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final wish

 不本意ながら頭から『ティテュスの大河』に飛び込むことになりました。視界が鉛色に染まります。夢中で手足を動かして水面に上がろうとします。

 そんな中でも右腕をぐいぐいと引っ張られました。引っ張られる度に鋭い痛みに顔をしかめます。

 腕に絡みついているのは呪器プリンセスにまとわりついていた茨なのでしょう。彼女は河に落ちながらもその茨を伸ばしてわたしも巻き添えにしたのです。

 死なば諸とも。なんと言う執念でしょう!

 さすがに何世代もマルドゥーク家を呪い続けた存在です。

 わたしは彼女に引きずられる格好で『ティテュスの大河』を逆流していきます。

 茨を外そう左手を動かしました。とたんに激痛に呻くことになりました。

 そうでした。

 さっき手首のところが折れていたのです。

 さて、困りました。片手でこの茨を外すのは容易なことではありません。

 悪戦苦闘している間にもどんどんとわたしたちは河を登って行きます。そして、わたしは左手が痛まなくなっていることに気がつきました。いつの間にか骨折が綺麗に治っているではありませんか。まるで治癒の魔法をかけたようです。勿論、誰もそんな魔法をかけてはいません。そして、はっとなりました。

 これは傷が治ったのではなく、体がまき戻っているのです!

 『ティテュスの大河』の上流は過去へと繋がっています。となれば河を遡るとは過去へ戻ることを意味しているのです。

 つまり、今わたしの体は竜巻から落下して骨折する前の体になったということです。

 これはまずいです。

 このまま呪器に引きずられて遡っていけばわたしの心も体も若返ってしまうのです。若返ると言えば聞こえが良いです。子供になると言うべきでしようか?

 大人から子供、そして幼児に若返る。更にそれ以上に若返れば生まれる前、つまり消滅することになるやもしれません。

 わたしは必死になって、動くようになった左手も使って茨を外そうとしました。しかし、かえって刺で左手を傷つけるだけでした。

 素手では無理と諦め、切断のマギアプレートを使うことにしました。

 しかし! なんとしたことでしょう。

 切断の魔法が効きません。蔦に触れたとたんにプレートはその力を失うようです。


「あっ?!」


 別のプレートを使おうとバックパックの中に手を入れようとしたら肩がバックがずり落ちてしまいました。バックばかりではありません、着ている服が半分脱げかかってました!

 

 か、体が縮んでいる?


 やっぱり、体が子供になっています。ぐずぐずしていると子供どころか赤ちゃんになっちゃいます。

 こうなったら腕をマギアプレートで切り落とすしかない。と思いました。


 大丈夫! 後でまた繋げば良いのよ。今やらないと、手遅れになる!!


 自分に言い聞かせると、プレートを振り上げた。だけど……


 あれ?! これどうやって使うんだっけ?


 どうしてもマギアプレートの発動の仕方が思い出せない。


 そんな馬鹿な。忘れるなんてありえない。

 えっとたしか発動の呪文キーワードを念じるはず……あれ、唱えるんだっけ?

 あれ、あれ……って言うかこの円い板ってなんだっけ


 気づくと振り上げた左手をどうすればよいのも分からない。いえ、そもそも、この状況が分からなくなっていた。


 わたし、なにしようとしていんだっけ?


 ざぶりと波が立ち、わたしはしこたま水を飲んだ。いつの間に川、飲み込んだ水が塩辛くなかったから多分川なんだと思うけど、こんなところでなにをしているんだろう?

 えっ、本当にここどこ? 

 なんでこんなところで溺れているの??

 何か右腕に絡みついてて、ぐいぐいと引っ張られてる。これじゃ、上手く泳げない。なんなのこれ。誰か、誰か助けて!


「助けてぇ~! 誰か、助けてぇ~~」


 必死に顔を水面にだそうとバシャバシャと足を動かす。でも、どんどん辛くなっいって、ガバガバと水を飲んだ。息がつまり、体がだんだんと動かなくなっていく。


 ああ、わたしこのまま死ぬんだ。

 誰もいない、こんな訳の分からないところで死ぬんだ。


 そう思ったとたん、右腕が肘のところから突然切れた。

 びっくりした。びっくりして肘を見ていると間に肘からスルスルと新しい腕が生えてきた。

 その手の甲にはバラのような痣がくっきりとついていた。


 ああ、これって、ずっと欲しかったわたしの本当の右手だ。

 

 わたしは生えてきた手をうっとりと見つめた。


 眺めている内にも手は小さくなっていく。まるで赤ちゃんのような可愛らしい手になっていく。

 不思議な光景だ。

 いや?! 手だけじゃない。わたしの体が赤ん坊のように小さくなっていくのが分かった。そして、更に更に小さくなっていく。

 眠い。

 ……ひどく眠い。

 そう思った。

 考えがまとまらない。体も上手く動かない。

 体がゆっくり川底に沈んでいく。

 ゆっくりゆっくり沈んでいく。まるで揺りかごの中で揺られるようにゆらゆらと……

 そして、眠いの。眠い。瞼が重くて自然に閉じる。


 ゼルヴォス様……わたしは……


 あれ、わたしはなにを言おうとしたんだっけ?


  ゼルヴォス様って誰だっけ?

 

    わたしは……わたしは誰だっけ…………?


     わたしは…………


      わ

       た

        し

         は

          

       わ

         た

           し

             は





       エレノアに



            なりたかった

2025/03/15 初稿


次回最終回!

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