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モーリス少年の再移植手術は思ったよりも簡単に終了しました。
「なんだろう。世界中を驚かすに足る術式が生み出されたのに、あまりにあっけなく過ぎて実感が湧いて来ないな」
ゼノ様が言われるように、呆気なかったでした。わたしも軽くステップを踏みたくなるような高揚感に襲われていたのですが、押さえ込みます。好事魔多し。こういう時こそ慎重にならねばなりません。
「まだ、安心はできないと思います。見た目は繋がりましたがちゃんと動かさせるようになるのかはこれからだと思います」
わたしの言葉にゼノ様の笑顔が一瞬凍りついた。
「ああ、そうだ。君の言う通りだ。私としたことがいささか舞い上がってしまっていたよ」
やや、低いトーンの声。
しまった!
折角ゼノ様が喜んでおられたのにそれに水を差してしまった!
ここはやはり、一緒に喜ぶべきでしたか?!
「済まない。少し上の方で調べものをしておく、今日の術式の記録もしておきたいしね」
なにか言い繕おうと考えている間にゼノ様はそう言うと部屋をふらふらと出ていかれてしまいました。
ああ、バカ、バカ。わたしの大バカ!
なんと余計なことを言ってしまったのでしょうか!!
自己嫌悪に襲われます。そのまま、頭を抱えてウンウンと唸り続けました。
「しっかりしなさい!」
自分の頬をピシャリと叩き、気合いを入れ直します。意味もないことを考えるより今やるべき事に集中するべきだ、と頭を無理やり切り替えます。
さて、するとなにから手をつけましょうか……
すこし、思案をします。最優先事項はモーリス少年を病院へ移送するとこですが、生憎馬車は手配済みで予定の時間まではまだ1時間ほどありました。もう少し手間取ると思って余裕を見すぎたみたいです。
ならば……と部屋の中を見渡します。
ノコギリやらペンチやら意外と散らかっているのが目につきました。
手近のノコギリを手にします。錆が随所に浮いていました。切断のマギアプレートを使うようになるまではこれらの道具を使って手足を切っていた(やられていたのはゼルヴォス様でしたが……)のですが使わなくなって久しいのです。
これ、もう使わないわよね
使わなくなった道具はこの際全部片付けてしまいましょうか。物置部屋があるのでそちらへ移動させましょうか……と、その前に錆の浮いている物は手入れをしてからの方が良いでしょう。
確かに物置に錆落としの薬剤があったはず
特に錆の酷いノコギリを持って物置に向かいます。物置は物置らしくところ狭しと棚が並び、その棚に種々雑多なものが置かれています。
少し迷いましたがなんとか目当ての錆落としの缶を見つけました。蓋を開け中の薬剤をノコギリに塗ります。
うっ、凄い臭いです。生臭いというか鼻にツンとくるというか……、それにドロッとして……
うわっ?! しまった。垂れた
やってしまいました。派手に服についてしまいました。赤黒くてまるで血みたいですね。
う~ん、これ、後で取れるかしら。染みになりしそうです。
そんな風にすぐに染みとりしないと跡が残るかしら、思案している時でした。
「うん……?」
どこかでなにか物音がしたように思えました。
廊下へ出ます。確かにごそごそと物音や声が聞こえてきます。処置室の方です。ゼノ様がお戻りになられたのかと思いましたが、声のトーンが違います。それに1人ではないようでした。
急いで半信半疑で処置室の扉を開けてみました。
見知らぬ人が二人、女たちが壁の道具や机を見ていました。ありえない光景でした。ここに入れるのはゼノ様とわたし以外にはいないはずなのです。
「そこにいるのは誰ですか?」
わたしの言葉に弾かれたように女たちが振り返りました。
その女の1人をわたしは知っていました。直接見るのは初めてです、しかし顔も名前も良く知っています。
エレノア! なんでこいつがここにいるのだ!!
驚きと混乱。そして怒りがお腹の底からふつふつと湧きあがるの感じました。
エレノアは凍り付いたようにわたしを見つめていましたが、突然、「逃げて!」と叫ぶと、横のもう一つの扉へ向かって走り出しました。思いがけない行動に戸惑いましたが、本能的に逃がしてはダメだと思い、慌てて二人を追いかけました。
2024/04/03 初稿




