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アイテム士ジッパの不思議なダンジョン  作者: 織星伊吹
◆第二章 何者かの懇願

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第10話

 褐色肌の女は呆れた表情のままふうと息をつき、カウンターに手を組んで細い顎を乗せた。


「……アンタ、本当に何にも知らないんだね……遠くの山奥からでも来たの? まあ別にいいんだけどさ……ローグライグリムに存在するダンジョンってのは大きく三つの種類に分かれているんだよ、一つは【王国のダンジョン】その名の通り王国が所有しているダンジョン。比較的規模の大きなものが多いわね、協会が規定した難易度に乗っ取って国が決定した難易度があって、それに適した冒険家でないと冒険許可が下りないわ。【王国のダンジョン】に潜りたいって場合は三日前の事前申請と厳しい検問を通らないとまず許可されないの。ダンジョンの入り口にはしっかり衛兵が交代制で見張っているから、忍び込むことは不可能でしょうね」


 意味も無く面倒くさいだけで、一体それになんの意味があるっていうんだ? 褐色肌の女はそんなジッパの思考読んだように流暢な話しぶりで続けた。


「【王国のダンジョン】は三つのダンジョンの中で一番王国と協会の結びつきが強いダンジョンなの。事前申請や検問は確かに面倒かも知れないけど、それだけ王国の手厚い支援を受けられるってことだよ。例えば、ランクB以上のアイテムを持ち帰って王国に提出すれば莫大な富と名声が手に入るし、もちろん協会からの評判も上がって冒険家ランクも上がるわ。それに……【王国のダンジョン】には騎士団も定期的に潜っていて、負傷した冒険家などの救済や援助も行ってくれるわ。まさに王国、協会一丸となってダンジョン攻略を目指せるというものね」


 褐色肌の女はカウンターから一枚の紙を取り出すと、艶めかしい指先でなぞりながら、


「これが【王国のダンジョン】申請書。名前、申請パーティー、冒険家ランク、所持資格、持ち込みするアイテムなんかを記載して、ここで受付すれば、酒場から王国に提出したあと王国で検問が始まって、申請が許可されれば三日後には“冒険許可証”を発行してくれる。ダンジョン入り口の衛兵にそれを見せてあげれば、潜る事ができるってわけよ」


 ジッパは手渡された申請書を隅々まで確認する。ダンジョンに潜るためにこんな物を毎毎書かないといけないなんて、王都はやはり何かと面倒くさい。


「……凄くきっちりしているんですね」

「そりゃそうよ、お国の仕事ですもの。そしてこの酒場の存在意義でもあるわね」


 褐色肌の女は満足したように豊満な胸を突き出し、ジッパの揺れ動く瞳孔も気にせずそのまま喋り続けた。


「二つ目は【個人のダンジョン】……この世界には未だ幾つもの未発見ダンジョンが存在しているのは知ってる? 王都国領土内で発見したダンジョンに関しては強制的に王国の資産として、【王国のダンジョン】に属されることになるんだけど、王国領土外の未発見ダンジョンに関しては、この限りでない……つまり個人資産にするか、王国に譲渡するかを選べるってわけ、個人の資産として自分で持つ場合は【個人のダンジョン】に分類される。もちろん冒険家で無くても発見するだけなら、ダンジョンの所有者になれるわ」


 三日前前の白髪頭の男を思い出す。【夢と希望のダンジョン】だとか、ここは俺のダンジョンだ、とやたら言っていた気がする。あれは、あの男の資産だったという事だろう。


 ジッパはその個人資産に無断で侵入し、挙げ句の果てにダンジョン内部で手に入れたアイテムを自分の有物として何食わぬ顔で持ち帰ろうとしたのだ。衛兵に捕まっても、文句は言えない。


「ダンジョンっていうのは定期的に潜ってモンスターを倒したり、アイテムを入手したりしないと溜まった“魔粒子”が暴発することがあって、それを“漏魔ろうま”というんだけど、ダンジョンから“魔粒子”が溢れ出ちゃって、周囲の環境がダンジョン同様になってしまうことがあるのね。

まあそうなる前に王国が冒険家協会に調査を依頼するか、王国の騎士団が動き出すとは思うんだけどね。……だから比較的小さくて管理しやすいダンジョンは【個人のダンジョン】には向いているね、大規模なダンジョンは王国に譲渡した方が名声も富も得られるし、よっぽどな理由が無い限りはそうしてしまった方が無難だと思うけどね。ダンジョンを個人経営する場合は、大体が冒険家から金銭を受け取る代わりにダンジョンに潜る許可を与えて潜ったりしているようね、ここは所有者の決めた制約に従う必要があるわ。

……まあ中には勝手に入るような奴も居るみたいだけど。難易度レベルも協会が定めた難易度に基づいて個人が決めたものだろうし、適当なところだとそれすら無かったりもする。所有者の合意を得れれば王国への申請も必要ないし、冒険家のランクも関係ない。【王国のダンジョン】と比べると束縛も少なくて、とても自由だから、これを好んでいる冒険家も少なくないわ」


 自分が三日前にした醜態がとたんに恥ずかしくなってきた。泥棒もいいところだ。無知とは恐ろしいものだと、青年は改めて肝に銘じた。


「そして三つ目が【不思議のダンジョン】王国が所有するでも無く、個人所有でも無い、無法地帯ダンジョン。

――発見後、王国に譲渡せずに個人資産にもしない場合がこれに分類されるわ。あたしはよくわかんないけど、冒険家の中にはロマンを何より大事にする連中が居るらしくて、発見者としての名は刻むけど、【不思議のダンジョン】のままにする冒険家も案外多いみたい。もちろんダンジョン申請の必要もないし、難易度も冒険家間の噂や情報、実体験による目分量でしか無いらしいわ。一応冒険家協会側でもある程度研究がされてきた【不思議のダンジョン】に関しては難易度を設定してくれていたりもするらしいけど……

とにかく未知のダンジョンが多くて、その分危険も多いわ。未だ発見すらされていないダンジョンや、最深部への到達者が0のダンジョンも少なくないそうよ。内部には死亡して白骨化した冒険家も多くて、最も“魔粒子”の濃度が高く、“漏魔”しっぱなしのダンジョンも数多くあるって話」


 万物の不思議な力の根源である“魔粒子”、“不思議アイテム”の精製に必要不可欠であり、ダンジョン内部に蔓延るモンスターたちの生命の源。それは歪みきった次元の成れの果てであり、現在の人類にとっては好き好んで近づくようなものでは決してない。


 だからこそ王国の監視下であるダンジョンへの潜行許可は冒険家にしか下りないのだ。


 世界に何故このような奇異の源が猖獗しているのか、それを求め世界を巡る冒険家たちも少なくないという。


 そして――その存在意義が不明瞭な歪みの源流が漏魔するということは、世界に与える影響もとてつもなく大きいといえる。


「ローグライグリムに存在する三つのダンジョンのを総数で比較したら間違いなくダントツで多いわね。あたしたちの暮らしているこの【イントラへヴン】からは想像もできないけど、未知の大地と言われる【アウターヘル】には未発見の【不思議ダンジョン】が星の数ほどあるって話よ。想像してみなさいよ、そんな膨大な数のダンジョン全てが漏魔でもしていたら……。【アウターヘル】全土がダンジョン化してると言ってもいいくらいよ。考えただけでも震えが止まらないわ……だから一部の冒険家しかその地を踏むことが許されないのよ、【アウターヘル】は」


 未知の大地――【アウターヘル】。途方も無く広いこのローグライグリムの世界の約七割ほどを占める広大な大地。もちろん知っていたが、改めて考えてみると、【イントラへヴン】の中で生きている自分にはきっと理解を超えた万物が存在しているに違いない。例えば――ダンジョンの内外問わず、空に浮かぶ雲よりも大きな巨大生物が歩行していたり、この世界を創り出した神様が存在するかも知れない。とんでもなく強力な力を持った“不思議アイテム”が無数に存在したりもするのだろう。


 【イントラへヴン】から追い出された種族たちは一体何処で何をしているのだろう。


 全てわからない。未だ世界は未知数で――世界の三割ほどしか人類は知らない。


 ジッパは内心で震えた。それは恐怖に対するものなのか――それとも掻き立てられる探究心だろうか。青年はにやけそうになる頬をぐっと堪えた。


「あたしから言えるのは大体それくらいね、因みに冒険家試験に関してはあまり言えるようなことはないわ――冒険家協会が秘密裏に年に一度何処かで開催しているということ、協会が指名する試験管の責任の下行われるってことくらいしか知らない。ただ……試験には毎年数千人を超す志望者がいるって話だけど、大抵が試験会場までたどり着けないって話だね。試験の難易度も試験管に徹する冒険家次第だって話だし」

「そうですか……色々教えてくれてありがとう」

「んふ、アンタがいっぱしの冒険家になったら色々と……サービスしちゃうわよっ」

「んぉ……そ、それは……あ、ありがたき……幸せ……です、なあっ」

「あっはっは、なんだいそりゃ、変な子だねー……あっ、そうだ。……ほら、そこあるのがこの酒場に毎日のように舞い込んでくる依頼を張り出している依頼ボード。何だったら幾つか見てみたらどう? 流石に“地図無し”でも構わない、なんていう依頼は無いと思うけど」

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