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After care

 解呪はついに最終段階に到達していました。呪いのコアと言うべき魔力が複雑に絡み合い球体のような形になった部分が残りました。エレノアは顔を真っ赤にしながら魔法を練り上げていきます。

 さっきから鼻血が止まらない状態でした。

 極限までの集中が彼女の身体を蝕んでいるのです。このままでは彼女の命が危ないかもしれません。ゼノ様ならきっと今すぐ止めろとお命じになることでしょう。自分の命よりエレノアの命が大事と言うでしょう。しかし、わたしにとってエレノアよりゼノ様、ゼルヴォス様のお命のほうが大事なのです。そして、それはわたしだけではなくエレノアもそう思っている気がしました。

 この女は、そういう性分なのです。乗りかかったら最後まで面倒を見きる。たとえ自分の命が危険になろうともです。

 ゼルヴォス様を助けようと一緒に協力したこの短い時間の間でそれが理解できました。

 

「成功よ。解呪は無事完了したわ」


 エレノアにそう告げると彼女は突然膝から崩れ落ちました。わたしは慌てて彼女を支えます。


「エレノア、エレノア!」


 声をかけましたが、彼女が目を開けることはありませんでした。それでも彼女の暖かい体温が伝わってきます。呼吸も安定していて命の危険はなさそうでした。極度の精神集中と体力の消耗で限界がきたのでしょう。

 わたしは1度、ゼルヴォス様へと目をやりました。

 ゼルヴォス様の解呪は既に完了しています。少し置いておいても問題はないでしょう。今は、彼女エレノアの、この戦友の介抱を優先させることにしましょう。

 抱えるのは無理そうです。まして1人で本館まで連れていくのは不可能に思えます。そこで、取りあえず階上のわたしのベッドに寝かせることにしました。肩に担ぎ、半分引きずるように階上に運びます。よろよろと頼りない足取りで階段を上ります。


 あーー、この女、それにしてもクソ重い!!



 取りあえず気絶したエレノアをベッドに運び、ヘンドリックを呼び、後の事を諸々任せると、地下に戻ります。もちろんゼルヴォス様の楊子を確認するだめです。

 けれども、地下にゼルヴォス様はおられませんでした。地下の寝台に横たわっていたのはゼルヴォス様ではなくゼノ様でした。

 なんということでしょうか、ほんの少し目を離した隙にまた変身が行われたようです。

 これには驚きと少々の混乱をさせられました。一体なんでこのタイミングでまたゼノ様へ戻られてしまったのか? 理解に苦しむことばかりです。 

 とはいえ悩んでばかりもいられないため、取りあえずゼルヴォス様……いえ、ゼノ様を離れにあるゼルヴォス様の部屋へお運びすることにしました。今回はちゃんと浮遊のマギアプレートを用意していますので楽々です。

 手早く部屋へ運びベッドに寝かせると、すぐさまカディス様へ連絡しました。

 例の呪術師のことです。マジックバインドで拘束したとはいえあのまま放置するには余りにも危険な存在です。それに不測な事態で彼が死んでしまうことも避けねばなりません。彼は今回の呪いの真相メカニズムを知っている唯一の人物だからです。すぐに慎重かつ厳重に身柄を拘束してもらわねばなりません。



「なるほど、拠点の司令官とはすぐにコンタクトをとるが、……さて、相手をどう扱えば良いかな。そんな危険な相手を魔法や呪いの専門家でない連中では扱いきれないと思うが」


 通信鏡からカディス様が懸念を示されました。確かにおっしゃる通りです。隙をみてどんな呪いを撒き散らすか分かったものではありません。ですから……


「わたしが参ります」

「参るって……君がか? いつ? 今は屋敷にいるんだろう。何週間も放置していろというのかい?」

「いえ、転移で戻ります。だから、現場には怪しい仮面の女の指示に従えと申していただければ良いです」

「転移で戻る? そんなことができるのか」


 カディス様は驚かれていましたがあそこから屋敷に転移できたのですから逆ができないはずはありません。今回は自分一人なので、むしろ来たときよりも難易度は下がっています。


「できます。そちらの方はお気になさらず。現場への伝達のほうをよろしくお願いいたします」


 そそくさと通話を打ち切るとすぐに転移の準備に入りました。準備と言ってもマギアプレートを用意して魔力をこめるだけなのです。この辺は本当にお手軽です。

 目の前の空間が歪み、転移門ゲートが現れました。二度目なので恐怖も緊張もずっと少ないです。ほとんど躊躇うことなく転移門をくぐりました。

 再びあの茶色に煤けた世界に包まれました。

 慣れたとはいえ、良い気持ちはしないものです。一刻も早くこんな世界からは抜け出したいと思うのですが、敢えてなにもせずに異界を観察します。神経を集中させるとわたしの体からキラキラと光る糸のようなものが四方八方に向かって伸びていました。それらはわたしがいままで経験して記憶、あるいは因果の繋がりです。

 少しお屋敷のことを思ってみます。

 すると、その無数の糸の一つが太く、きらめきも強くなりました。つまり、この糸が屋敷とわたしを繋ぐ因果と言うことでしょう。

 大体コツは分かりました。

 呼吸を整えると例の呪いの町のことを思います。

 すると、1本の糸がキラキラと光始めます。わたしは更にあの夜の戦いの事を考えます。

 ぐいっと体が引っ張られる感覚に襲われました。目の前の空間が光ったと思った次の瞬間、わたしは見覚えのある街並みに立っていました。真夜中、ゼルヴォス様と共に待ち伏せをした呪われた町の一角でした。

 今はお昼のようで、空には太陽が目映く光っていました。わたしたちが開けた壁穴から外に出て野営に向かいます。程なく四角い顔の隊長を見つけました。向こうの方もわたしの姿を見つけたようで、そそくさとやってきます。カディス様は十分話を通しておいてくれているようです。


 ならば話は早いです


「捉えた術者は無事ですよね?

すぐに尋問をしたいので用意をしてください」

 

 隊長に対してわたしはそう言いました。


2024/12/07 初稿

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