第85話 秋田県② 秋田名物、田沢湖
「確かこれはやきそばじゃったな」
「そうだね。これは秋田県横手の名物として有名な横手やきそばだよ」
男鹿半島を回ってから秋田県の横手へとやってきている。
「横手やきそばですか。私も名前は聞いたことがあります」
「横手やきそばはB級グルメで有名だからね」
静岡県富士宮の富士宮やきそば、群馬県太田市の太田やきそばと並ぶ日本三大やきそばのひとつである。もともと横手やきそばは子供のおやつとして食べられていたこともあって短時間で作ることができて、子供にも食べやすいように工夫されている。
キャベツや豚ひき肉を麺と一緒に炒めて、その上に半熟の目玉焼きをのせて福神漬けを添えるのが横手やきそばの特徴だ。豚ひき肉を使って福神漬けを添えたやきそばというのも珍しいよな。
また、ソースにはウスターソースが使用され、それぞれの店特有の出汁ソースなんかが使用されているのも特徴だ。
「うむ、ソースの味がおいしいのじゃ! 以前に食べたイタリアンというやきそばとは全然異なるのう」
「ま、まあ、あれはちょっと特別なやきそばだから」
新潟県のミートソースがけやきそばであるイタリアンはやきそばというよりもイタリアンという料理と思った方がいいもんな。
「それにしてもこちらは普通の食堂で出てくるのですね」
「横手やきそばはメインというよりも何かと一緒に頼むものだからね」
横手やきそばのお店は居酒屋や食堂、果てはステーキハウスなんかで提供されている。他にも贅沢な横手黒毛和牛の乗った横手やきそばなんかもあるからね。
「なるほど、出汁ソースが使われているので、少し柔らかな味になっているのですね」
「店によってソースの味が違うから面白いよね」
お店によってかなり味が違うから面白い。それに横手では毎年横手やきそばフェスティバルというものが開催されて、横手やきそば四天王が決められるから、毎年各店がしのぎを削っているのである。
「ほう、こちらは美しい湖じゃな!」
「田沢湖は日本で一番深い水深の湖で、この綺麗なコバルトブルーが有名なんだよ」
日本百景にも選ばれているこの田沢湖は水深が日本一深いため、この瑠璃色の湖面がとても美しい。
また、湖の周辺には木々が植えられており、付近の山や木々と湖面のコントラストがとても綺麗だ。さすがに周囲は20キロメートルあるから歩いて回ることはできないけれど、自転車やバイクで回るなら最高なんだよね。
「こちらの金色の像はなんなのじゃ?」
「これはたつこのブロンズ像というんだよ」
この地には古くから伝わるたつこ姫伝説という話がある。
昔たつこという名前のとても美しい女性がいた。たつこはその美しさと若さを永久に保ちたいと大蔵観音にお願いをした。すると北に涌く泉の水を飲めば願いが叶うというお告げがあった。
そこでその泉へと行き、泉の水を飲むと、なぜかますます喉が渇き、気付けば泉が枯れるほど水を飲み続けた。気が付くとたつこは大きな龍となってしまっていた。そしてそのままたつこは田沢湖の主となって、湖底へと沈んでいったそうだ。
……何を言いたい伝説なのかはよく分からないけれど、昔の伝承なんてそんなもんだよな。まあ、美しい湖であることは間違いない。
「おお、これは良い香りじゃな! 鍋という料理じゃったか?」
「そう、こっちの鍋がきりたんぽ鍋で、こっちの鍋がしょっつる鍋だよ」
俺たちの目の前には2つの鍋がある。今日の晩ご飯は秋田県の名物の2つの鍋だ。
きりたんぽ鍋はご飯をすりつぶして棒に巻き付けて焼いたものを鶏ガラと調味料を加えた汁で煮た鍋料理となる。鶏ガラは秋田県の名物である比内地鶏のスープを使ったものが特に良しとされている。
元々は炭焼きや伐採のために山籠りをしていた人々が、持ってきていた残り飯をつぶして棒に刺して焼いたものを鳥でだしを取った鍋に入れたことが始まりと伝えられているらしい。
しょっつる鍋は秋田県で獲れるハタハタという魚を塩漬けにして発酵させたしょっつるという魚醤で作ったしょっつるという調味料を使用した鍋だ。しょっつるは醤油が高価だった時代に醤油の代わりに使用されていたらしいな。
上品な味わいをしたハタハタの身とプチプチとした魚卵であるブリコに、あっさりとしたスープとしょっつる独特の風味が特徴的な鍋である。
「ほう、表面は焼かれてざっくりとしており、中はモチモチとしていておいしいのじゃ!」
「炭火で焼いてある分、香ばしい香りもして良いですね。それにこちらのスープがとてもおいしいです」
比内地鶏は少なくなりすぎて一時的に食べられなかった時期もあるらしいからな。うん、この比内地鶏のスープをたっぷりとすったきりたんぽが本当によくあうぞ。
「こっちのしょっつる鍋も独特な味がしてうまいのう!」
「淡白なハタハタという魚とこの独特な香りのするしょっつるという味が良く合いますね。こちらもおいしいです」
しょっつるという魚醤は独特な香りがするけれど、鍋にすればその味は食べやすくなる。
「〆は秋田県の名物の稲庭うどんがあるから少し開けておいてね」
鍋の〆は日本三大うどんのひとつである稲庭うどんだ。うどんにしては細く平べったいうどんで、製法としてはうどんよりもひやむぎに近いらしい。
つるつるとした滑らかな食感でしっかりとしたコシもあってとてもおいしい。稲庭うどんは冷やして食べてもおいしんだよなあ。





