣》を構えた。

「ハッハッハ、ご名答。美しいお嬢さん。如何にもオレが『心許ない爪元』団長のカイネル・ピッカーだが、大変申し訳ない。《飛竜の火炎薬》は既に失われた。この【封印のダンジョン】への道筋を確保するために、今回用いたってわけだ」

「カイネル……じゃあ君がッ」とジッパは身を乗り出した。


 あのとき起きた唐突な地割れは、『心許ない爪元』が【封印のダンジョン】への道筋を作る際に起こした事象だということらしい……だとしたらとんでもない威力だ。Sランクアイテムだというのも頷ける。


「おおっ……耳が聞こえるようになったぞ……! 何だかよくわからんが貴様が『心許ない爪元』に関連していることは理解した。即刻捕らえて独房にぶち込んでやる!」


 部下たちと一緒に爆発に巻き込まれていたデイドラは煤まみれの甲冑を叩き、身の丈ほどの分厚い鉄塊――《両握剣ツヴァイハンダー》を向ける。


「ハッハッハ、おじさん。パール姫の拉致に関してはそこの帽子の男の方が一歩リードさ。何でもかんでも犯罪者に罪を擦り付けるのはよして欲しいね」


 困ったように、お決まりの両手を上げる仕草で、カイネルはにやりと笑った。


「何だと……ん? 貴様はいつぞやの無資格者ではないか! 貴様も犯罪者仲間かッ」


 カイネルに言われたとおり、デイドラはジッパに疑惑的な視線を飛ばしてくる。


「えっ、い、いやっ……僕は決して怪しい者というわけでは」


 傍目から見ても怪しいのは確かだが、この場でジッパはそう言う他なかった。


「……どうやら厄介毎は常々増えていくようだな」


 カイネルは何やらぶつぶつと言いながら、瞼を閉じる右腕を前に出した。

 ――そこから放たれた銀色の閃光が中空を駆ける。

 途端、ジッパは叫び声を上げる。

 その声に少し遅れて反応するように、騎士団は行動を取るが――既に時遅く。


「……え?」


 カイネルから放出されたかぎ爪の付いた縄は、コーラルの肌を傷付けることなく、胴体部分で巻き上がり、コーラルは引っ張られる形で宙を飛んだ。そのままカイネルの元に着地すると、目を閉じたままのカイネルが、冷たいダガーをコーラルの首筋に優しく当てた。


「今から全員一歩も動くな。動くとこいつらを爆破させるぞ」


 カイネルの足下には幾つもの爆弾が広がっていた。


「……ッ!?」


 カイネルの言葉を聞いている途中で、ジッパの視界は真っ暗になってしまう。どうやら視覚が封印されてしまったらしい。


「オレからの要望はただ一つ。ここのダンジョンの主、あのドラゴン討伐後のアイテムを明け渡してもらうことだ」

「カイネルくんッ……」


 コーラルの悲痛にも似た声が虚しく響く。

 カイネルが所望するアイテムを持つ対象をジッパは見上げることができない。カイネルと同じくこちらも視覚を失っている状態だからである。しかし、天から響く咆哮で未だ空を舞っていることを知る。


「要望は引き受けます。ですからパール姫には傷一つ付けないでいただきたいですわ」


 鬼の形相でカイネルに突撃を試みるデイドラを制止しながら、ヴァレンティーナは冷静に言葉を綴った。


「……聞こえなかったか、全員と言ったぞ」


 カイネルは不適な笑みを浮かべながら、自身の背後から迫る小さな足音に語りかける。


「……もう……よく……わからない。ラーナはあなたが消えれば……それでまんぞく」

「ラーナッ、ダメだ!」


 自らの聴覚に頼り、声のする方へジッパは叫ぶ。声色から表情の変化を知ることはできない。ラーナが今何を考えているのかはわからないが、彼女は詠唱を開始した。


 舌打ちをするカイネルを嘲笑うように、赤竜が空でばさつく音をジッパは聞いた。視覚が失われたジッパでも、赤竜が何かしらの行動を起こそうとしていることは明らかだった。


 ――瞬時、ジッパは肩に乗せていたクリムを指差した方向へ。

 事は一瞬だった。大きな爆破音とともに黒煙が舞う。


 一体何が起きたのかジッパには視認することが出来ない。しかし、鼻腔を刺激する特有の匂いは先ほど嗅いだものと同じものだ。竜の焔。


 天から降り注ぐ火球。それに対しラーナは“魔粒子”から精製した風の塊をぶつけたのだ。相殺しあう二つの力の狭間をクリムは飛び、ラーナを爆風から救った。その一方でジッパは微かに香る薬品の匂い辿り、床に敷き詰められた爆弾一式を《異界への鞄》へすべて突っ込んだ。


「くッ……」


 勢いよく流れる火風にデイドラとヴァレンティーナは身を縮こまらせ耐える。

「一体アンタは何がしたいのか、オレにはよくわからんな」

「元より爆発させるつもりなんて無いんでしょ、だから拾っただけだよ。落ちているアイテムは誰にでも拾う権利があるからね。ダンジョンの三秒ルールって知らない?」


「何故オレが爆発させないと?」

「単純に君が女の子を傷付けると思えなかったってだけだよ。まあ、強いて言うなら視覚を封印されているよね? それくらいかなあ、あとはなんとなく」

「……最初から思っていたが、変わり者だな、アンタは」


 カイネルはくすりと笑うと、手元で鈍く光らせる物を投げ捨て、両の手を上げた。


「降参だ……と、言ってもそんなにのんびりしている場合でも無いと思うがな」


 カイネルは人ごとのように上の空で降伏した。


「ひ、姫様ッ……!! ご無事ですか」

「うん、だいじょぶ……デイドラ、ちょっとじゃま」

「なっ……」


 急ぎ足で駆け寄ってきたデイドラの表情を固めさせて、コーラルはきりっとした目付きでカイネルの前に立ちはだかる。


「……パール姫ですか? 先ほどは申し訳ありませんでした。間接的にとはいえ、あなたに恐怖とお怪我を負わせてしまいました。……ああ、是非とも怒っている表情も見てみた――」


 カイネルが軽い口調で微笑みかけたとき、肌を思い切り打ち鳴らす音が付近に響いた。


「……カイネルくん。わたしね、怒ってるんだよ。あなたが犯罪組織の団長だろうと、誰だろうと、そんなことは問題じゃなくって、わたしやジッパ、ラーナちゃんをずっと騙していたってことに凄く腹が立つの!」


 コーラルは目の端を光らせながら、声を張り上げる。


 叩かれた方向へ顔を放り出したまま、カイネルはぽかんとした表情で元の位置に戻った。

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