第87話 青森県② ねぶた、恐山、大間
「ほう、これは迫力があるのじゃ!」
「これはねぶた祭りで使われる山車だよ」
ねぶたとは東北地方で行われている旧暦7月7日の行事のひとつだ。竹や針金で作られた枠に紙を張って、さまざまな人物や歌舞伎を描き、中に灯りを灯して屋台に引かせて街中を歩く祭りである。
この大きな山車は明かりを灯すことから燈籠山車とも呼ばれており、伝統的な歌舞伎の山車だけでなく、その年で有名になったキャラクターなんかの山車まで作られたりもする。
ちなみに青森ではねぶたと呼ばれているが、弘前の方ではねぷたと呼ばれている。同じ時期に開催されるこの祭りだが、山車の形が微妙に異なるらしい。ねぶた祭りの山車が立体的に表現するのに対して、ねぷた祭りの山車は扇形の平面に描かれていることが多いようだ。
「毎年8月の頭にはこの山車を引っ張って街中をねり歩くんだ。そしてそのあとを跳人と呼ばれる人たちが跳ねて踊って祭りを盛り上げるんだよ」
跳人は読んで字のごとく、リズムに合わせて跳ねて踊りながら祭りを盛り上げる。ラッセラー、ラッセラーという独特の掛け声を上げながら踊っているその様子は中々見ごたえがあるぞ。
ちなみにラッセラーとは昔はラセ、ラセという掛け声だったらしく、ろうそくやお菓子などを出せ出せとねだる言葉から変わっていったようだ。
跳人の衣装を着ていれば、誰でもこの祭りに跳人として参加することができる。跳人の衣装の販売や貸し出しなんかも行っているので、ねぶた祭りに行くのなら、実際に跳人として参加することをおすすめするぞ。
そしてこのねぶた祭りは日本最大のお祭りとして、多くの旅人が集まる祭りでもある。たくさんの旅人がねぶた祭りを目的にしてこの時期に集結するんだよな。
「実際に祭りがおこなわれているのは8月だけれど、ここねぶたの家ワ・ラッセにはねぶたの歴史を学ぶことができたり、実際に祭りで使われていた燈籠山車なんかが展示されているんだよ」
実際に祭りというものは自分で参加するのが一番だが、時期が異なっていても楽しめるのはとてもありがたいところだ。青森の名物であるねぶた漬けもここからきている。
「……ふ~む、なんとも言えぬ場所じゃな」
「ここは恐山といって、死者の魂が集まる場所と言われているんだ」
恐山は日本三大霊山に数えられており、荒涼とした岩場が広がっている光景をみることができる。
このあたりでは昔から死ねば恐山にいくと伝えられ、あの世にもっとも近いとされている場所である。
死者への供養の場や故人を思い偲ぶ場所として、日本各地から参拝客が集まってくるようだ。
「たくさんの風車が積み重なった石の上にありますね」
「あれはあの世の子供たちが寂しくないようにお供えするらしいね」
恐山の岩場にはたくさんのカラフルな風車が設置されている。昔は乳児や幼児の死亡率も高かったら、多くの子供たちの魂がここに集まって来ているのだと信じられているのだろう。
「このような場所なのにとても綺麗な湖があるのですね」
「あれは宇曽利湖だね。こんな山の中にこれだけ大きな湖があるのはすごいよね」
恐山の奥にはとても大きくて美しい宇曽利湖がある。この恐山は火山であるため、噴火によってできたカルデラ湖だ。
また、この河原は賽の河原と呼ばれている。親よりも早く死んでしまった子供が賽の河原へとやってきて、石を積まなければならないというのは有名な話だな。そしてそれを邪魔する鬼なんかも昔話で出てきたりする。
恐山はパワースポットで魂の集まる場として有名なので、霊感の強い人はいろいろと感じ取ってしまうらしいが、どうやらふたりとも大丈夫そうだな。
「おお、これはマグロという魚じゃったか?」
「そうだね、この国では特に好かれている魚だね」
「大間のマグロは有名ですね。それにしても実物は本当においしそうです」
続いてやってきたのは本州最北端で青森県の先端にある大間だ。津軽海峡に面した大間で水揚げされるクロマグロは高級ブランドとしてとても有名だ。大間の岬にはマグロを一本釣りしている人の像があったりする。
そして当然食べるものはマグロの三食丼だ。大間のマグロの赤身、中トロ、大トロがこれひとつですべて味わえるのがとてもありがたい。
「うむ、これは本当においしいのう! 魚を生で食べるという文化は安全に食べられるほど技術の進んだこの世界ならではじゃな」
「ええとてもおいしいですね!」
やはりお金を気にせず高級料理を食べられるのは助かるな。大間のマグロの大トロを好きなだけ食べられるというのはとてもありがたい。
「それにこちらはウニですか。何とも贅沢ですね」
そして椀物は青森の名物のいちご煮だ。イチゴと言っても果物のイチゴとは程遠い料理で、ウニとアワビという高級食材を使った吸い物なのだ。アワビのエキスによって乳白色に浮かぶ濁った汁に浮かぶウニが朝霧にかすむ野イチゴに見えたことが由来らしい。
青森では何かの祝い事などで食べられるようだ。大間のマグロに加えて、とても贅沢な晩御飯であった。





