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transposition!

「ゼルヴォス様!」


 もうもうと巻き上がる瘴気にわたしは叫び声を上げました。


「これは?! ……呪いの塊か」


 箱からたちの上る物を一目見るとゼルヴォス様もまた叫び声をあげました。

 わたしにも分かります。それは複数の呪いの混合物でした。呪いと言う物は人の負の感情、怨みやら悔恨などを吸い寄せ大きくなる性質があります。そして、ここは呪いにより死に絶えた町です。理不尽な死を迎えた魂で満ち満ちています。そんな環境にこんなものを放り込めばその怨念を吸収してあっという間に成長してしまうでしょう。そして、弾けて周囲に更に強力な呪いを撒き散らす、呪いの爆弾と化すのです。

 なんとかしなくては、とは思うのですがどうすれば良いのか分かりません。ただ、でくの坊のようにおろおろするばかりでした。

 そんなわたしに対して、ゼルヴォス様は違いました。猛然と箱に走りよるとその体で箱に覆い被さりました。


なんということでしょう!


 わたしは反射的に声なき悲鳴をあげてしまいました。ゼルヴォス様がしょうとしたことはすぐに分かりました。無制限に拡がり暴走しようとする呪いを自分の身を生け贄にし、方向性を与え制御しようとしたのです。

 しかし、いかにネクロマンサーで、かつ常に呪いに曝されて常人よりも呪いに耐性をお持ちのゼルヴォス様と言えど、これ程強力な呪いを受けて無事ですむ筈がありません。

 現にゼルヴォス様は苦悶の声をあげ始めていました。自我を保っていられるのも時間の問題でしょう。やがて呪いに飲み込まれてゼルヴォス様が災厄を撒き散らす生ける呪いと化してしまうことでしょう。


「ぐううぅ……

ペンダントだ!

ペンダントを使って儂を拘束しろ。は、はやく!」


 ゼルヴォス様が苦しい息の下言われました。その指示に従い、わたしは首にぶら下げていたペンダントを引きちぎりました。とたんにゼルヴォス様のベルトや腕輪から魔法縄マジックバインドが伸び、あっという間にゼルヴォス様を身動きできないように拘束してしまいました。


「ゼルヴォス様、今すぐ解呪を!」

「無理だ。お前一人では手に負えない。おそらく全て解呪するにはマギアプレートの種類が足りない」


 ゼルヴォス様へ駆け寄り解呪をしようとしましたが止められました。


「では、どうすれば良いのですか?!」

「中央魔法局へ行けば専門家がいる」

「中央魔法局? そんなところへどうやって行けというのですか? 何日もかかります!」

「転移だ」

「転移?! 無理です。魔法局など行ったことがありませんから座標を固定できないです」

「座標の固定は儂がやる。クラリスは運んでくれれば良いのだ」


 転移の魔法は最高クラスの魔法であり、複雑な魔法術式と膨大な魔力が必要です。よしんば発動できても転移門の中でゼルヴォス様が自我を失われたらわたしたちは転移門から出れなくなる恐れもありました。

 なんにしても非常に危険な行為なのです。


「はやくしろ! 儂の意識のある内に!」 


 ゼルヴォス様が叫びました。そうです。どんなに危険であってもこのままではゼルヴォス様のお命が危ないのです。わたしにとってそれ以上に危険なことなどなにもないではないですか。


「分かりました。では」


 転移のプレートを取り出します。2枚です。それほどまでに転移の魔法は複雑なのです。取り出した1枚に魔力を込めます。もう1枚をゼルヴォス様の前に差し出すとゼルヴォス様もプレートに魔力を込めてくれました。

 1枚目のプレートへ魔力を込め終えると、すぐにそれをゼルヴォス様が魔力を込められてプレートに重ねます。2枚目のプレートはまだ半分くらいしか魔力を貯まっていませんでした。そちらのプレートにも一気魔力を押し込みます。

 すると、わたしたちの頭上に黒い靄のようなものが現れました。転移門ゲートです。と、そのままわたしたちは転移門へ吸い込まれていきました。

 わたしは急いで転移の管理者アドミニストレーターをゼルヴォス様に固定します。中央魔法局の位置を知っているのはゼルヴォス様だけだからです。

 ゼルヴォス様の額から一本の光の筋が現れました。光の筋は一瞬で無数に枝分かれし、まるで巨大な樹木のようになりました。それら枝葉の1本1本が全てゼルヴォス様が関わって来た場所、いわゆる因果の繋がりでした。

 ブルリと因果の木が揺れました。震えると同時に沢山の枝葉がガラスが割れるように砕け散りました。それでも、木の震えは止まりません。揺れる度に枝葉が砕けていきます。

 ゼルヴォス様が転移先の座標を定めようとしているのです。因果の木の枝葉を切り払い、残った枝の先に中央魔法局があるはずです。

 ゼルヴォス様は苦悶の表情を浮かべながら懸命に頑張っておられます。


 頑張ってください。もう一息です。座標さえ固定していただければ、あとはこのわたしが全て引き受けます!


 心の中でそう念じた時です。因果の木が幹ごと砕け散ってしまいました。


「ゼルヴォス様ァ!」


 わたしは悲鳴に近い声をあげてしまいました。


 なんということでしょう!


 ゼルヴォス様は座標を固定する前に意識を失ってしまったのです。


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