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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

輪廻に囚われた勇者

作者: 知脳りむ
掲載日:2023/02/20

「はぁ……どうして……こんなに……」


 溢れ出る涙と、右腕の出血。

 痛みが全身に滲み、体は限界を越えている。


 今込み上げてくるのは、絶望と恐怖の感情だけだ。

 俺がもっと上手く戦えていれば。

 俺がもっと賢い指示を出せば。

 俺がもっと強ければ。


 負けなかったはずなんだ。

 勝てたはずなんだ。


 なにもできなかったことに、後悔だけが募る。

 立ち向かう勇気は沢山あって、正義に燃える心があって、仲間はどんどん増えて、強い魔物もたくさん倒した。

 大勢の人間から称賛されて、勇者だと呼ばれ褒めそやされた。


 目の前には、数百本と連なる触手の生えた化け物がいる。

 負けたんだ、こいつに。


 化け物の傍らには、俺の右手が無惨にも転がっている。

 その横には、俺の妹の姿もあった。

 血の気の失くなった青白い妹が。


 化け物は俺の惨めな姿を見下ろすと、静かに触手を構えた。


「俺は……こんなところで……諦めない」


 自分の言葉で自分を鼓舞する。

 本当は、勝てるなんて思ってないんだ。


 盾を、袖の布を引きちぎって、腕にくくりつけた。

 俺の右手はもうない。

 だから、盾を使うにはこうするしかないのだ。


 混濁した、曖昧で不明瞭になっている意識を、必死に、ただ必死に保とうとする。


 そして、周りの仲間たちの屍をまさぐる。


 俺の左手に、戦うための武器はもうないのだ。

 仲間の死体から、残った武器を探すしかない。


 孤児だった魔法使い。

 故郷を守れなかった剣士。

 枯れた森を一人で守っていた狩人。

 家族に裏切られた僧侶。


 そして、俺の妹。


 共に冒険をしてきた大切な仲間の亡骸を、今はゴミの山を漁るようにしている。


「どこだよ……。なんでないんだよ……」


 けれども、探せど探せど、武器はない。


 武器どころか、あたりにはなにもなくなっていた。

 さっきまであった斧も杖も魔導書も。

 妹の死体も、俺の手首もない。


 そこでやっと気づく。


 痛みはなかった。

 気づく間もないことだった。

 俺は、既に死んでいるのだ。

 死体をまさぐっている間にあっけなく殺されたのか。

 一矢報いることさえ叶わず、背中を向けている間に。

 最後の抵抗させて貰えずに。


 今回もまたダメだったのか。


 何度も、仲間を集めて、強い魔物を倒して、俺が強くなって、名を上げて……。

 そして、あの化け物に出会って殺される。

 何度も何度も、毎回違う人生を送って、毎回違う仲間ができて、その仲間たちが毎回違う死に方をする。


 2098回の人生を送った。

 ただあいつを倒すための人生を。


 あの有名な偉人も、聡明な冒険家も、伝説と共に語り継がれる聖人も、人類の危機を救った英雄も……全て俺だ。

 その全てで、俺はあいつを倒せなかった。




 神様、俺の勇者ごっこはいつ終わるんですか。

 いつになったら、この地獄にも思える輪廻転生は終わるんですか。


 輪廻の輪という檻に囚われ、転生は続く。

 

 こうして、俺の2098回目の転生は、失敗に終わり、2099回目の転生が始まった。

 

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