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3話

 私は魔族の少女、ラジエルをお姫様抱っこしてお城みたいな——実際、今は使われてない古城のようだ——場所から脱出。

 城の外は深い森であり、新鮮な青々とした香りが私の住んでいた都会とは違うのだと教えてくれていた。

 時刻は太陽が傾き始めているので、もうすぐ夕方だと推測できる。


(しかし……人を1人抱えているのに全然重くない……)


 明らかに何かしらの力が働いているのを感じる。

 なんとなくだがこれが魔法……だと思う。

 魔法と言う異世界を代表するような力を実感し興奮していたし、感動もしていた。とは言えラジエルの手前、はしゃぐとかっこ悪いので平静なフリをしていたけど。

 そもそも魔法と言う現象自体未知のもの。けれど、今私は感覚として使えるというのが理解できるから不思議な物だ。

 恐らくだが、ラジエルに貰った石。確か「奇跡の宝珠」あれが原因だと思う。石がスマホと融合した後で直感的に魔法を使っていると感覚で分かるようになった。






 実際あの三人組をノシした後でスマホを確認すると画面には見覚えのない、スキルと言うアプリが表示されていてアプリを起動すると一項目だけ『王のルール』というものが書かれており、その下に『国民(魔族)に正当な理由もなく危害を加える事を禁止』と表示されていた。さっきの3人組みがハンマーでぶん殴られたのは、私が定めたこのルールに違反したからだろう。

 なんにせよ、落ち着いたら念入りに調べた方がいいだろう。

 きっと『王のルール』には私がルール違反をした場合の罰則もある筈だから……。

 唐突に力持ちになった理由もスマホを眺めていると判明した。『王のルール』をタップして詳しい表示をして、下へスクロールしていくと『魔法』の欄があり、その魔法の欄をタップすると「身体強化」レベル1とある。ゲーム的に言えばスキルを持った事で連鎖的に『魔法』も使えるようになったという事だろう。しかし身体強化の魔法と言ってもコンクリートブロックを素手で破壊とかは出来なさそうなので、あくまでちょっと、と言ったところか。

 炎を出したりとか派手なのは何かしらの『スキル』か『魔法』が必要なのかもしれない。

 いやもしかしたら、まだまだ他の力があるのかも……。

 ゲームの様に簡単にヘルプが表示できる訳じゃないので、自分が出来る事を探すのも一苦労だ……。


(いけない。色々と考える事はあるけど、まずはラジエルを手当てしないと)


 腕の中のラジエルはさっきから照れと傷の痛みからか、ずっと黙っている。

 多分、怪我の痛み7。照れ3と言った感じだと思う。

 今後の事を相談したいけれど、怪我人なので、まず落ち着ける場所を探そう。

 と、一歩を踏み出したけれど…………。


「? どうしました?」


 急に足を止めた私を訝しげに上目づかいに覗き込むラジエル。


「うん…………。その……ね。私……。どこに向かえばいいの?」


 そう、カッコ付けて飛び出したまではいいけれど、私はこの世界に来たばかりである。安全な場所に心当たりなどある訳がない。


「あ、これは申し訳ありません。小さいが我々の村があります。そこに行きましょう……」


 言葉はそのものははっきりとしているが、はぁはぁと呼吸が辛そうだ。

 散々暴行を受けた後なので当然か……。


「ゴメン。あまり喋らなくて大丈夫よ。まずはそこを目的地にするわね。辛いだろうけど、案内して」


 小さく、だがはっきりと頷く。その赤紫色の瞳には力強さは失われていない。

 ラジエルの体は柔らかく、抱えた体からもなんだが甘い匂いがする気がした。


(いやいや……何を考えてるのよ……)


 頭を振って逸れる思考を戻す。

 段々と日が沈む空を目にしながらラジエルと多くはないけど、話をして彼女の事を知る事ができた。

 話している時からも薄々分かっていたがラジエルは賢く優秀らしい。彼女の案内で目印のない森の中なのに的確に集落の入り口まで辿りついた。

 突然知らない人間が近づいてきたら警戒されるかもしれないので遠巻きに集落を眺める。

 見た目は非常に簡素だ。江戸時代の家屋みたいな建物が数えられるほどで、集落の外周には簡単な柵。門は木製で一番大きなものだろうか。

 その木製の門の左右に謎の生き物。トカゲ……? 緑色の鱗を持つ二メートルぐらいある二足歩行のトカゲだ。古代ギリシャ人のようなトーガぽく民族衣装を体に巻いている。山奥に住む秘境の民族。と言った感じだろうか。やや前のめりではあるもののしっかりと二本の足で立っており、木の棒にしか見えないが先端に石が付いている事から槍であると推測できる物を持っている。つまり、少なくとも武装をすると言う意思、知識があると言う事。


(多分、リザードマン……かしら。ゲームではよく見かけるけど)


 実際には見た事ないので、もしかしたらあれでハーピィとか言う名前かもしれない。

 集落を見ていると、やたらに視界がぼやける。元々目はゲームのし過ぎで視力が落ちているのだが、ちょうどあの3人組みを追い払った辺りから調子が悪い。

 異世界に来た衝撃などでメガネが壊れてしまったか……。

 一先ず、メガネは外しておく。するとなぜか視界がクリアになった。


「……視力が戻ってる? ううん。寧ろ視力があった頃より綺麗に見える」


 視力が回復しただけでなく、上がった。やはりこれは魔法「身体強化」のお陰なのだろうか?

 私がジッと見ている事に、向こうも気が付いたらしい。見つからない様にそこそこ距離を取っていたんだけど……。

 魔族達の方が身体能力も索敵能力も高いようだ。まぁ、ゲームでは人間より身体能力が高いのは基本だ。驚く程も事もない。


「人間だぁ!! 人間が来たぁぁ!?」

「あの……。えーと……」


 手を前に突き出した間抜けな格好のまま停止してしまう私。

 彼らの慌しい動きの前に『敵じゃない』『一先ず話しを聞いて』と言った言葉を発する前に恐ろしい速さで村の中へ消えていったからだ。

 やや発音は怪しいもののはっきりした恐怖の声。ただ表情から感情は読み取れない……。しかし言葉から感じる危機感、恐怖感は伝わってきた。

 実際村の中で悲鳴や喧騒。そして大勢の足跡が遠ざかっていく音が聞こえてくる。

 私自身は所詮平和な暮らしをしてきたんだなと思いながらも、制止の為に出した手をゆるゆると下ろす。


「せめて話は聞いてよ……」

「みんなを許してあげてください。魔物にとって……それ程までに人間とは恐ろしい存在なんです」


 苦しげに胸元を押さえるラジエル。多分傷の痛みだけじゃくて今までに味わった心の痛みもあるのだろう。


「別に怒ってないよ」


 ラジエルを安心させるように笑顔を向ける。


(でも困った。私は精々絆創膏を貼るぐらしか手当てなんてした事ないわ……)

 

 静かになった村の中をラジエルを抱いて歩く。誰も居なくなってしまったので、門を開けて村の中に入ったのだ。既に日は沈み、所々に置いてる石で出来た灯篭のおぼろげな光が家々を照らしていた。


「家主たちも居なくなっちゃったし……。怪我人がいるので借りますよー……」


 たぶん、この村の感じだと他人の家に入っては行けないというルールはないだろう。ドアも布を下げるだけ。そのドア代わりの布も開け放たれているので、問題ないと判断。

 村の家屋は全て質素な土壁の家ばかりだった。他に休むのに適した家があればいいがどこも似たり寄ったりなので一番手前の家を借りる。

 室内には木を切ったテーブルに切り株の椅子。そして一応、ベットなのだろう。ワラに布だけ……随分粗末だが、村全体の生活水準を鑑みれば、これが一般的なんだろうか。

 ラジエルをベットに下ろす。


「困ったわ……」


(いくらなんでも勝手に人の家の棚を漁るのはルール違反)


 ゲームならシステムが許すなら問題ないが、ここはリアルだ。


「ラジエル」

「はい」


 私が呼ぶと、ゆったりとだが体を起こす。


「村のみんなに話をして、怪我の手当てをしてもらえるように言ってくる」


 私の言葉に目を伏せるラジエル。


「なら私も共に。恐らくみんな人間を怖がって話しをまともに聞かないと思いますから」


 怖がって……。確かに先ほどの狂乱ぶりは尋常ではない。よっぽどの事があったのだろう。

 ラジエルはかなり辛いのか言葉では付いてくると言っても立ち上がる事が出来てない。再び眉間に皺を寄せて、厳しい表情をしている。

 だから私はラジエルを安心してもらえるように精一杯の笑顔で答える。


「なら尚更1人で行ってくるわ。私は王になるって決めたから」


 私の言葉に少しだけ考える素振りをみせるラジエル。しかしすぐにはっきりと頷いた。

 それは信頼だろうか? 彼女が王と私を見てくれるが故に任せてくれたのだろうか。


「分かりました。幸様。わたくしは少しだけ休ませていただきます」


 気絶するように目を瞑り寝てしまったラジエルに聞くことは出来ない。

 眠りについたラジエルを確認して建物の外へ出た。

 村の中には誰も居ないので私達が村へ入って来たのとは反対の方向へ行ったんだと思う。

 一刻も早くラジエルの手当てをしてもらう為に村の反対側に走る。

 再び木製の門があり、開け放たれていた。更に奥にはまた森が始まるようで、漆黒が横たわっている。そして僅かだが獣道もあった。

 恐らくここを通って逃げたのだろう。また逃げられてもの困るので足音を殺して進む。

 暫くして小さめの広場に魔物達が集まっていた。

 ラジエルは角ぐらいしか人間との差がないので、他の魔物達もそのような感じだと思っていたが違ったようだ。

 火が沈みボンヤリと月明かりに照らされる彼らの影は長く恐ろしげに見せる。

 大半は小さく光り、宙に浮くモノで構成されているようだ。


(ラジエルにああ言ったけど……どうしたものかな)


 彼らは酷く人間を怖がっていた。一先ず強引にいくしか手段がないか。

 逃げられては話もできない。

 私は少しだけ深呼吸をして意を決して、隠れたいた場所から飛び出した。


「!?」

「ヒッ!!」

「さっきの人間!」


 みんな一様に恐怖の感情が巻き起こる。


「逃げないで! 私は貴方達に危害を加えるつもりはない! ラジエルが怪我をしてるの! 私を信じなくてもいいから誰か手当てを出来る人は手を貸して!」


 いっきに言い終わると、大半の魔物が逃げ出そうとする中で1人の魔物が震えながらも進み出て来る。


「みんなは逃げて。わ、私がこの人間の話を聞く。ウソだったとしても時間稼ぎぐらいは出来るから」


 綺麗な金色の髪を持つ背の高い少女だ。

 私より背の高いラジエル。そのラジエルより更に背の高い彼女は男性平均よりも断然背が高い。

 人型だが動物の耳が頭の上から生えてピンと立っている。犬かネコの耳だと思う。可能性としては犬が近いか?

 更にお尻の付近から尻尾と思しき物が感情を表す様に丸まっている。


「ロカ! ラジエルもその人間に襲われたに違いない!」


 イメージ通りのザ・スライムと言った見た目のスライムがどこから声を出しているのか分からないが焦ったように叫ぶ。


「でもラジエルは仲間よ。見捨てられない。それにアタシ達をどうこうしようって言うならこんな回りくどい事しないよ」


 スライムに向かって喋るとこちらに向き直り、睨む様に目を向けてくる。

 けれど、未だに足の振るえは納まってない。


「どこにいるの?」


 今は1人でもいい。


「こっち」


 金髪のロカと呼ばれた彼女を連れて、ラジエルの居る家に戻るのだった。


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