It´s so my life part 2
「えっと……この方はどなたでしょうか」
部屋に呼ばれたヘンドリックとアリシア。入るなりヘンドリックがそう言いました。
「ゼファード様です」と言うと、「ゼファード様?」と、眉をひそめて怪訝そうに問い直してきました。
「あるいはゼルヴォス様です」と言い直すと、「ゼルヴォス様……?」と、今度はアリシアに首をかしげられました。
その反応は良く分かります。わたしだってまだ半信半疑なのですから。
「つまり、そのどちらでもありどちらでもない第3のお姿です」
「第3の姿……」
ヘンドリックとアリシアはなんと答えたら良いのか。2人は揃ってそんな顔をしました。
「私にも良く分からないが、とにかく今クラリスが説明してくれたように、新しい姿になってしまったのだ。
この体の事がまだ良く分からない。一時的な事かもしれないし、なによりどんな特性があるかも不明なため、しばらくはこの姿を当主として扱うのは止めようと思っている」
ゼファード様(仮)様は、先ほどわたしと話したリスクについてヘンドリックたちに話して聞かされました。2人ともすぐに納得してくれました。
「さて、それでは旦那様にはどのような立ち位置となっていただくのが良いのでしょうか」
「家令ということでよろしいでしょう。私たちの上司ということでよいと思います」
「なるほど。それでお名前は?」
と言いながらヘンドリックとアメリアは、まだ名前が決まっていない男の人へ目を向けました。わたしも興味津々です。
「ぞうだね。ゼノでいいんじゃないのかな」
少し考えた後、あっさりと言われました。
ゼノ様
その名前を心の中で噛みしめてみる。
良い響きです。
短い音節のなのに力強さと気品を感じさせます。それにさりげなくマルドゥーク家の当主が引き継いでいるゼから始まるところと心憎いです。
さすが、ご主人様!
すぐにでも『ゼノ様』と口に出してお呼びしたい!!
「分かりました。ではゼノ様、取り急ぎ、使用人たちに顔みせと、就任のあいさつをお願いいたします」
「え、就任の挨拶? そんなものをしないといけないのか?」
……でしたが、なにやらゼノ様はヘンドリックと話をされており口を挟む隙がありません。
不満です
「勿論でございます。あなたは私たちの上になるわけです。すなわち、名実ともにこの家の長なわけですから、それを屋敷に勤めるすべての者に伝える必要がございます」
「いや、しかし、今日でなくても……」
「いいえ、こういうことは最初が肝心でございます」
ゼノ……様
ゼ、ノ、さっま!
ゼノ様!
なかなか話が終わらないので、心の中で何度か練習をしてみました。
やはり、良い響きです
「クラリスもそう思うかい?」
「はい! そう思います」
と、急に振られたので反射的に答えました。
「そうか、クラリスもそう思うのか。ならばやるか」
ゼノ様は少しがっかりしたような表情で呟かれました。
あれ? なにかわたし、変なことを言ってしまったのでしょうか。
あれ?
あれ……?
その後、ゼノ様が使用人たちへの自己紹介のためにアリシアとヘンドリックと御一緒に出ていかれ、わたしは1人離れに残される形になりました。
これで少し状況を考える時間ができるというものです。この隙に手元に星辰図を引き寄せ、眺め見ました。
確認すべきは星や月、星座の位置関係。
頻繁、と言っても年単位で起きる関係は除外しましょう。何十年、何百年単位で起きるものに着目して、そんなレアな状況がないかを調べて見ました。
なぜならゼノ様への変身はご主人様としても初めての事です。となれば20年スパンで起きる事象が絡んでいると考えるのが自然です。けれど、その様な事象はとんと見つけられませんでした。となると星たちの影響以外のなにか別のものがゼノ様の呪いに干渉していると言うことでしょうか。
「しかし、だとすればそれはなに?」
例えば物凄い魔力を秘めたアイテムや人が近くにあるとかならば呪いに干渉し得るでしょうが……
はて皆目見当がつきません。
「ひとまず、それは置きましょうか」
星辰図を放り投げると、自分に言い聞かせるように呟きました。
分からないことを延々と考え続けるより、やらなくてはならないことを優先させるほうが建設的です。
取りあえず、脱ぎ捨てられ魔法防具を片付けて、移植待ちの患者さんの為の死体の手配をしましょう。
それから、夜の魔力集めの準備。
そう、やらねばならないことは山ほどあります。けれども、ゼファード様でもゼルヴォス様でも、例えゼノ様だとしても、わたしがしっかりおささえすれば良いだけのことです!
とにかくゼノ様のためになることをしましょう
わたしは決意も新たにして立ち上がると動き始めることにしました。
2024/2/24 初稿




