第83話 山形県② 蔵王、宝珠山立石寺、芋煮
「見事な絶景ですね!」
「こ、これはどうなっておるのじゃ?」
「これは樹氷といって、気温がマイナスになると、空気中の水蒸気や水滴が樹木に吹き付けられて凍結してしまうんだよ」
ここ山形県と宮城県にまたがっている蔵王の山々はこの時期でも気温がマイナスになる。そしてこのモミやトドマツのどの木に冷たい風がぶつかり、樹木の表面に氷が張る。
雨や雪なんかが降っていないのに少しずつ樹木の表面に氷が張っていくので、高速カメラなどで見ると、とても不思議な現象に見える。
「ロープウェーで上から見下ろす形でも見えるんだよ。せっかくなら乗ってみよう」
ロープウェーに乗ると、ここにある多くの樹氷を見下ろす形で眺めることができる。
「……とても良い景色なのじゃが、少し高くて怖いのじゃ」
「前にあるセーフティーバーを掴んでいれば大丈夫ですよ」
前のリフトに乗っているミルネさんは少し怖そうだ。確かに俺も子供の頃に乗ったリフトは怖かった気がする。
それにしてもこの景色は本当に素晴らしいな。旅をしていた時は蔵王の緑の美しい景色を楽しんだが、この時期は雪が凄すぎて自転車やバイクなんかじゃここまで来ることができないからな。
ちなみに完全に雪や氷に包まれた樹氷をスノーモンスターと呼ぶらしい。雪が積もって、樹木の半分くらいが雪に埋まり、人形のように突き出た光景は中々に壮観だ。
蔵王は冬の雪景色だけでなく、緑の多い夏や紅葉の秋の時期もとてもおすすめだぞ。他にも御釜という釜状に見える美しい瑠璃色やエメラルドグリーンに変化する神秘的な火山湖や、酪農を行っている場所や温泉も有名で見どころがたくさんあるのだ。
「さて、頑張って登りますかね」
続いてやってきたのは山寺の愛称で親しまれている宝珠山立石寺だ。
奇岩怪石からなる山全体が修行の場となっていて、東北を代表する霊山となっている。登山口から奥之院までは1015段の階段を登ることになり、一段登るごとに少しずつ煩悩が消えていくと言われている。
そしてその途中には句の碑や史跡、美しい景色を見ることができる。とはいえ1015段だからな。気合を入れて登らなくてはならない。
「冬の雪景色のお寺というのもいいものですね」
「うむ。妾の国は雪などほとんど降らないから、この景色はとても貴重なのじゃ」
「………………」
相変わらず2人とも俺より体力があるな。とはいえ、ただの階段ではなく、ところどころに歴史のある建物やお堂なんかがあったりするので、楽しく登ることができるのはありがたい。
ちなみにこの立石寺にて、かの有名な俳聖である松尾芭蕉が「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」の俳句を「奥の細道」に残したことでも有名である。そう考えると歴史があってとても趣深い。
「ふう~到着。奥之院には阿弥陀如来様が安置されているんだけれど、どんな宗派の人でも参拝できるんだよ」
参道の終点である奥之院には仏像があり、この山寺には宗派に関係なく誰でも参拝することができる。
また、奥之院にあるひときわ大きな金色の灯篭は日本三大灯篭のひとつだ。
「ふむ、ここからの景色もとても素晴らしいのう」
「ええ、やはり山の雪景色はとても美しいですね」
奥之院の少し下にある五大堂は断崖に突き出すようにお堂が経っており、断崖絶壁や山の麓に見える景色を一望できるようになっている。ここまで登るのは大変だったけれど、その苦労もあるからこそ、これほどの景色が見られるのだ。
「ふむ、これはなんとも温まる味じゃな」
「芋煮は昔から山形で食べられてきた郷土料理だよ。各家庭でいろいろと味が違うらしいね」
立石寺の観光を終え、山形の名物が食べられるお店へとやってきた。
芋煮はメインとなる里芋の収穫時期の秋から冬によく食べられていた料理で、宮城や福島でも食べられている。しかし、それぞれの地方で味付けや材料が違う。
山形では醤油ベースで牛肉が入っており、仙台では味噌ベースの豚肉が入っているらしい。また、山形ではこんにゃくにネギと肉というシンプルなものに対して、宮城県は白菜やニンジン、シメジに豆腐など具だくさんだ。
豚汁と似ていると思うかもしれないが、芋煮には里芋が使われていることがポイントらしい。
「山形では牛肉も有名で米沢牛や山形牛みたいなブランド牛もあるよ。あとはこの玉こんにゃくも有名だね」
山形には和牛のいわゆるブランド牛がある。
玉こんにゃくは山形のソウルフードである。玉状の味の付いたこんにゃくが串にささっている。他の場所でも売られていることはあるが山形が発祥だ。
「うむ、風味豊かな味で面白い食感をしているのじゃ」
「たっぷりと味が染みこんでおりますね。それにこのもっちりとした食感がクセになりそうです」
デザートには山形と言えばのさくらんぼとラ・フランスだ。
さくらんぼは国内の7割以上が山形産であり、ラ・フランスも収穫量全国一である。他にもブドウやスイカなどの果物もあり、山形県がフルーツ王国とも呼ばれている由縁でもある。
最高級品種のさくらんぼは甘味が素晴らしいだけでなく、色も鮮やかな赤色で、目で見ても楽しめる宝石のようである。





