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Angry girls

「いや、与えてはいないよ。むしろ地下室へは立ち入るなという話をしていた」


 と、ゼノ様は申されました。わたしはゼノ様の顔をじっと見つめました。嘘をつかれているようには見えません。もちろん、ゼノ様はわたしに嘘をつくような方でないのは分かっております。それでは魔法の鍵の方が壊れていたのでしょうか。その可能性が絶対にないとは言い切れません。

 良いでしょう。そのことは後で調べることにしましょう。

 この件はひとまず置き、目の前のことに集中することにしました。


「どうやらあなたは地下のものを見てしまったのですね」


 しばらく考えていたゼノ様がそう言われました。地下のモノ……確かに彼女たちは処置室に居ました。しかし、何を見たと言うのでしょうか。大したものは無かったはずです。あったのは古びた道具ばかりでした。


「そうよ! あの噂は本当だったのね」

「噂……? それはどんな噂ですか?」


 わたしもゼノ様に同意です。噂とは一体なんのことを言っているのでしょうか。


「伯爵様が奴隷の子供を買い漁って、手足を切り刻んで殺して楽しんでいるって噂よ!]


 なに言ッとんじゃ、コラッ! と思いました。正直なところ。

 しかし、エレノアはわたしの思いなどつゆ知らずにいい気持ちで言葉を続けやがります。


「でも噂は噂、そんなの嘘だって思っていた。

話し半分のただのやっかみだと思っていた。

だって、伯爵様はちゃんと約束を守る人だと思っていたから……

そりゃ、結婚式に鎧着て現れたり、誓いの言葉が唸り声にしか聞こえなくて変な人だなぁって思わなくもなかったけど……

それに約束守ったてのも本当はわたしのことより軍隊を送りたかっただけだったわけだけど……

そ、それでもわたしが傷つかないように配慮してくれたりもしていて、だから、変だけど悪い人じゃないんだな、ってそう思ってた!

なのに、なのに……

と、とにかく!

あんなことが許されると思ったら大間違いよ」


 ゼノ様の口角がほんのちょっぴり上がるのが見えた。


「伯爵様は変だけど悪い人ではない、ですか……

ふっ、さて、でもここは伯爵様の領地。

伯爵様が良いということはなんだって良いということになるんですよ?」


 そうです、ゼノ様、偉いのです。なんと言ってもご領主様なのですがからなんだってできちゃうのです。

 

「そんなわけないでしょ!

訴えてやるから! 連邦議会……えっとそれとも元老委員会の方がいいのかしら……

と、とにかく伯爵だろうとなんだろうと人の命をないがしろにしていい権利なんてないのよ!

みんなに訴えて止めさせてやるわ」


 まったく、弱い犬ほどキャンキャン吠えるといいます。いいですわ。この世間知らずの生意気なこの女に正義の鉄槌をお与えください! 

 処刑でもなんでもちらつかせて、恐怖で泣かせてやってください。号泣です。


「あははははは」


 え? あれ、笑い出してしまわれました。あれ、ここ笑うところ……でしたっけ……?


「これはなにか決定的な勘違いをしているようだ」


 うーんと、なにか話が見えないですね。ゼノ様はあんな失礼なことを言われたはずなのに怒っていないのでしょうか。


「なに笑っているのよ! 馬鹿にするのもいい加減にしなさい」


 エレノアは顔を真っ赤にして叫びました。

 それを見て、わたしは少し危機感を感じました。先ほどからこの女の行動パターンが今一つ理解できません。このままゼノ様に跳びかかって危害を加えるやもしれません。


「すごく興奮しています。魔法で眠らせますか?」


 すこし、心配になってゼノ様に進言をしました。すると突然エレノアはわたしを指さすと金切り声で叫んだのです。


「そこっ! わたしに魔法をかけようとしたってそうはいかないわよ!

やってみなさい! ひらってかわしてやるから。ひらっとよ!」


 なにいってんだ、この女 …… と思いました。やれるもものならやってみろ。見てみたいですわ、と思いました。


「ひらっと、よける、ですか。

あはははは、それは、それは、ひらりとよけるところを一度見てたいものですがそう言うわけにはまいりません」


 ゼノ様もそう思ったようです。ひとしきり笑うと言いました。


「まずは誤解を解かねばなりませんね」


 なにか私が思っているのと違う方向に話が進んでいます。だんだん不安になってきました。


「誤解? 誤解ってなによ!」

「だから、わたしたちが子供を切り刻んでいると言うことです」

「嘘おっしゃい!

わたしは見たんですからね。地下で子供が死んでいて、横の机には子供の手足が置いてあったのよ!」


 少し目眩を覚えました。

 わたしたちの移植手術、世紀の大発明、人類の夜明け、がひどい言われようです。何か言ってやりたくて仕方なかったのですが頭がくらくらして言葉になりません。そんなわたしとは真逆にゼノ様がなぜか楽しそうですした。自分が殺人狂の変質者呼ばわりされているのにです! 信じられません。


「あー、なるほど。すみません。手足を切り刻んだというのは正しいです」

「ほうらごらんなさい! やっと自分で認めたわね」

「手足を切断したのは認めます。しかし、子供

を殺してはいません。エレノア様が目撃された子供は生きています」

「生きている……

そんなの嘘よ」

「嘘ではありません。と、わたしがいくら言っても信用なされないでしょうから、ご自分の目で確かめてみるのがよろしいかと思いますが?」

「確かめるってどうやって?!」

「地下に下りて、子供のようすをご覧になられたら、と言ってます」


 えー、ゼノ様、本気で言っているのかしら?

 わたしは思わずゼノ様の方へ視線を向けました。そして、ドキリとします。ゼノ様は本当に楽しそうな表情をされていました。そんな表情を見たのは初めてのことでした。

 その表情を見ていると心臓がなぜがチクリと痛むのでした。

2024/05/18 初稿

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