The end of War
マリウスの協力で町に掛けられていた呪いは解かれました。わたしも約束通りマリウスの命と立場の保証をカディス様にお願いすると転移を使って屋敷に戻りました。
一息つく間も惜しんでゼノ様の部屋に詣でます。ドアを開けるとゼノ様がベッドの上で身を起こしておられました。
良かった。お気づきになられたようです。
それを見て、内心ほっとしました。
少し鼻の奥がツンと熱くなりましたが、それに気付かれないように平静を装うよう注意しながら喋ります。
「お気づきになられましたか。
ご気分の方はいかがでしょうか」
「悪くはない。特にあれだけの呪いを受けた後の目覚めとしてはむしろ上々と言うべきかもしれない。
ところで、ここは私の部屋だよね」
「はい」
「魔法局で解呪してから運ばれたのかい?」
「いいえ。転移は失敗しました」
「やはり失敗したのか。それでどこへ転移したんだ?」
「屋敷です」
「屋敷? 屋敷とはこの屋敷のことかい?」
「はい」
「よく戻れたものだ。できすぎだ」
「……そうですね」
そう、できすぎです。その事はずっと引っ掛かりを感じているのです。
できすぎ、偶然、超幸運……
はたして、本当にそうなのでしょうか。
偶然では語れない必然のようなものが隠れている気がするのです。
しかし、今はそれについて答えるだけの情報をわたしは持ち合わせてはいませんでした。故にそれについては無言を貫くことにしました。
「それにしてもよくも一人であの数の呪いを解いてくれたものだ」
そうです!
わたし、頑張りました。褒めてください!!
そう叫びたい欲望が一瞬わたしを覆い尽くそうとしました。けれど、その薄汚れた感情を懸命にふるい落とします。だって、それは正しくも公平でもないからです。
「……いえ、一人ではありません。エレノア様が力を貸してくれました」
「エレノアが?!
バカな。彼女にそんな事ができるとは思えないが」
もうその辺でエレノアの秘密をゼノ様に打ち明けるべきなのでしょう。わたしの中ではそれは決着がついていることでした。
「あの方はイルシャーリアンです」
「なんだって!」
ゼノ様は目に見えて動揺されているようでした。信じられないと言う思いと、彼女がイルシャーリアンであった場合にゼノ様が期待すること。そう言う心の動きが見え隠れしているのが見て取れました。
「彼女とは話しました。ですが残念ながら呪いについて有益な情報を持ってはいませんでした」
期待をさせて落胆させるのも酷でしたので、まずその点をはっきりとお伝えすることにしました。
まあ、詳細に問いただしたわけではないのですけど……
それでもです
エレノアは呪いに関することは皆無であることはゼルヴォス様の解呪の時の言動を見て十分すぎるほどわかります。
「そ、そうだ! もう一人、あの呪術師はどうなった?
町は呪いから解放できたのか?
いや、いや、それよりはあれからどのくらい日にちが経っているんだ?」
矢継ぎ早に質問が飛んで参ります。
お元気そうでなによりです。呪いによる後遺症のようなものはないようで安心しました。
「3日です。
例の呪術師の名前はマリウス。 町は無事解呪されました。
カディス様にお願いして身柄を保証してもらっております。無事ですのでご安心を。
実は直接マリウスともお話をしております。
町の解呪の件がありましたから……」
そこで言葉を切ります。そして、次の言葉をどうするかで悩みました。いえ、正確には躊躇ったと言うべきでしょうか。もう、答えるべき言葉は決まっているのですが……
「……特にめぼしい話は聞けませんでした」
嘘でした。
マリウスの町への呪いの解除に立ち会った時、わたしはある仮説を思いついたのです。ただ、それをまだゼノ様へお伝えするつもりはありませんでした。期待させ、違いましたとがっかりさせる訳にはいかないからです。
ここは慎重にもう少し1人で確認をしようと思っていました。なので、その後に謎の呪いについて聞かれても、とぼけた回答をいたしました。ほんのちょっぴり良心が痛みます。
その後、わたしは反乱が鎮圧したことを報告しました。
「……今回の反乱はほぼ鎮圧できたと先ほどカディス様よりご伝言がありました。
おめでとうございます」
わたしの言葉にゼノ様は少し虚をつかれたような表情になられました。
「えっ? ああ、ありがとう。
そうか終わったか……」
そして、あわててまるで取り繕うように言いました。なにか気になる事がありますか?、と問うと、なにもないさ、とお答えになりました。
ああ、これも嘘なのでしょう
と、わたしは思いました。ゼノ様の気持ちは手に取るようにわかります。
ゼノ様にとっては反乱のことなどもうどうでも良いのでしょう。それよりもエレノアと分かれることの方が重大事なのです。
当の昔に心を奪われているのにその事は気付かず、困惑しているゼノ様は少し可哀想でした。
そして、わたしのもっとも大切なものを奪っていったあの女が心底憎々しく思いました。
2024/12/28 初稿




