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only for you

 ゼノ様がゼノ様になられて1週間が過ぎていました。しかし、一向に他の姿になる兆候は見られません。そして、変身の原因も分からず仕舞いでした。

やがて、わたしもゼノ様も、まわりの人々ヘンドリックやアリシアもゼノ様がゼノ様であることに慣れていきました。

 そうなると人と言うのは怠惰なもので、日々の細々とした生活に追われていくものです。かくいうわたしも夜の星辰(せいしん)の儀式の準備に追われていました。

 魔法陣や魔法具の用意や具合を見る手を休めると、少しため息をつきます。

 疲れた、と言うより少々寂しさを感じていました。ゼファード様やゼルヴォス様の時はお二方とも人目を憚る異形でしたので、ずっと離れにこお籠りになっていました。

 それに対してゼノ様になられてからは母屋の方で暮らされるようになったのです。

 その為、離れに居るのはわたしだけ、と言う暮らしが日常になりつつありました。半ば予想していた事が現実になったと言うべきでしょうか。

 1人でいるのは別にどうでも良いのです。しかし、身近にゼルヴォス様やゼファード様を感じられないのがどうにも寂しいのでした。かといって離れに来てくださいとゼノ様へお願いするのも躊躇われました。ゼノ様はゼノ様で他の人たちとの触れ合いを楽しんでいられるのでしょう。

 恐らくはご自分でも気づかれてはいないことでしょうが……

 だから、わたしの我が儘でその気持ちに水を差すわけにはいかないのです。

 そして、それがさらにわたしの寂しさを深いものにするのでした。


「ゼノ様……」


 魔法具を抱きしめ、小さくお名前を呼んでみます。


 うう、いけない。これではただの気持ちの悪い女だ。

 で、でも、もう一度だけ……

 

「ゼノ様」


 ああ、嬉しさと恥ずかしさで顔が火照ってしまいます!


「クラリス! クラリス!!」


 微かにゼノ様がわたしの名を呼んでいる幻聴が聞こえてきました。

 我ながら病んでいると思います。

 なにか、足音まで聞こえてきました。

 わたしの姿を求めて階段を駆け上がってくる足音が徐々に大きくなっているようです。

 そして、今にもドアが激しく開け放たれゼノ様が、ゼノ様が……

 と、突然ドアが開け放たれました。


「クラリス!!」

 

 うわっ!


 ゼノ様の声に心臓がとまるかと、いえ、たぶん、2拍ほど止まりました。きっと!


「すぐに移植魔法の準備をしてくれ」


 そんなわたしの動揺なと露とも知らずにゼノ様はおっしゃいました。そちらの方もかなりわたしの心臓へ負担をかけてきます。この急ぎ様はなにか大事が起きたのでしょうか。


「移植魔法ですか? 急患ですか?」

「いや、ちがうモーリスの移植魔法だよ」


 急患ではないのは良かったのですがモーリス少年の名前が出てきたことには三度(さんたび)驚かせられました。移植手術をするには既に時間が経ちすぎています。そんなことはゼノ様も十分分かっているはずなのに、一体どうしたと言うのでしょうか?


「モーリス? いえ、でも彼への移植魔法はすでに時間切れですが……」

「いや、方法をみつけたんだ。移植魔法の時間問題を解決するナイスなアイデアを思いついたんだよ」

「え、ちょ、ちょっと、ゼノ、ちょっと待ってください。一体何が……」


 


「移植魔法を阻害しているのは患者の回復力によって作られた新しい皮膚なんだ。だから、それを切除すれば良いってことだよ」


 ゼノ様はわたしの手を取るとくるくるとダンスを踊り始めるのでした!



 どのくらい踊ったことでしょうか。とにかくわたしの心臓が本格的に壊れる前にダンスの時間が終わってくれて本当に良かったです。

 全力疾走からようやく早足程度になった心臓にそっと手をやり、良くやったと褒めてやります。

 一方、ゼノ様はゼノ様で興奮冷めやらずといった風で話を始めるのです


「時間が経過してしまうと移植が上手くいかないのは、切断面が治癒してしまい皮膚で覆われてしまうからだ」


 少し上気した頬と、うっすらと浮かんだ汗に濡れ額に無造作に張りつく髪の毛がなんとも言えない色気を醸しだしております。

 いけません。じっと見ているとまた心臓が全力疾走しそうです。慌てて目をそらします。


「だったら、移植する前にもう一度、ほんの少しだけ患部を切断して新しい断面を作ってやれば良いんだよ。

なんで今までこんな簡単な方法にきづかなかったんだろう!」

「なるほど、その発想はありませんでした。でも、確かにシンプルですが効果的な方法に思われます。良く思いつかれましたね」


 懸命に心臓をなだめていながらもゼノ様の言わんとしていることは理解できました。

 なるほど、それは確かに良い方法です。

 さすがご主人様です!


「まあ、ちょっとした切っ掛けかあったのさ」


 謙遜されるところがまた謙虚です。

 さすがご主人様!


「それで移植はいつ行いますか?」

「今すぐやろう」


 えっ?! 今ですか?

 今夜は星辰の儀があるのですが……すっかりお忘れのようです。


「今すぐ、ですか?」

「そうだ。善は急げというだろう」


 今回の星辰の儀は今夜を逃すと次は半年後なので逃すわけにはまいりません。そちらの準備を優先させたく、移植は後日にしていただきたいと思うのです。ですが、ゼノ様のこのお喜びように水を差すのも忍びがたくありました。


「……分かりました。では、すぐに準備します」


 頭の中で移植手術と星辰の儀の段取りを同時に描きながら了解しました。

 大丈夫。わたしが全部間に合わせます。

 わたしが頑張れば良いのです。


「大丈夫です。すべて上手くいきますわ」


 そう自分に言い聞かせるようにゼノ様へ答えました。


2024/03/22 初稿

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