7話
いつもありがとうございます。
大体週に1~2話投稿しようと思っていて、曜日は水曜日か土曜日。またはどっちもという感じになると思います。
それではよろしくお願いします。
「他の魔物を仲間にしようとは言ったものの……」
早くも当初の計画の行き詰まりを感じられずにはいられない。
私が魔王になったと言っても所詮はただの高校生。何が出来るという訳でのないので、今は村の中を見て回るぐらいしかできない。
長年、魔物達は人間に虐げられてきた。その人間である私の言葉は、いくら私が仲間だと言ったところで信じてもらえてはいないみたいだ。
その証拠に村の中を歩くとみんなそそくさといなくなってしまう。
この村の構成は殆どが妖精が締めている。その小さな妖精達は慌ただしく逃げていくのは、なんだか悪い事をしている気になってくる。
村自体の印象は大雑把な表現になってしまうが昔に一度だけいったことがあるキャンプ場とよく似ている。
村の中心には大きな焚火、篝火というのだろうか? があって村人たちの憩いや交流の場なのだろうが、今は私一人しかいない。
一応、私のスキル『王のルール』に新しい追加された能力、加護『領地と明言されていない場所に一時的に領地を築く』の条件である『国民20人』を満たせているのは感覚で分かるので、敵ではないと思ってくれてはいるのかもしれないが、かと言って仲間と言った感じでもない。
「さて、どうするか……」
正直な話、現状の魔物達は私が口出しする事はない。彼らは質素ゆえに一日を非常に規則正しく送る。
生きる為の環境が良くない為、誰かが勝手な事をする事もない。妖精以外の魔物も助け合いながら暮らしを続けているのだ。
規則正しいなら私からいう事はない。
しかし現状のままではまた、いつ人間達の襲撃があるのか分からない。
今、村は先の襲撃もあって、防衛力を強化している最中だ。
魔物が人間に危害を加える事が出来た、という真実をあの逃げた冒険者達が国か専用の機関になり報告すれば、更に大人数でやってくるかもしれない。
そう考えて、魔物達に村の防衛力強化を提案した。
私の事が怖いのか、二つ返事で作業に取り掛かる事にしたようだが、私自身へは手伝えといった事は言われていない。
その為、村中に釘を打つ音や穴を掘る音。建物の強化といった具合に作業音が絶えない。
(まぁ、濃い霧が立ち込めるこの村に来るのは容易ではないと思うけど)
それも絶対ではない。私の国として、今いる村が先ほどの加護『領地と明言されていない場所に一時的に領地を築く』という効果が発動していて、その結果として村周辺に霧が覆っているようだが……文言の中に『一時的』となっていのでいつまで効果が持つか分からない。
だけど、この世界の事を全然知らない私が、おいそれとこの場所から動ける訳もない。他の国に入ってしまえば、その国のルール。法に従わなければいけなし……。
篝火の周りには簡単な丸太を加工した椅子がある。その椅子に腰かけ、足を組むと今後の事を考える。
村の中で最も力のあるロカ、私と同じくよそ者扱いなのか、特別視なのか、今一つよくわからないが大切にされているラジエル。
「どうかしましたか、幸様?」
今まで無言で少し後ろを歩き、今は座った私の後ろで綺麗に伸びた背筋で立つラジエルが眉根を更に深めて不機嫌そうに首を傾げる。
と言っても彼女が不機嫌ではないのは最近分かり出した事だ。
どうにも常に考え過ぎる性格が眉間に皺を作ってしまうらしい。
彼女にもいろいろ聞きたい事があるのだが、今は優先すべき事がある。
「ねぇ、この村のみんなって私の事をどうゆう立ち位置の存在だって思ってるのかな?」
再び首を傾げ目線を斜め上にやり、少しだけ固まるラジエル。
考えているのだろうが、ロボットがフリーズしたようにも見える。この世界へ来た時に睨まれていたのを怖いと思ったのが遠い昔に感じる。
「それは勿論、新たな王だと歓迎しています」
……彼女の意見は参考にならないかもしれない。傷が癒え、歩けるようになった彼女は最初に出会った時に宣言した通り、私に全力で仕えてくれている。彼女が寝ていた時の事をロカと一緒に説明するとその傾向が更に強くなった気がする。
その結果、盲目的に私を肯定してくれるようなので参考にならない。
私の見立てでは『私の力で人間に対抗できるのだが、その力を与えてくれる私が人間なので、信用していいかどうか分からない』といったところもあるのだろうか。
「今のところ魔族はラジエルとロカぐらいかしら」
最初に現れたあの冒険者達の言い分を聞いて、とっさに人間に対して魔物達を魔族と名乗って対抗するのがいいと考えたのだけれど、現状ではラジエルとロカぐらいしか魔族と呼べないだろう。
(あ、一応アイアイも……か?)
「少し、いいかね?」
近くに誰か来ていたらしい。
かなり考え事に没頭していたようだ。しかし害意を持つ者ならラジエルが反応する筈だ。
なので敵ではないと判断してやんわりと顔を上げた。
「!?」
この世界に来て固まるのは何度目か。目の前にはゴリラが居た。マウンテンゴリラという奴だろうか?
いや本来のゴリラより相当デカい気がする。
「どうかしたかね?」
声自体は随分年季の入った男性みたいに聞こえる。
魔物というより、ただの動物では?
いつまでも呆けている訳にはいかないので軽く瞬きして頭をリセットする。
「何か?」
ゴリラは両手を付いた四足歩行から手を上げ、二足歩行で隣の丸太に腰かけた。
「まずは自己紹介だな。私はジョン」
「扶桑幸です」
頷くゴリラ。
「この村の代表者ともいえるラジエルとロカが君の配下となった。その為村の者達の意見を君に伝える者がいないくてね。私が代表になった」
昨日だっただろうか、ロカがそのような事を言っていた。
「聞いています。つまり、村の中には納得できない者もいるという訳ですね? しかし私、人間に意見するのは怖いと」
深く頷くゴリラ。いやジョン。そして笑ったのだろうか、表情を深くする。あまり、柔和な印象はない。むしろ邪悪に見える。お前はを今から襲うぞっといっているようにも受け取れる。
「その通りだ。仮にも王を名乗る者だ。理解が早くて助かる。まぁ……力が弱い者が意見できるのも変な話になるかもしれないがね」
首を傾げる。力ない者にこそルールが必要であるはずだ。
「魔物にも唯一と言っていいのか分かりませんが、守るべき掟があります。それは力が強い者こそ、正しいという事です」
横からラジエルがあっけらかんと言う。
「ちょっと! それじゃあ、私の作るルールが何の意味もなくなってしまうじゃない!!」
なぜそんな大切な事を言わないのか。
ラジエルに抗議の目線を向けるが意味が伝わっていないのか、首を傾げる。
「純粋に戦闘能力だけとは言っていないがね。まぁ、暴力を重視する魔物が多い事は真実だ。それに……力なき王には誰も付いてこない。当然の事だろう?」
グッと言葉に詰まる。確かに現状、無法である以上何かで縛る必要がある。それは元の世界でも一緒だ。犯罪を犯せば、警察に逮捕される。
日本で分かりやすいのは、彼らだけが所持している分かりやすい暴力。銃だ。滅多にそれを向けられる事はないが、重大な罪を犯せば向けられる可能性は高くなだろう。
だからみんな法を犯さない。牢屋にぶち込まれたくないし、死にたくないからだ。
ゲームなどで平然と罪を犯せるのは、キャラが人以上の力を持つ為だろう。
「みな心の底では思っているのだ。人間達の加護の力がなければ、身体能力の低い人間などに負けはしないと。君はその思い込みを打ち砕かねばいけない。今君のスキルの効果で私は人間を攻撃できる。それは君も例外じゃない筈だ。まぁ、なんだ……早い話が私と戦いたまえ、という事だよ」
ゴリラのジョン提案に、彼が語った内容を思い出す。
確かにルールを作るなら誰よりも強くならなければならない。
「わかりました」
「君は私を叩きのめせばいい。それで一先ず村の連中は君を認めるさ。その後はみなを説得する手伝いも約束しよう」
そこで言葉を区切り、大きな手の平で自らの顎を撫でる。
「流石に殺す事はしないが、私が勝った際には我ら魔物の意見を取り入れて、君のいう魔族達のルールを作ってくれないか?」
確かに力のない王に従う理由ない、という事だろう。
「いいでしょう。でも言っておきますけど、理不尽なルールを作るつもりはありませんよ。元から」
これだけは言っておかなければ。私は別に自分が好き放題出来る国を作りたい訳じゃない。
きっちりとルールを守る国あってほしいだけなのだから。