第55話 鹿児島県③ 屋久島
「ふあ~あ、まだ眠いのじゃ……」
ミルネさんが可愛らしい欠伸をする。
「まだ7時ですからね……」
喜屋武さんもまだまだ眠そうだ。最近の朝はのんびりと出発することが多かったから、仕方がないと言えば仕方がない。
「これでもだいぶ遅い方だよ。本当ならあと2~3時間は早く起きていないと駄目だからね」
やってきたのは全面森に囲まれた山のど真ん中である。ここは周囲130km、面積は500㎢の周りを海に囲まれた屋久島である。
屋久島は自然遺産として、白神山地とともに日本で初めて世界遺産として登録された場所である。日本の自然景観の重要な要素であり、固有植物の杉の生育地として有名な場所となっている。
朝の7時でも周りにはバスばかりで人はもう誰もいない。というのもこの屋久島で一番有名な縄文杉を見に行くためには早朝から出ているバスに乗ってこの入り口にまで来なければならない。
そのバスは朝の4時台から出発しているから、ここまでショートカットできただけでもかなり時間を短縮できているのだ。
「さあ、ここからはひたすらハイキングだ」
入り口から縄文杉までの道のりは結構な距離がある。バスから降りた人たちはとっくに山を登り始めている。俺達も山を登り始めるとしよう。
「おお、なんじゃこれは? こんなところに電車が走っていたのか?」
「これはトロッコの線路だね。電車みたいな大きなものじゃなくて、もっと小規模なもので、荷物を運んでいたんだよ」
昔の屋久島では森林を伐採して街にまで運んでいたのだが、伐採量が予定していた量を超えたので、閉鎖となったらしい。閉鎖された今でもトロッコの道は残っている。
「それにしても自然がとても豊かですね。本当に都会と比べると同じ日本とは思えないです」
「やっぱり離島は自然が残っている場所も多いからね。特にここは世界遺産として登録されているくらいだし」
屋久島は特に自然が豊かだ。某映画の舞台になったりもしているくらいだしな。確かにここを歩いていると、某コダマさんが出てきそうである。
「ありゃ、少し雨が振ってきたか。とりあえず雨合羽を出しておこう」
森の中を進んでいくとパラパラと雨が降ってきた。
「最近は天気がよかったのに、今日は運が悪いですね」
「そもそも屋久島は雨がとても多い場所だからね。でも雨の中の屋久島も悪くはないんだよ」
屋久島は一月に35日雨が降ると言われたり、日本一雨が多い場所と言われたり、1週間のうち6日は雨だと、とにかく雨が多い地域としても有名なのだ。
だが、雨の中の屋久島の森もそれほど悪いものではないと俺は思う。雨の降る音や、雨水が葉っぱから滴る様子も風情があって良い。それに雨だけではなく霧もよく出てくるが、それもまた日常にはない様子で良いものである。
「おお~これは立派な木じゃな!」
「これが屋久島の屋久杉だよ。ここにある杉は樹齢が1000年を超えるようなものがたくさんあるんだ」
巨大な幹をした縄文杉は寿命がとても長く、1000年を超える杉もいくつかある。夫婦杉、大王杉、仁王杉、翁杉などといった、変わった形をした杉などは名前までついている。
有名なウィルソン株は空洞になった巨大な木の幹の中から上を見ると、ハートの形になることで有名だ。屋久島のコースには縄文杉だけでなく、様々な見どころがある。
そしてさらに進んでいくと目的地である縄文杉が見えてきた。
「おお~なんと立派な木なのじゃ!」
「……これは見事ですね! 確か縄文杉は社会の教科書で見た気もしますが、実際に実物を見るのとは違いますね」
これまでに見てきた屋久杉よりもさらに巨大な縄文杉。その幹は直径何mあるのかも分からない。縄文杉の樹齢はなんと4000年だ! 縄文時代から存在することがその名前の由来となっている。
「まるで世界樹のようじゃな!」
「……やっぱり異世界には世界樹なんかもあるんだね」
言われてみると縄文杉もその寿命的には世界樹のようなものなのかもしれない。まあ葉っぱに特別な力はないけれどな。
この壮大な屋久杉の姿はここにまで来ないと見ることができないので、感動もなかなかのものだ。
それにこの屋久島まで来るのも鹿児島空港まで飛んでから飛行機かフェリーでやってきて、そこから早朝早起きをして、バスに乗ってからここまでの険しい道のりを歩いてくるのだ。そこまでしてようやく見ることができる縄文杉を始めて見た時の感動は、きっと一生忘れることができないだろう。
「おお、これは見事な景色じゃな!」
「ここは白谷雲水峡の太鼓岩だよ。ここからは屋久島の美しい自然を一望することができるんだ。しかもここは大体が霧で見えなくなるけれど、今は晴れて綺麗に見えるよ。本当に運が良かったね」
縄文杉の近くにある山小屋で持ってきたお弁当でお昼を食べた。このシチュエーションで食べるおにぎりはこれまた格別であった。
そしてこの太鼓岩までの道のりも結構な距離があるのだが、時間の関係上そこはスルーして転移魔法でここまで一気にやってきた。本当に綺麗な景色を見ることができるのだが、距離と時間的にいろいろと難しいんだよね。
今回は転移魔法があったからいいが、実際に歩いてここに来る時は帰りのバスが1日に4本しかないから注意が必要だ。体力的にも無理だと思ったら、太鼓岩を諦めるのもひとつの選択だ。ペース配分を間違えると帰れなくなってしまうからな……
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!
執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。
誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )





