第46話 長崎県② 佐世保バーガー、軍艦島、皿うどん
「こ、これはデカいな……」
「一口で食べられるか怪しいところですね」
「佐世保バーガーはいろいろな具材が入っているからね。パンズを少し潰してから食べるんだよ」
ここ佐世保は旧日本海軍の拠点として栄えており、戦後はアメリカ海軍基地が置かれていたため、様々なアメリカの文化がもたらされた。ハンバーガーもそのひとつだ。
注文が入ってからひとつひとつ手作りで焼き上げるため、出来立てアツアツのおいしさを味わうことができる。ベーコン、卵、チーズ、長崎で採れた野菜、などの多くの具材が挟まれているため、一口で食べるのは難しい。
そのため具材やソースが少しはみ出してしまうが、お店の人からしたらそれも粋なんだそうだ。
「おお、これはなかなかの食べ応えじゃな! この肉もとてもおいしいのじゃ!」
「具材が沢山入っているので食べる場所によって味が違って面白いですね」
やはりご当地バーガーというものもそれぞれの地域の特色があっていいよね。ただ佐世保バーガーはひとつひとつのボリュームがやばいので、何店舗かを食べ歩くことができないがつらい。
「今日はフェリーに乗るのじゃな」
「うん。今日はクルージングといって、船に乗って移動するんじゃなくて、船から景色を見て観光をしながら、島を巡ったりするツアーだよ」
昼過ぎからは長崎港から出ているクルージングツアーに申し込んでいる。
これから行く軍艦島(端島)は長崎港から約20kmほどの距離に浮かぶ無人島だ。200年ほど前に石炭が発見されてから、主に石炭の採掘のために多くの人がこの島で暮らしていた。
この小さな島に多くの人がこの島で生活しており、最盛期はなんと東京の人口密度の9倍ともいわれ、世界一人口密度が高い場所として有名だったそうだ。
しかしエネルギー革命によって需要が石炭から石油に移り変わっていったため、50年ほど前に閉山が決まり、それ以降は無人島となっている。日本の山頂革命遺産の一部として世界遺産にも登録されている。
「海の上を走る船というのも悪くないのう」
「潮風が気持ちいいですね」
たまにはのんびりとクルージングというのも悪くない。
ちなみに軍艦島のクルージングツアーにはひとつ注意が必要だ。というのも値段の安いツアーの中には軍艦島への上陸プランがなかったり、軍艦島を周遊しないツアーもあるので、安ければいいわけではないのだ。
実際に俺が旅をした際に参加したツアーでは軍艦島の周りを船で周遊しないツアーだったため、上陸しても見ることができない場所を船の上から見ることができなかったり、この島が軍艦島と呼ばれている由来である軍艦土佐に一番似ている場所を見られなかったりした。
この軍艦島のクルージングツアーに限ったことではないが、ツアーの下調べもとても重要だぞ。あとで俺みたいに千円ケチったために大事な場所が見られなかったと後悔することになるからな。
「なるほど、確かにこれは写真で見る軍艦のように見えますね」
「確かに船のように見えるのじゃ」
今回のツアーはそんなことはなく、しっかりと軍艦島の周囲を回ってくれるツアーであったため、前回見ることができなかった景色も見ることができたので満足だ。
「なるほど、確かにこれは廃墟ですね」
「昔はここに大勢の人が住んでいたなんて信じられないよね」
軍艦島の一部には上陸できる場所があり、そこで一時間ほど自由に見学できるようになっている。
崩れ落ち始めた建物、倒壊してコンクリートの塊となっている廃墟、建物の隙間から生い茂る草などといった幻想的な光景がそこには広がっていた。
そしてこの小さな島に不釣り合いな高層アパートの残骸。最盛期は700人以上の生徒が通っていた7階建ての小中学校なんてものまであったらしい。確かにこれを見ると廃墟を訪れる廃墟マニアなんて人達がいるのは分かる気がする。廃墟も男のロマンだよな!
「ふむふむ、具材は昨日食べたちゃんぽんに似ているのう」
「おお、さすがだね。実はこの皿うどんはちゃんぽんを作った店が汁なしちゃんぽんとして作り始めたらしいんだよ」
軍艦島のクルージングを終えて、再び昨日と同じ長崎新地中華街へとやってきた。
そして注文したのはちゃんぽんと同じく長崎の名物料理である皿うどんだ。
皿うどんにはちゃんぽんと同じ太麺を使ったものと、細くて油で揚げられたパリパリとした細麺の2種類がある。ちゃんぽんは昨日食べたので、今日は細麺のほうを選んでいる。
「パリパリとした食感の細い麺の上にとろみのある餡がかかっていてとてもおいしいですね。それにエビやイカやアサリに蒲鉾などの海鮮系の食材もたくさん入っております」
「細麺の皿うどんはこの食感がいいよね。それに後半は餡を吸って少しふやけた麺を楽しめるのもいいんだよ」
もちろんパリパリの麺もうまいのだが、ちょっとふやけたのも好きだったりする。
「途中からウスターソースやお酢をかけて食べてもおいしいんだよね」
長崎のほうでは皿うどんにソースやお酢をかけて食べる。酸味の効いたソースや酢が皿うどんの味を引き締めるのだ。
これも地元ならではの食べ方である。ちなみに長崎県のあるあるとして、長崎の人は坂道が多すぎてあまり自転車を使わないらしい。俺も自転車で旅をした時は大変だったな。
そして長崎のお盆でのお墓参りではロケット花火を飛ばしたり、爆竹を鳴らす風習があるらしい。不謹慎なように思えるかもしれないが、ご先祖様を賑やかに迎えたり、邪気を払う意味があるようだ。
俺もどちらかといえばこちらのほうが好きかな。日本各地によってお墓参りの仕方も全然違って面白いよね。
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