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アイテム士ジッパの不思議なダンジョン  作者: 織星伊吹
◆第三章 冒険の旅に出る前に

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第16話

「……そ、そんなの関係ないよ、それに……あなたこそ無資格でダンジョン潜ったりしてたんでしょう、今更正式だなんだっていうのはおかしいと思う。それに達成を保証できないのはどんな依頼に対してもそうだよね、どんな依頼にだって絶対なんて言葉はないはず。精一杯頑張るからねってことを依頼主さんに伝えて、それを認めてもらえればわたしいいと思う。わたしは困っている人を見捨てることなんてできないよ!」

「僕は見捨てるなんてことは言ってないよ、直ぐに答えを決めつけるんじゃなくて、もう少し考えてからもっと最適な道を選択してもいいんじゃないかってことを言いたかったんだ。道を踏み外すのは命取りだ。ダンジョンでは」

「もぅ……ああ言えばこう言う! もう、ふん、バカ! あ、あなたのバカ!」


 青年は未だお互いの名前さえ知らなかった事に気がつく。


「……僕の名前はジッパだよ。あなたじゃない」

「…………ふんだっ」


 すっかり拗ねてしまった金髪の少女は背を向けながら椅子にとすんと再び座り込む。


「……あの、お二人はこれから冒険家試験を受けるのですか?」


 きょとんとした顔で二人の寸劇の観客となっていたパールが訊ねる。


「……あー、ま、まあ一応」


 本当に自分は冒険家になりたいのか? という疑念をまだ持っていたが、成り行き上頭を掻きながら頷くこととになった。


「まあ! それならば……今回のこの依頼はうってつけかも知れません」


 胸の前で白い手をパンと合わせると、にっこりと麗しい顔を緩める。まるで聖女のような笑みだと青年は思う。


「どういうことですか……?」

「わたくし必死に調べました! その情報によりますと……どうやら《緋色の泪雫》が眠っているダンジョンには、あるダンジョンを経由してでないと行けないらしいのです。……その経由するダンジョンというのが……いまから一週間後に行われるという噂の冒険家試験で潜行することになっているというのです」

「えっ! なにそれ、すごい! 試験の情報だよね? ねえ、やったよジッパ!」


 何やら機嫌は直ったらしく、表情をぱあっとさせて、尻尾を振る犬のように爛々と瞳を輝かせている。


「……ていうか僕まだ君の名前も聞いていないんだけど」

「あー…………そうだっけ? あはは、えっと、わたしはねえ~……コーラル。――コーラル・ルミネスっていうの」


 少女は照れ笑いを浮かべながらにっこりと笑う。青年はその眩しい笑顔を見据え、少し思考を巡らせる。


 そして、少しその宝石のような青の瞳を見つめながらに訊ねる――。


「……コーラル。君は本当にパール姫の依頼を受けるの?」

「……受けるよ。だって、困っている人を放っておけないもん。それにそのアイテムが……なんだっけ、なんとかの爪に渡っちゃったら……きっととても大変なことが世界に起こるんでしょう? それを黙って見ているだなんて、できないよっ」

「……さっきも言ったけど、きっと君が考えている以上にずっと危険だと思うし、大変な依頼だよ。きっと『流浪の冒険家』や『風来の冒険家』くらいの冒険家が適任だと僕は話を聞いていて思ったな。経験も知識も持たない素人同然の君がダンジョンに潜ったら……もしかしたら最悪……君は死ぬかも知れない」


 死。それは溌剌とした元気の塊のような彼女には最も似合わない言葉だ。


「……頑張るよ、わたし……凄く頑張るからっ!」


 コーラルは意思の強い瞳を凛と輝かせる。その双眸の先は――ジッパでは無く、依頼主である、パールだった。


「わたくしは……貴方がたにこの依頼を受けて頂きたいと思っています。報酬は……何でも貴方がたが望む者を約束します。ですから……どうか」


 手を合わせて拝むような動作をしてくるパールを横目にジッパはもう一度コーラルに確認する。


「……コーラル、後悔しない? 絶対諦めないって誓える?」

「しない。わたしは絶対に冒険家になってみせるし、パール姫の依頼を必ず達成してみせる。わたしは……物語の英雄のような冒険家になりたいの」

「…………」


 一体何が彼女にそこまで強い瞳をさせるのか、ジッパは純枠に探究心をくすぐられる。


 自分一人なら、この依頼はきっと断っていただろう。自分の把握する力量を超えていたり、周囲の環境や、条件が悪かったり、事前情報の少なさは冒険家にとって間違いなく命取りになり得るのだ。青年は今まで潜行してきた数々のダンジョンで培ってきた経験を元に、得たそれらを見極める能力にも長けていたつもりだった。


 ――正直に言おう、彼女だけでは間違いなく死が直結している。ダンジョンで白骨化した頭蓋となっている姿を想像してしまう。


 ――世界を救うのは冒険家の役目じゃない。彼女の中で創りあげられている理想の冒険家像を青年は崩したくはなかった。そのとき、彼女が一体どんな表情をするのか、それを考えるだけで青年は胸が苦しめられる。


 ならば――。


「……ふう、わかったよ。なら……僕も一緒にその依頼を受けさせてもらおうかな」

「……ジッパっ」


 じんと瞳を潤ませた表情のままコーラルは再び立ち上がる。


「どうせ冒険家になるには試験も受けないといけないんだし、ある意味一石二鳥とも言えるしね、ダンジョンにおいて複数の行程を一つに省略するのはとても利口的な考えだよ」


 少なからずダンジョンに対しての知識や経験を有する自分がコーラルをサポートしてあげればいい。彼女が笑顔で依頼を達成できるように支えてあげればいい。“アイテムロスト”してしまった今、微力かも知れないが、少しでも達成率は上がるはずだ。


「ああ、ありがとうございます……本当に……ありがとうございますっ」


 パールは頻りに頭を深々と下げていた。コーラルはそんなお姫様の肩を叩き、「絶対にがんばるよ、待っててね」と声をかけていた。


 こうして、冒険家としては未だ世間で認められてもいない、自称冒険家――『地図無しの冒険家』であるジッパとコーラルはパーティーを組むことになった。


 ――その目的は二つ。


 一つは冒険家の試験を合格し、無事正規の冒険家となること。


 二つは《緋色の泪雫》を手に入れ、『心許ない爪元』に所持させないこと。


 二人の小さくて、大きな冒険譚が今――始まろうとしている。

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