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アイテム士ジッパの不思議なダンジョン  作者: 織星伊吹
◆第三章 冒険の旅に出る前に

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第17話

「――さて、じゃあこのくらいで今日は解散にして、また明日ここに集合しよう」


 既にパールは姿を消しており、ウッドテーブルにはジッパとコーラルが座っていた。


「解散……ジッパ……あの、わたしお金持ってない……」

「え? なんで?」


 思わず聞き返す。


「えっ、ええと……たんに持ってないだけ」

「ふうん……え? それで?」


 コーラルの言っている真意がジッパには全く理解できなかった。


「……や、宿屋に泊まれないの」

「……あー、そういうこと……コーラルこの辺に住んでるんじゃないんだ、サンドライトに家があるんだと思ってたよ、一体どこに住んでるの? ……そういえばなんであのとき独房に――」

「ああ、えっと……隣町からきたんだよっ、うんっ、隣町から」


 コーラルはジッパの言葉をかき消すように声を張り上げて、きょろきょろと首を振りながら頬を掻く。


「…………なんか怪しいな……」

「そ、そんなことないよっ、あ、あははっ……そ、そんなことより早く行こ行こっ!」


 コーラルはジッパの腕を取ると、柔らかな胸に押しつけて酒場のカウンターへと向かう。


「ちょ、ちょっと……コーラル!? そのっ……」


 女らしさが色濃く出る立体感のある胸部は、スラリとした身体のわりに服の上からでもわかるくらいに膨らんでいる。


 身体を密着しているからこそわかる――良い香りのするコーラルの体臭と、ふにゅっと自分の腕を包んでくれている柔らかな二つの双丘に、ジッパはこれまで感じたことの無い不思議な目眩を覚えたが、だからといって力を込めることもできず、青年はただ腕を引く少女の言いなりになっている。


「ジッパ、だからね……わたしをこの宿屋に泊めて欲しいの……お、お願い」

「……え? それって」

「お金……貸して欲しいの」

「だ、ダメだよ、僕は人にお金は貸さない主義で――」


 二人の会話に割り込んだのは先ほどまでジッパと会話をしていた褐色肌の女だった。


「あー今ね、二人部屋が一つしか開いてないんだけど……そうね、かわいい二人組だし……お二人さん銀貨一枚で一泊させてあげるわよ~うふふ」


 その笑みは明らかにジッパをからかってのものだったが、青年は渋々懐から銀貨を一枚取り出した。


「し、仕方ないな……じゃあ……二人……で一泊……でっ!」


 若干頬を染めながらジッパは自棄にも似た叫びで、銀貨をカウンターに置いた。



 * * *



 翌朝――小窓から差し込んでくる陽の光を浴びながら、青年は細目で辺りを確認する。


 背中には何やら柔らかなものが触れている。


(……コーラル?)


 青年は未だ寝ている自分の脳髄を必死に巡らせて、現状を理解しようとした。


「んっ、うぅん……」


 ジッパが身体を揺すると背中から妙に艶めかしい声音が青年の耳に留まる。


(ええと……ど、どうしようかな……)


 対面のベッドから何故だか移動してきているコーラルが、ジッパの背後から抱きついたまま寝ている。青年の背中には柔らかな二つの膨らみがぎゅっと押しつけられていて、ジッパの研ぎ澄まされつつある若人らしい神経細胞は、全てそこへ集中していた。


(寝ぼけてるのかな? でも……柔らかいなあ)


 ジッパの根底で眠っていた欲望にも似た煩悩がゆっくりと起き始めた。ずっとこのままでいられたらどんなに幸せだろうか……と青年は頬が自然とにこやかになっていくのを止められない。


 生物の真髄ともいえる本能的な衝動が青年の心を蝕もうしている。情欲を欲しいがままに主張し続ける身体の一部と、自制心持った人間としての良心が内外で対立する。


(ば、ばか……一体なにを考えているんだ僕は……)


 ジッパは顔を小さく振りながら、背に感じるその柔らかさをもっと感じていたいと思う。こうなったら、わざと自分の身体を少し動かして、擦れる柔肌の感触を楽しんでしまおうか――と考え始めた矢先であった――。


「……ジッパよ」

「ひいぃ!」


 自分の脇腹辺りに相棒の小竜が翼を畳み躰を乗せる。


「くっくっく、何もそんなに驚くことは無かろうが。……しかし、やはりお主も雄なのだな。朝はいつも弱いのに、今日は随分と目覚めがいいでは無いか」

「た、たまたまだよ……」


 ジッパはあくまで知らんふりを決め込んだ。


「くっくっく、別に我は止めないがな。人間の愛欲などに興味は無いわ、交尾をしてみたいのならば、声でもかけてみれば良かろうに」

「ばっ! そ、そーいうのは……違うんだ、人間は……ちゃんとした道徳心ってものがあるの、犬や猫とは違うんだよ」

「フン……お主のその考え自体が既に種の差別発言であると思うがな。それにお主……道徳心とか言っているが、さっき小娘の乳を自分から擦りつけていなかったか」

「そ、それは……ち、違うってば!」

「んー……なあにぃ」


 むくりと起き上がったコーラルがはだけた服装のまま、とろんとした瞳のまま言う。


「あっ……コーラル、お、おはよ。よく眠れた?」

「あぅ……おはよぅ」


 ふわふわとした金の髪が可愛らしい寝癖を作り上げている。コーラルは目を擦りながら小さな口で大きくあくびをすると、長い睫毛を少しだけ涙で湿らせた。


「ふたりとも……何を話していたの?」

「ええと……」


 ジッパとクリムはお互いの顔を見据えると――。


「生物の……在り方について……?」

「くっくっく……」

「はあ……生物?」


 こうして“地図無し”の自称冒険家たちの冒険譚一日目が始まった。

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