第70話 福井県① 東尋坊、ボルガライス
「……う、うむ。これはなかなかの景色じゃな」
「ミルネ様、あまり奥の方まで行かないでくださいね」
喜屋武さんがミルネさんに注意を促す。
それもそのはず、俺たちの目の前には断崖絶壁が広がっている。
「ここは東尋坊と言って、1km近く続いている柱状の割れ目ができた崖だよ」
福井県にある東尋坊は世界有数の柱状節理と呼ばれる溶岩や岩石などが地殻変動などによって急速に冷却されることによって六角形の柱状に割れる現象によってできた崖である。
この東尋坊を構成するのは輝石安山岩という岩で、これほどの規模のものとなると、世界でも数がとても少ないようで、世界三大奇勝のひとつとして数えられている。日本国内では天然記念物に指定され、日本の地質百選にも選ばれている。
割れた岩と聞くと脆いように聞こえるかもしれないが、溶岩が冷え固まってできた岩はとても硬く、日本海の荒波にも削られることなく、昔から今でもそのまま残り続けているらしい。
「……それにしても本当に高いですね。昔のテレビで見たことがある崖のようです」
「一番高いところだと25mくらいあるらしいよ。確かに昔の刑事ドラマとかでこういう崖はよく出てくるよね」
これまでもいろんな高いタワーなんかに何度も登ってきたが、この崖の上にはそれとは別の怖さがある。
確かによく刑事ドラマで夕陽をバックに崖の上で犯人がすべてを自供するっていうシーンがよくあったな。ちなみにこの東尋坊は夕陽が沈む景色も素晴らしいらしい。
「刑事ドラマとはなんじゃ?」
「……昔はそういうテレビがよくあったんだよ。人が殺されていろんな証拠を集めて推理するっていう話だよ。もちろん話の中だけの話だけどね」
最近はあまり見ていないけれど、昔はよく刑事もののサスペンスドラマがあり、その中でこういったが崖がよく出てきた。火サスとか今の人たちは通じるのだろうか?
ちなみにものすごくどうでもいい話だが、推理ものの事件でよく犯人が崖から人を突き落としたり、すべてを観念して飛び降りるのは、犯人に凶器を持たせないためらしい。
包丁で刺すと包丁メーカーに、車で轢くと車メーカーに、コードで絞殺するとその電気メーカーさんからクレームが入ってしまうらしい。なかなかテレビの中で人を殺すのも難しいのだ。
「ほう、こちらの世界にはそんなものもあるのかのう。今度見てみたいのじゃ!」
「……まあほどほどにね」
ミルネさんは日本の文化を学ぶためにこちらの世界に来ているから、あまり変なものを見せるのも良くないかもしれない。個人的には古〇任三郎とかを再放送でよく見ていたな。
「崖もすごいですが、海も青くて綺麗ですね」
「日本海の海はとても綺麗だよね。他にも東尋坊タワーがあったり、東尋坊を下の海から見上げて観光することができる遊覧船もあるから行ってみよう」
そのまま東尋坊の崖の近くにある東尋坊タワーからの東尋坊の美しい景色を一望し、遊覧船に乗って東尋坊の崖を下の方から見て楽しんだ。
「綺麗な赤い橋を渡って島まで行けるのは面白いですね」
「周囲2kmくらいの小さな島だから、遊歩道を回ってゆっくりと回るのもいいものだね。雄島は昔から神様の島として崇められていたらしいね。自然もあって、とても綺麗な島だよ」
「神様の島!? そ、それは妾たちが入ってもいいものなのかのう?」
そういえばこちらの世界だと神様の信仰はあるが、どうやらミルネさんの世界にも神様の信仰はあるみたいだ。
「島を歩くだけなら大丈夫だよ。ただし、島にある植物なんかを持ち出したりしたらだめだね。それと地元の人に聞いた話ではこの雄島だと、反時計回りに回ると呪われてしまうらしいから気を付けないとね」
「の、呪われる!? 気を付けるのじゃ!」
俺が旅をしている時に地元の人から聞いた話だが、この雄島の順路である時計回りではなく、反時計回りにこの島を回ると呪われてしまうらしい。こういう話を地元の人に聞けるから旅をするのは面白くあるんだよな。
「おお、これはおいしいのじゃ!」
「……なんとも面白いですね。オムライスの上にカツが乗っていて、その上にデミグラスソースが掛かっているのですか」
「こういうのは地元のご当地グルメっぽいよね。どれもおいしいから間違いない味だよ」
東尋坊をあとにしてやってきたのは福井県のボルガライスを食べられるお店だ。
ボルガライスとはオムライスの上にトンカツ、そしてその上にケチャップかデミグラスソースが掛かった料理である。名前の由来は見た目が火山のボルケーノに似ている、ロシアの卵料理のボルガにちなんでいるなどの諸説があるらしい。
地元の小学校の給食にも出てくるくらい愛されているようだ。まあ、オムライスの上にトンカツなんて子供が喜ぶこと間違いなしのメニューだ。
もちろん大人の俺たちが食べても十分においしいぞ。ご当地グルメはこのボルガライスのようにオムライスとトンカツを合わせたりといろいろな料理を組み合わせるものがあるからすばらしいよね。





