第84話 秋田県① 男鹿半島、なまはげ
「おお、これは見事な景色じゃな!」
「ここは秋田県の男鹿半島だよ。この寒風山の展望台からは男鹿半島の海が一望できるんだ。もう少し暖かくなるとこの辺り一面には緑の草原がとても綺麗に見えるんだよ」
今日は秋田県へとやってきた。いったん秋田市を通り過ぎて、その先にある男鹿半島の寒風山の展望台へとやってきている。
秋田県の地図を見てもらえれば分かるけれど、男鹿半島は秋田県の少し出っ張った部分だな。
「……座ったままゆっくりと回る展望台とは面白いですね」
「ここからは360度全部の景色が楽しめるからね。ここに座っていれば、13分かけてゆっくりと回って男鹿半島の景色を見ることができるんだよ」
喜屋武さんの言う通り、実はこの展望台自体がゆっくりと回っているのだ。ここに来た人は座りながらにしてこの美しい男鹿半島の景色を楽しむことができる。
この寒風山は標高350メートルほどの火山だ。火山活動は今から3万年以上前に始まり、何度も活動を繰り返したことによって現在の形になったらしい。
「なっ、確かこの世界には魔物が存在しないのではなかったのか!? あれはどう見てもオーガじゃぞ!」
「あれはなまはげといって、この秋田県の伝統行事になるんだよ。むしろ神の使いとして敬われているらしいんだ」
「あ、あれが神の使いになるのか……本当にこの国は面白いのう……」
秋田県の男鹿半島では大晦日の夜になると、村の若者が大きな鬼のお面をかぶり、藁でできたミノを身に纏って包丁を持ちながら家々を巡る行事がある。
家の中に入ったなまはげたちは包丁をふりまわし、戸をドンドンと叩きながら、「泣く子はいねがぁ~、怠け者はいねえがぁ~」と大声で叫びながら家の中を走り回る。
家の主人はなまはげをなだめながら料理や酒をおもてなし、なまはげは家の主人に家族の様子や作物のことを聞いてくる。それを聞き終わると、家族の無病息災や畑の豊作を祈願して、次の家に向かうらしい。
子供がいる家には良い子にしないと連れていくからなとちょっとした脅しをして家を去るため、ちゃんと親の言うことを聞くようになるんだとか。
「もともとなまはげは男鹿の山々に住んでいる神様の使いで、人の怠け心を戒めたり、降りかかる厄災を退けて、豊作や豊漁をもたらしてくれるらしいね」
また、大晦日で年の変わり目にやってくるから、来訪神として現在も崇められる対象となっている。大きな音で戸を叩いたり、足を踏み鳴らしながら家の中を駆けまわるのも家の中の邪気を追い払うためのようだ。
面白いのはそれだけではなく、漢の武帝伝説という悪い鬼としての伝説も残っているらしい。このあたりの起源については諸説あるようだ。なまはげの鬼のお面も地域によって全然違うようだしな。
「どう見ても魔物にしか見えないのじゃ……」
「まあ、各地のなまはげのお面は悪い物を払ってくれるように怖い顔にしているんだと思うよ。それに地域によっては鬼というよりも精霊をつかさどったお面なんかもあるみたいだね」
男鹿半島にあるここなまはげ館には各地方のなまはげのお面が飾ってある。他にも様々な資料などが展示されている。
そしてここにある男鹿真山伝承館では一日に何度か時間ごとに大晦日のなまはげの習俗を体験することができる。
「泣く子はいねえが~、怠け者はいねえが~、親の面倒を見ない悪い嫁はいねえが~、うお~!」
「こ、これはなかなか迫力があるのじゃ……」
実際にこの地方の昔の造りで囲炉裏のある畳の部屋に座りながら、実際の男鹿の大晦日の夜を体験できるのだ。
「ゲームばかりしてたらいけないぞ~」
「は、はい!」
なまはげがひとりの男の子にそんなことを言う。
「パチンコばかりしていたらいけないぞ~」
「はい!」
そしてそのお父さんにはそんなことを言うなまはげ。こんな感じでここにいる人たちへ適当になになにしては駄目ということを伝えていく。その手にはなまはげ台帳というものを持っているが、適当に言っているだけだと思う。
「遊んでばかりいたらいけないぞ~」
「は、はいなのじゃ!」
ミルネさんにはそんなことを言うなまはげ。せっかくなので今は隠密魔法を解いているからミルネさんも見えている。かなり迫力があるので、ミルネさんもかなりビビっているようだ。
「お酒ばかり飲んでたらいけないぞ~」
「はい……」
喜屋武さんにそんなことを言うなまはげ。適当に言っているんだけれど、たまに的を得ている時もあるんだよなあ……
新潟県でお酒を飲み過ぎた喜屋武さんには反省してもらわないといけない。この秋田県もあきたこまちという米が有名で、当然ながら日本酒が有名だから、今日も飲み過ぎないように注意してもらわないとな。
「浮気ばかりしてたらいけないぞ~」
「はい……」
浮気どころか、彼女もいたことさえねえよ!
そして俺にはそんなこと言うなまはげ。そもそも彼女がいないのに浮気なんてできるわけがない……
適当に言っているだけというのは分かっているのだが、無駄にダメージを負ってしまった……





