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キューピッド様  作者: 流風
1/3

1.ラジオ投稿

 




 微かに聞こえる雨音を聴きながら、冷房の効いた部屋でラジオのスイッチを入れる。昔から愛用しているラジカセの、この『カチッ』というボタン音が好きだ。


 軽く軽快な音楽が流れた後に、低音で耳に心地よい男性ラジオパーソナリティの声が脳内に響いた。


「はぁ〜い、こんばんは。今日も家事や仕事が終わって一息ついている皆さんのお時間を、ちょ〜っと拝借してお届けします。本音やムカついた事、なんでもぶっちゃける『ぶっちゃけトークラジオ』。今日も時間が許す限りお届けします。今日はお笑い芸人の『なっちょん』さんとお届けします」


「はい、なっちょんです。皆さんよろしくお願いします」


 今日のゲストはお笑い芸人か。


 まずは2人の軽いオープニングトークが流れる。


 最近ではTikTokやYouTubeが人気だが、この『音』だけの世界で情景を想像しながら聴くラジオが昔から大好きだった。時代の流れに流されて無くならないように願う日々だが。


「では、今日の皆さんのぶっちゃけをお届けしましょう。まずは…」




 レジ打ちの時ですら、ずっと店員同士でおしゃべりして「ありがとうございました」の一言もない店員の話。


 親友と思っていた女友達と彼氏が体の関係を持ってしまい、その事で親友を問い詰めると、「あんたがブサイクだから取られるのよ、バーカ!」と言われた女性の話。


 ミニスカートの女の子のスカートの中がこの角度からなら見やすいと判明した話。


 この「ぶっちゃけトークラジオ」は、愚痴やくだらない話など、個人情報は伏せているとはいえ、このご時世に放送禁止用語ギリギリアウトな単語を交えながら、ゆるいトークを繰り広げていく。深夜のこの、ゆるいトークが良いと、昔からのラジオ愛好家からは人気がある。


 ラジオパーソナリティとゲストが騒ぎすぎない程度の軽快なトークで進めていく、深夜に聴くのにちょうど良い内容なのだ。



「次の話題は……『12年一緒にいた猫が先日他界しました。家族全員で出かけていて、帰ってきたらソファの影に隠れるように息を引き取っていました。大好きだったのに……看取ってあげられなかった。もう一度、会いたい』という事ですが……」


「ペットロスですか。俺も6年前に飼い犬が亡くなった時にめちゃくちゃ泣きましたよ」


「泣いたんですか?!」


「泣きましたよ!男泣き!号泣!でも寂しかったというよりも正直なことを言えば、生きていた頃にもっと良くしてあげられなかったことを謝りたいなって……。あの時甘えて寄って来てくれたのに、なんで無視したんだろう。あの時寂しそうに鳴いてたのに、なんで一緒に遊んであげなかったんだろうって、ずっと昔のことなのに、いまだに後悔してますよ」


「あぁ、わかります。亡くなってやっと気づく事ってありますよね」


「そうなんですよ。いくら後悔して謝りたい願っても無理なのはわかってるんですけどね。でも、会いたいって願う気持ち、わかります」


 少ししんみりとした口調になったパーソナリティとゲストの会話。

 実は俺も先日、ずっと飼っていた猫のコタロウと死別したばかりだったから、この話題は心に刺さる。


「そういえば、亡くなったペットと会話ができる方法があるんですよ。なっちょんさん、知ってますか?」


「え?亡くなったペットとですか?そんな事無理ですよ」


 この世にいないのに、どうやって会話するって言うんだ?それに動物は言葉を喋らないし。そう思いながら手元のスマホでニュースをチェックしながら何と無しに聴いていると、


「ペットの霊を呼び寄せる……降霊術っていうんですかね。そういうのもあるそうですよ」


「あぁ、それなら聞いたことあります。本当なんでしょうかね?」


「さぁ?私にはわかりませんが、本当に会話できるのなら飼い主にとっては嬉しいんじゃないですか?」


「どうでしょうかね?人それぞれだと思いますが、私は嫌ですね」


「え?そうなんですか?男泣きまでしたのに?」


「泣きましたよ、寂しいですよ。でも、そんな事までして呼び出して、心配させるだけじゃないですか。自分が死んだせいで飼い主が泣いてる。どうしようって思わせたら、かわいそうじゃないですか」


「なるほど……確かにそうですね」


「そうですよ。だから、亡くなったら反省と寂しい気持ちを抑え込んで冥福を祈ってあげましょうよ」


 ーーー 胸が痛い。


 先日亡くなったコタロウに、会いたくて……会いたくて……。

 近所の神社に『コタロウに会いたい、会わせてください』って神様にお願いしに行ったばかりだったのだ。確かに、俺がこんなんじゃコタロウが安心して眠れないなと凹んでしまった。


 このお笑い芸人、なかなか良い事を言うじゃないか。そう感心しながらも俺が項垂れている間にトークが終わったのか、次の話題へと話が進んでいた。


「さて、次の話ですが……おや?深夜にこの話題、皆さん覚悟してくださいね。コックリさんって単語が視界に入りました」


「コックリさんですか?懐かしいですね。小学生の時にやりましたよ」


「怖いって思ってても子供の頃、好奇心に負けてやっちゃうんですよね〜。わかります。さて、今回の話はそんな好奇心に負けた女性からのお話かなぁ?」


「いいね、夏にピッタリの話題。しかも懐かしい」


「半年くらい前、可愛がっていた犬のハナが他界しました。おや、2件連続でこの話題ですね。とても可愛がってた……

 」



読んで頂きありがとうございました。

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