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男性冒険者の奇行

「うっーす」


時刻は真っ昼間。

ギルドはいつきても騒がしい。


古臭い紙のにおい。

これから冒険にでるハラハラ感。

そんな空気で満ち溢れている。


結構好きだ。


冒険者はリスキーな職だが、妙な中毒性がある。

日中はスリルを、夜は食事と酒を、存分に楽しむ。

明日はないかも、と今日をめいいっぱい生きることができる。


「(今日はどんな依頼があるかなっと・・・)」


適当なクエストを依頼版から取り、受付に向かう。


「このクエスト受けたいんですけど」

「手付金500Gお願いしますね~」


にこやかな笑顔で応対する受付嬢にうっとりしながらも。

俺は手付金の500Gを渡して、受付嬢をその場で待つ。


「(やべ、急に腹下ってきた・・・)」


いつもなら気にならないのだが。

ギルドの喧騒がうっとおしい。

なぜだろう。


便意が限界を迎えそうだからだろうか。

お尻が緊急事態のため、全ての感覚が研ぎ澄まされているのだろう。


ふと思った。


「(ここで脱糞したらどうなるんだろうか)」


この喧騒は消え去るのだろうか。

みなは自分のことを軽蔑するのだろうか。

というか、これだけの人数。俺だとばれないのではなかろうか。

なぜか胸が高鳴る。


これまでも、そういう衝動が無かったわけではない。

そういったものは突如としていつもやってくる。


正直どうなってもいい。

そんな状況下に置かれたらどうなるんだろうか?と好奇心と破滅願望?が入り混じる。


何事も経験だ――



『ブリブリブリィブリ!!!!!!』



まるで時が止まったかのような静寂。

静寂の中、既に犯人捜しが始まっている。

近場にいたものが密告するのも時間の問題か。


「(あ、俺これ、終わったやつだ・・・)」


空気感だけでわかる。

受付嬢と見つめあったまま、数秒が過ぎた。

バクついた心臓が耳を圧迫する。


「あの~、受付はまだ済みそうになかったですかね? 漏れそうなんですけど」

「もう少々お待ちください…… お手洗いはあちらにございますので……」


そんな顔しなくてもいいではないか。

人間だれしもそうならないとは言えないんだぞ。


「(こうもあからさまに態度に出されると悲しいもんなんだな・・・)」


その時。

猛烈な異臭を放つであろう俺の背後から。

トントン、と優しく肩をたたかれた。

振り向くと、そこには友人の顔があった。


「なんか、みんな、お前のことスッゲーみてるゾ? なんかやったのか?」


ローブはダボダボ。

魔法帽もよれて、服に着せられてる感じ。

青い髪はボサボサ。

俺は一度もコイツのことを可愛いと思ったことはない。


だが、しかし!


「お前、なんか今日イケテルな!」

「???」

「首をかしげるそのしぐさもポイント高いぞ!」


こんな時だってのに態度を変えずに接してくれる友がいたことに感謝だ。

目頭が熱くなる。


「よしよし、なんかイヤなことでもあったのか?」


低い背丈を伸ばして、頭を撫でてくれる彼女。

こんな俺にも優してくれるってのか。


「こんなクソヤロウにも優しくしてくれてありがとうな・・・」

「???」


まぁ、こいつは年中鼻がきかないってだけなんだが――






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