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アイテム士ジッパの不思議なダンジョン  作者: 織星伊吹
◆第四章 道草は冒険家の醍醐味

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第20話

 無事アイテム資格試験の申し込み後、二人はサンドライトの城下町を歩いていた。


「試験は二日後か……どうなんだろうなあ」

「だいじょぶだいじょぶ、何だかそんな気がするよ」


 となりで青年の歩調に合わせるコーラルはひたすら笑顔で、野に咲く花のよう。


「どこにそんな自信があるのか、すごく疑問だよ」

「ふふ、だいじょぶだから、だいじょぶなんだよ! わたしわかるの! それよりジッパこそなんの資格を受けるの? なんか教えてくれないし……」


 青年を横目にじっと見ながらコーラルは少し頬を膨らませた。


「へへ、後のお楽しみだよ」

「ま、いっか。どうせ後でわかるもんね、じゃあ今はお買い物の時間! はやく行こっ」

「うわっ……あんまり引っ張るなってば、コーラル!」


 コーラルはジッパの袖を引き、市場の人混みにも怯まず進んでいく。


「だってわたし早く冒険の旅に出たいんだもの! ジッパもそうじゃないの?」


 コーラルの純枠なまでの探究心は見ていてとても美しいものだと思うが、一方で、それは汚れを全く知らない無知な夢見る少女でしかなかった。


 実際にダンジョンに潜ったとして、そこで突き付けられる数々の現実を目前にしても、彼女は果たして今のままでいられるのだろうか――コーラルが思うように、素晴らしいことばかりが現場に転がっているわけではないということをジッパは既に知っていた。


 それ知るとき――少女は宝石のような瞳をくすませる時がきてしまうかもしれない……。


(それは……なんだか、嫌だな)


 青年は会って間もない少女の悲しげな表情を想像すると、少しだけ気が重たくなった。


 それを知ってか知らずか、やけに明るい声のコーラルが人差し指を突き立て声を上げる。


「あ! ここは薬屋さんかな? 初めて観たー」


 煌めく彼女の双眸の先には、日陰に立つ木棚が並んでおり、フラスコに入った色とりどりな薬品はコーラルの天真な好奇心に火をつけたようである。


「《ブルーポーション》とかもいくつか買っておかないとな。食料もだし、とりあえず準備しといて損は無いしね――っていうかその前に鞄かな、僕の愛用品は王国に没収されちゃったし、代用品をどこかで買わないと」


「買わなきゃいけない物がいっぱいだね!」

「そうだね。うーん……せっかくだし、必要な物は今買っちゃおうかな」

「さんせーい!」

(世の冒険家連中はこんなに呑気な奴らばかりなのか)と、クリムが思った矢先――。

「いらっしゃい」と日陰から出てきた店主に、ジッパはいくつかののアイテムを要求した。


「《ブルーポーション》が四つ、《毒消し草》が二つ、《鷹の目薬》が一つ、《気付きの種》が一つで……銅貨九枚ね。じゃあ、『第三種薬物類所持証』見せとくれ」

「……そうきたか」



 ――結局まともな買い物をすることができず、二人は冒険家試験に関するめぼしい情報を求めて城下町を歩いたが、入手することが出来なかった。


 そして迎えることになった“アイテム資格”試験当日――。


「では……『第一種帽子特殊知識取扱資格』についての筆記試験を行います。この資格を所持していると、ランクB~Aの帽子類に分類されるアイテムを理解したものとし――識別、制作、改造、分解、販売などが公の場で認められることになります。詳しくは小冊子をご確認ください。『第一種帽子所持資格』を受験する場合は、筆記試験後に実技試験を実施しますので、そのままお残りください」


 初老の男性は穏やかな声で淡々と説明を進めていく。


 ジッパはコーラルと別れ、各々が受験する試験会場へと向かった。試験会場は特に規定されているわけでは無く、そのときの受験者の数、内容によって王国が都度変更する。


 コーラルは『第三種刺突剣所持資格』を受験するため、開催場所である【ガロン鍛冶工房】へ向かい、ジッパは【ハイトンの帽子屋】に来ていた。


 初老の試験管の合図と共に配られた羊皮紙をめくり、手で数えられるほどの受験生たちは、早くも記載された問題に頭を抱えていた。


(勉強なんか特にしてないけど、だいじょうぶなのかな……?)


『特殊知識取扱資格』では、筆記試験、『専門所持資格』では実技試験を主な内容としている。


 特に筆記試験では、この世に二つとない“不思議アイテム”についての知識や理解も当然求められるため、かなり難題とされる。


 試験に出題される“不思議アイテム”について、冒険家たちはダンジョン内で自由に手に入れることができるが、三種のダンジョンどれに該当しようと、冒険家協会に“不思議アイテム”の“入手報告”を百二十日以内にしなければいけない義務がある。


 結果として、試験問題は日々増え続けているが、どの問題が出題されるか、その傾向は未だ不明で、無作為であると云われる。さらに“入手報告”を受けていない、冒険家の間や、協会内部で想定された情報や噂を元にした、予想問題といわれるものも存在する。そのため、出題された試験問題と受験者の相性によって、合否は大きく左右するのだ。


 冒険家に求められる能力の中に“柔軟な思考”と“応用力”というものがある。


 出題された問題がわからずとも、冒険家は脳髄という部屋の中に転がっている情報や、知識、経験といったものを頼りに思索する必要がある。


 それはダンジョン攻略においても全く同じ事がいえるだろう。冒険家にとって、アイテムとはある意味命に等しい。所有しているアイテムを如何に扱うかが、生死を分けるときだってあるのだ。


 自分の中に蓄えた経験や知識を土台に、アイテムが持つ効力を武器にして、周囲の環境や、取り巻く状況の判断を行う――そして出題された難問に対する、己なりの思考内の計画を行動に移すための度胸。これらは冒険家に求められる全ての要素である。


 経験、知識、環境、状況、度胸――その全てが常に冒険家の味方で有り、敵なのだ。


(うーん、なんだか変な問題ばかりだなあ……これで合ってるのかな)

 ジッパも他の受験者と同じく被った帽子のつばを指で擦りながら悪戦苦闘する。


・問二〇

 種別、帽子類ランクAの《気紛れ道化師の帽子》は、『風来の冒険家』による“入手報告”を受けた協会が認知する“不思議アイテム”であるが――では、このアイテムの効果とその能力において起こりうる現象を五つ以上答えよ。


(あ、これ……僕の帽子だ)

「……試験問題以外の質問がある者は手を上げなさい」

「はい」


 ジッパは穏やかな初老試験管に向かって、


「あの……問題は終わったのですが、すぐに退出しても構いませんか?」

「構いませんよ、よほどの自信があるのですね」

「いえ……時間が無いだけです、へへ、ではっ、次に行ってきますね! また実技試験で帰ってきますから、それでは~」


 試験管が首を傾げ、忙しなく退出したジッパが筆を走らせていた羊皮紙を手に取る。


「……ほう」


 そこには羊皮紙の裏までびっしりと青年の字で埋め尽くされていた。《気紛れ道化師の帽子》の能力において、起こりうる現象が少なくとも三十以上は書かれている。


「そうか、あの子は……ふふふ、冒険家というのはどうしてこうも破天荒な人ばかりなんでしょうね。彼が被っていた帽子――あれは……」

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