第82話 山形県① 天童、十六羅漢像、冷やしラーメン
「ふむ、確かこれは将棋というこの国特有のボードゲームじゃったか」
「おっ、さすがだね。これは将棋というこの国のボードゲームだよ。様々な動きをする駒をお互いに動かし合って相手の一番偉い駒を取った方が勝つというゲームなんだ。ここ天童は将棋で有名な街なんだよ」
今日は山形県の天童までやってきている。
「……ここが将棋で有名な天童ですか」
喜屋武さんの方はというと、若干ぐったりとしている。というのも昨日の夜は新潟県のおいしい日本酒を楽しんだからな。新潟県は有名な米どころで、当然ながら米を原料にした日本酒がとても有名だ。
人気の酒蔵の日本酒だけでなく、いわゆる地元の蔵の近くにしか卸していない地酒も数えきれないほどあるから、普段の晩酌以上に楽しんでしまった。つまみも新潟県で有名な柿の種や日本酒を作る時に出る酒粕を使ったクリームチーズなんかが最高においしかった。
そして新潟県に隣接するここ山形県も水がとても綺麗で日本酒が有名だから、今日の晩酌もほどほどにしておいた方がいいだろう。
「天童は200年以上前から将棋の駒を作っているんだよ。将棋の駒を作っていた織田藩という藩がこの天童に移動してきて将棋の制作方法を広めたみたいだね。だから街のあちこちに、将棋にかかわるものが置いてあるんだよ」
天童は日本国内の将棋盤と駒の9割を作っているので、将棋の聖地と呼んでも過言ではないはずだ。天童駅やその前には様々な将棋にかかわるものが設置されている。
駅にある時計も将棋の駒だし、駅前にあるポストにも上に将棋の駒のモニュメントも設置されている。タクシーの上にあるランプも将棋だし、歩道の地面にあるタイルの上には詰将棋が描かれている。
「駅前には将棋の資料館もあるんだよね。あと天童の舞鶴山の山頂にある広場では人間将棋と呼ばれるイベントが開催されるんだ」
天童駅の目の前には将棋資料館があり、これまでの将棋の歴史や将棋の駒の作り方、将棋よりも盤面が広い大大将棋や摩訶大大将棋なんて面白い将棋があったりするからな。
そして天童にある舞鶴山の山頂には大きな将棋盤を模した地面がある。ここでは春に一人一人が将棋の駒になって将棋を指す、人間将棋が開催される。人間将棋独自のルールもあって、開催時にはおおいに人が集まるようだ。さすが将棋の聖地だな。
「おおっ、これは見事な仏像じゃな!」
「これほどの数が並んでいるのは壮観ですね」
「なかなか見事な光景だよね。これは仏じゃなくて羅漢というんだ。羅漢は仏様じゃなくて、悟りを開いた高僧たちのことを言うんだよ」
続いてやってきたのは山形県の海沿いの吹浦にある十六羅漢岩だ。
およそ10万年前に流れ出た溶岩にいくつもの羅漢像が掘られている。明治の初め、吹浦海禅寺の寛海和尚という人が、海難事故で亡くなってしまった漁師たちの供養と海上安全を願って掘ったものだと伝えられている。
十六羅漢とあるが、16人の羅漢の像に、観音様や菩薩様の6つの像を加えた22つの像のことを指している。
ちなみに羅漢の名前は賓度羅跋羅惰闍や迦諾迦跋釐惰闍など、長い名前も多いのでここでは割愛しよう。漢字では書いたら絶対に間違えてしまう自信があるぞ……
「結構わかりにくい場所にもあるから注意してね」
「ふむ、こっちにもあったのじゃ!」
こういうのはしっかりと全部見ておかないとな。さすがに千本鳥居なんかは数えられないけれど、これくらいの数ならちゃんと全部把握しておくとしよう。
「時期によっては夜にライトアップされたりするらしいね」
ライトアップなら良いが、何も知らずにこの海岸へ夜中に来たらちょっと怖い気もする……まあそれだけ歴史があって威厳があるということだろう。
「……氷が入ったラーメンとは面白いですね」
「今まで食べたラーメンは全部温かかったのじゃ」
「名前はそのまんまで冷やしラーメンだよ」
ラーメンにはラーメンだが、このラーメンのスープにはなんと氷が入ってキンキンに冷えている。本来ならこの時期にはだいぶ寒いのだが、ミルネさんの魔法は本当に便利だ。
冷やしラーメンは元々ラーメン屋が発祥ではなく、蕎麦屋さんが発祥らしい。冷えたそばがあるなら、冷えたラーメンがあってもいいんじゃないかということで、冷やしても固まらない植物性の油を使ったスープのラーメンができたわけだ。
「ちょっと違和感がありますが、サッパリとしていておいしいですね。これは暑い日には最高でしょう」
「スープもしょうゆベースでおいしいのじゃ!」
確かに日本人にとって冷やしたラーメンはなじみがないかもしれないが、冷やしそばや冷やし中華なんかもあるし、冷やしたラーメンも全然いける。
地域によっては冷やし中華のことを冷やしラーメンと呼ぶらしいが冷やし中華とは別物だ。喜屋武さんのいうように、暑い日には普通のラーメンよりもこっちの方がうまいのである。





