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Return to sweat home

 異界を抜け現世に戻れたと思ったとたん、わたしたちの体は落下しました。

 とっさにゼルヴォス様を庇おうとして背中を地面に強かに打ち付けました。

 苦痛に呻いている所に声がかけられました。


「あ、あなた、クラリスよね? 大丈夫? なにがあったの?」


 女の声です。聞き覚えがありました。

 抱き起こされ、ようやく理解します。


 くっ、エレノアじゃない


 よりにもよってこの女に助け起こされるとは屈辱以外のなにものでもありません。

 しかし、エレノアがいるということは……


「こ、ここはお屋敷……なの? なんでこんなところへ」


 なにゆえお屋敷に転位してきたのか?

 いえ、お屋敷はゼルヴォス様にとって格別縁の強い場所なので戻ってきても不思議ではないかもしれません。

 でも、なぜ急に異界とここが繋がったのでしょうか。ゼルヴォス様の無意識がここへの道を開いたのでしょうか。転位は専門ではないので仕組みがさっぱり分かりません。


「ねぇ、この男の人は誰? あなた、伯爵やゼノと一緒だったんじゃないの? 二人は無事なの?」


 思い悩む思考にエレノアの声が割り込んできました。相変わらず図々しい……


「男、の、人……」

  

 そ、そうでした。こんなことを思い悩んでいると場合ではないのです。


「はっ! そ、そうだ。ゼルヴォス様! ゼルヴォス様、しっかりしていください!!」


 慌ててゼルヴォス様の様子を伺います。息はありますが苦しそうな表情のまま、やはり意識はないようです。


「こんなところでは何もできないわ。とにかく屋敷の中に連れて行きましょう。手伝うわ」


 エレノアが提案してきました。こんな女の意見を聞き入れるのには抵抗がありましたが事態は一刻を争います。素直に従うことにしました。

 2人でゼルヴォス様を客間に運び、取りあえずソファに横にしました。


「ねぇ、お医者さん呼んできた方が良いのじゃない?」

「無駄よ。これは普通の怪我とかじゃないのだから」


 とにかく呪詛の状況を確認せねば!と思います。

 ゼルヴォス様の服を脱がします。

 両肩から脇腹にかけて赤紫色の紐状のものが食い込んでいました。

 呪詛です。

 呪詛はじくじくと震えながらなおもゼルヴォス様の体を締め付け、食い込もうとしていました。放置していれは文字通りゼルヴォス様は食い潰されてしまうでしょう。

 

「なに、これ?」

「呪詛よ」


 いちいち思考を邪魔されることに苛立ちながら答えます。


性質たちの悪い魔術師がいてね、その魔術師の魔法からわたしたちを守るためにゼルヴォスさまは呪詛をその身で引き受けたのよ」


 なぜかわたしはエレノアに今の状況を説明していました。それは多分今、自分はすごく不安であるからなのでしょう。一人では手に負えないことをどこか理解しているのです。


「ところで、ゼノは無事なの? 伯爵も。 

あなた、一緒にいたんでしょう?」

「はぁ? ゼノ、伯爵……? チッ!」


 とんちんかんな質問に思わず舌打ちが出てしまいました。


 ゼノ様もゼルヴォス様もゼファード様も伯爵もみんな同じ! 

 目の前にいるのがゼノ様だとお前は気づきもしないのか!!


 と、思わず怒鳴り散らしたくなるのをぐっと堪えます。今はそんなことに時間を浪費すべきではないのです。

 心でゆっくりと数を数えます。そして深呼吸。


「無事よ。今のところはね。

ゼノや伯爵を心配するなら、まずこのゼルヴォス様を助けることに集中することね」


 わたしの言葉にエレノアは軽く首を傾げたようでしたがとにかく飲み込んだようでした。


「呪詛だとして、どうすれば助かるの?」

「解呪よ。呪いを解けばいいのよ」

「なーんだ、簡単じゃない…… って、それどうやるのよ!」


 きゃんきゃん、騒がしい女


 わたしはエレノアをじっと見つめました。

 豊かな金髪。薔薇色の頬。柔らかそうか赤い唇。

 暑苦しい夏の太陽の様な女。

 夏の、あらゆる生き物が生きることを謳歌する季節の様な女。


「解呪の魔法をかければいいの。だけど、呪詛には決まった型があって、その型に応じて解呪の型を変える必要がある。だから、帝都の魔法院へ転移をしようとしたのだけど、こんなところへでてしまった」


 わたしはゆっくりと説明を続けまふ。

 なぜだろうか。この女の瞳を見ていると心が落ち着く。焦りが消え、なんとかなるのではないかと思えてくる。


「つまり、解呪できないってこと?」

「できないわけじゃない。とりあえず離れへつれていきます。離れには解呪のためのマギアプレートがいくつかあるから、それで解呪できるはずよ」


 言いながら思い出しました。屋敷ならマギアプレートのストックもふんだんにあるのです。別に魔法院でなくともなんとかなるはずです。いや、なんとしてもなんとかするのです。

 なんにしてもここでは処置のしようがありませんので、わたしはゼルヴォス様を抱き起こし離れに連れていくことにしました。


「ちょいちょいちょい、待ちなさいって。どうしようとしてるの」

「どうするって、ゼルヴォス様を離れにお連れして解呪するのです」


 ゼルヴォス様の結構な重さに少し足元をふらつかせながら答えます。


「離れって、結構遠いじゃないよ。そんなの途中であなたが潰れちゃうわよ。

それにその人落として余計な怪我をさせるかもしれない。

助けを呼んでくるから少し待ちなさい」


 エレノアはそう言うとエッダたちを呼んできて、てきぱきと指示をしました。棒やらベットの敷布やらを用意させあっという間に簡易の担架を作り上げてしまいました。その間に男の使用人が何人かやってきました。


「さっ、これでよし。離れに連れていきましょう」


 ゼルヴォス様を担架に乗せるとエレノアは、少し呆気にとられていたわたしに言いました。


「そ、そうね。では離れに連れていきましょう」


 少しはやるじゃない……と思わなくもありませんでした。

 と、とにかくです。

 わたしたちは力を合わせてゼルヴォス様を離れの地下へ連れていくと手術台へと乗せることができました。

 やれやれ、これでようやく一仕事終わりです。

 しかし、これで終わったわけではありません。むしろ、これからが本番なのです。

 まずは、わらわらいるこの人たちにはお引き取り願いましょう。こんなに人がいては落ち着いて解呪ができません。


「後はわたしがやるからみんなは下がってもらっていいです」とエレノアたちにいいました。

 


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