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4話

 ロカと呼ばれた金髪の子と共に、ラジエルを寝かせた家に急ぐ。

 正直な所、私では怪我の具合などさっぱりだ。漠然と酷い怪我だと言うの分かるのだけれど、傷の治療や、どんな薬がいるか、専門的な事など一介の学生では見分ける事ができる訳もない。


「ここよ」


 私が案内した家を見て、しっぽを立て叫ぶロカ。


「私の家じゃない!」

「不法侵入については後で然るべき謝罪と、相応の罰は受けます。でも今はラジエルの具合を見て」


 ドア代わりの布を潜って家主より先に家の中に急いだ。


「あ、ちょっと!」


 私が室内に入ると直ぐにロカも追って入って来た。さきほどまで威勢がよかった彼女も横になったラジエルを見て絶句する。


「ら、ラジエル!」


 ラジエルのボロボロ具合を見て一瞬戸惑った様子だったロカだが、直ぐに冷静になると駆け寄りラジエルの体をゆっくりと触れて行く。


「打撲とか擦り傷だらけね……。幸い骨とかは折れてはいないみたいだけど……。熱が出たりするとまずいわね」


 打撲や擦り傷だけと聞いてホッとする私。けれどロカは素早く立ち上がり、戸棚から様々な物を取り出す。その中で比較的小さなツボを持つと再びラジエルの元へ戻る。


「一先ず安心、か」


 打撲や擦り傷はあるが、骨は折れていないと聞いて、私は思わず呟く。しかしその言葉を聞いたロカが鋭く睨み付ける。


「バカっ! 豊富に薬を持ってるあんた達人間と違って、傷口から菌でも入って熱が出たら私たちじゃどうしょもないんだから! 私やラジエルのような人型は特に! 感染症なんかになると手の施しようがないわ……」


 最後の方の言葉は小さく、悔しそうに俯くロカ。


「なら尚更、治療が必要なんじゃない? できる事からしましょう」


 涙目になったいたロカが服の袖で強引に涙を拭う。 


「……分かってる。傷に効く薬草が切れてるの。私が探してくるから、アンタここにいて」


 その言葉を素直に受け入れる訳にはいかない。


「ううん、私が行く。私は全然知識がないから、貴女がラジエルの傍を離れると対処しようがないわ。どんな物を取ってくればいいの?」


 私の言葉にジッと、見極めるような視線を感じる。 


「人間なんかを信用すると思う?」


 その視線を真っ向から受け止める。私よりも背が高く体格もいいロカの強い視線は、普通の生活をしていた私にとっては怖いものである。

 しかし引く事は出来ない。なぜなら私は既に覚悟を決めたからだ。これから彼らの王になる。

 そしてその一番初めの部下を死なせるわけにはいかない。

 

「してもらいましょう。私にとってこの世界で頼りになるのはラジエルだけ。それに恩もある。助けられたら、助ける事で恩を返す。それが渡世のルール。私の信条に誓いましょう」


 ロカは迷いを含んだ瞳のまま言葉を吐き捨てる。


「言ってる意味が全然ッ、わかんない……」


 傷ついたラジエルを見て迷いを断ち切る様に頷いた。そんな時だった。横になったラジエルが緩慢な動きだが確かに意思を持って上半身を起こした。


「ろか……」

「⁉ ちょっと、駄目よ寝てないと!」


 慌てたロカがラジエルの肩を押して、ベットへ戻そうとするのだが、ラジエルはいう事を聞かず、ポケットから宝石のような綺麗な鉱石を取り出しロカに握らせる。ロカはよほど心配なのか、鉱石を握ったままラジエルの手を離さない。


「鑑定石? あんた、こんな物どこで……」

「ロカ……。どうか我が王に力添えを……。幸様の配下、国民になれば我らは人間と対等に……」


 苦しそうに、呟くラジエル。


「何訳わかんない事言ってんのよ! いいから寝てなさい!!」


 肩を押すロカを無視してラジエルは大きく息を吐き、目を瞑る。何か真剣に祈るように……。

 すると一瞬だが、ラジエルの体が青白く光ったような気がした。


「!」

「これがわたくしの新しい力……です。どうか、ロカ。幸様と」


 それだけ言うと再び力尽きるように気絶するラジエル。

 私も思わず近寄り、ラジエルをのぞき込む。私が思っていたよりずっと顔色は悪い様だ。

 どうゆう事なんだとロカに尋ねようと横を向くが、ロカは信じられない物を見たような顔をしていた。

 その手には先ほどラジエルが持っていた宝石モドキ。さっきより少しだけ淡く光っている。


「どうしたの?」

「な、なんで? でも……確かに。それに、この傷の回復は本当に人間みたい……」


 呆然と呟くロカの肩を強引に揺らす。


「何があったんです?」

「アンタ……本当にラジエルが別の世界から呼んで来たっての?」


 こちらに強引に向かせたロカは抵抗する事なく私の方を向いて真剣な表情を向けてくる。


「多分、ね」


 私が短く答えると、苦笑するロカ。それは横に眠るラジエルに対してだろうか。


「ラジエル……。本気だったのね。一先ず……ラジエルはもう大丈夫よ。怪我自体はまだ経過を見ないといけないけど、怪我が元で発症する病気なんかは大丈夫……だと思う」


 確かにさっきまで具合が悪そうだったラジエルの寝顔が今は安らかだ。

 どうゆう事だろう?

 そこでラジエルが手渡し、今はロカが握っている宝石に目を落とす。


「これは対象の能力が見れる魔道具。魔力があれば魔法が使えなくても使えて、私たち魔物でも使える。私も人間が使うところを見た事があるわ。人間達が数多くの能力を持つのに、私達魔物が持つ能力は少ない。だけど……今見たラジエルには人間も持っていない能力があった」


 能力、つまり私のスマホと一緒でステータスが見れる宝石だという事だろうか。そういえばあの三バカが逃げ出す時に何か落としたのをラジエルが拾っていたような気がする。


「本当にアンタが私達を救う存在なの……?」


 その呟きは私に向けてではなくどこか自分自身に確認するような呟き。けれどそれは一瞬で。

 すぐに顔を上げると私に掴み掛からんばかりに、キスでも出来そうな距離にまで詰め寄ってきた。


「ラジエルに何をした。村を出た時にはこんな人間の様な『力』は無かった。なら理由はアンタしかいない。……ラジエルに何をしたのよ!!」


 目の前に視界いっぱいにロカの顔が来る。荒い息遣いさえ感じる距離。だからこそ彼女の真剣さは理解できる。顔も、瞳からも強い意志を感じる。

 これは怒りじゃない。勿論、友を傷付けられた怒りはあるのでしょうけど、それは私に向けられてはいないのは分かる。

 私に向けられたのは純粋な疑問だろうか? それだけ彼女にはとっては先ほどのラジエルの事は大切な事なんだろう。

 まだほんの数時間前のハズなのにだいぶ遠い気がする出来事を一瞬だけ思い出す。ラジエルに呼ばれ、私自身の理想を作る考え。

 真剣な彼女に適当な答えはできない。


「ラジエルは私の初めての国民になった。そしてたった一人の家臣でもある」


 だから私も飾らず、簡潔に。そして最大の信条の元に答える。

 もちろんこれだけで伝わるとは思わない。

 だから言葉を続ける。


「ラジエルには魔物達の王になって欲しいと言われました。私は王になって規律のある国を作るつもりです。その国では……人間に理不尽な真似はさせないわ」


 私の言葉に大きく目を開くロカ。その瞳からは涙が堪えきれないように流れ落ちていった。

 そして少しだけ深呼吸して目を閉じる。

 再び瞳を開いたとき、強い意志が宿っていた。


「フンっ。アンタ人間じゃない。信じられる訳ない。でも、本当に人間達に対抗できる力があるのなら……。私が実験台になる。近くにいて監視もする。ラジエルの力……。あれが本当に使えるのか……私が確かめる。だから私もアンタの国民とやらにしなさい!」


 今度はこちらが驚く。でも私はあんまり表情には出てないので顔には出てないと思うが……。


「私の国民になるのなら、規則は絶対守ってもらいますが?」

「なんでもいいわよ。人間に虐げられてるこの状況が変わるなら」


 私は頷く。私自身の力である。使い方は理解できた。


「ではロカ、貴女を私の国民に」


 そう宣言すると私自身から少しだけ『何か』が分かれ、ロカへと向かう感覚がする。これ感覚自体は、うまく説明できないけど。


「っ! これは……。やっぱりアンタ……」


 ロカの驚いたような言葉。これで私もゆっくりとこの世界の事が聞けるだろう。

 ラジエルも一先ずは安心のようで一息つける……。そう思っていた。


「大変だロカ!」


 慌てた声を上げて突然家に入って来たモノを見て、私はフリーズ。

 だって……。そいつは巨大な目玉だったのだから。

 一体どこから声を出しているのか不明だが、その声は大いに焦りを含んでいるのが伝わってくる。

 勿論ただの目玉なのだから足もない。フワーと浮きながら私達の方へと近づいてきた。


「冒険者の集団が近くに集まっている!!」


 固まった私とは違い驚いた表情のロカ。でもそれはこの目玉に対してではないだろう。

 彼らが恐れる、人間。冒険者達がいると言う知らせ。

 まだまだ、一息とはいかないようだ。


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