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 これは一体どうしたことでしょう。とにかく床で苦し気に悶えるゼファード様に駆け寄ります。

 兜を外しましょう、と思ったのですが激しく暴れて上手く外すことができません。ただ、苦しむゼファード様の側でおろおろするしかできませんでした。こんな時に使うマギアプレートの候補を幾つか思い浮かべていると甲冑の隙間から淡い光が漏れ始めました。それは常人には見えない魔法の光です。


「これは……」


 思わず声が漏れました。これは紛れもない変身の予兆です。しかし、この間変身したばかりなのに再びゼルヴォス様へ戻ると言うのでしょうか?


 そんなことあり得ない!


 一瞬そう思いましたが、よく考えればゼファード様への突発的な変身の原因が分からないのです。ならば突然ゼルヴォス様に戻ったとしても不思議ではないでしょう。

 ……。つまり、そう言うことなのでしょうか?


 固唾を呑んで見守っていますと、突然ゼファード様の動きが止まりました。


 トクンと心臓がなりました。嫌な予感が頭を過ります。慌ててゼファード様の名を呼びます。

 しかし、反応がありません。まるで死んでしまったかのようです。

 身体中が自然と震えてきて止まりません。

 もし、ゼファード様が死んでしまわれてたら、わたしはどうすれば良いというのでしょう。


「ゼファード様、ゼファード様。

しっかりしてください。わたしの声が聞こえますか?」


 微かに鎧が動いています。息はあるようです。

 ホッとしました。

 もう一度声をかけようと思った時、ゼファード様の体が動きました。上半身をむっくりと起こすと声がしました。

 

「ああ、大丈夫だ。

私はどうしたというんだ?」


 存外しっかりした声に安心する一方、なにか少し声の調子が違うことにも気づきました。ゼファード様よりも高い感じです。それは、ゼルヴォス様のしゃがれた声とも違いました。違和感を感じつつもとにかく状況を説明します。


「分かりません。戻ってきたら突然苦しみ出して倒れてしまったのです。

そのうち死んだように動かなくなって……

本当に心配しました」

「成る程。それは済まなかった。それで、私はどのくらい気を失っていたのだろう?」

「えっ?! そ、そうですね5分、いえ、多分、2、3分でしょうか」


 問いに答えながらわたしは内心首を傾げます。

 先ほど感じた違和感が更に増してきました。

 声の調子だけではなく、話し方もわたしの知っているゼファード様でもゼルヴォス様でもない感じです。


 甲冑の中の人は本当にゼファード様なのでしょうか? 


「あ、あの、ゼファード様……

あなたは本当にゼファード様ですか?」


 我慢しきれず、その違和感がついに口をついて出てしまいました。


「なにを言っている。私はゼファードだ」

「なにか声が違います。しゃべり方もゼファード様のものではありません。

かといってゼルヴォス様とも違うような……」

「なにを言っているんだ。私がゼファードでなくてなんだと……」


 ゼファード様は言葉を途切らせると暫し考えことをするような仕草をされました。その時点で、わたしは確信しました。これはゼファード様ではないと。何故ってゼファード様は考えると言うことを絶望的にしないからです。

 ですからゼファード様が兜を外された時に髪の長い普通の男の人の顔が出てきてもさほど驚きはしませんでした。

 普通でした。年老いたネクロマンサーや狂気を帯びたバーサーカーの顔とは違った、悪くいうと平凡、良く言えば普通の男の人の顔でした。いえ、普通より整った顔立ちをされています。


「誰だ、これは?」

 

 頬や鼻、耳元などをペタペタと触りながらゼファード様ではないゼファード様、長いので取りあえずゼファード様(仮)(かっこかり)とでもお呼びしましょうか、は呻くように呟きました。その気持ち良く分かります。


「どういうことだ。天球盤を持ってきてくれ」


 言われたとおり、天球盤をお渡ししました。

 その男の人は天球盤を受け取るとややぎこちない手つきで盤の摸月や星座の位置を調整していましたが、やがて途方に暮れたように言いました。

 

「やはり、ゼファードの筈なんだが……」


 その結論に達するのに大分時間を要されました。これがゼルヴォス様ならものの数秒で同じ結論に達しているっしょうし、ゼファード様なら一生結論が出なかったことでしょう。


「力が強いが知力が低いバーサーカータイプのゼファード様と体力はないが知力に秀でたネクロマンサータイプのゼルヴォス様。

そのどちからに交互に変身しておられましたが、今の姿はその丁度中間のように見受けられますね。

察するにそれが本来の旦那様の姿なのではないでしようか?」

「私の本当の姿だって? そんな馬鹿な。呪いが解けたというのか? でも、なんで、急にそんなことに」

「分かりません。

しかし、この呪いを解くにはイルシャーリアンの王族、それもハイローズの血筋の力が必須です。

ですから、呪いが解けたのではなく、わたしたちの知らないなんらかの日月星辰の影響でゼルヴォス様、ゼファード様とは違う第三の形態が現れた可能性が高いです」


 わたしの考えにゼファード様(仮)様は戸惑ったように黙り込んでしまわれました。なんでこんなことになってしまったのかを考えておられるのかもしれません。それは確かに重要な事でしたが、今はもう少し目の前の事を片付けるべきだと思いました。


「さて、今後の身の振り方をどういたしますか?」

「身の振り方?」


 ゼファード様(仮)様は意外そうに首を傾げてました。この辺、表情がコロコロと変わって、見ていて楽しいです。まあ、それはさておき。もう少し補足が必要なようです。


「今のお姿をどう扱うかです。ゼルヴォス様、ゼファード様とご同様の扱いとされますか?

ゼファード、ゼルヴォス形態と同じように伯爵家当主として扱うかどうかです。

今のその姿の本性が分からないことから、少し様子を見た方が良いかとわたしは思うのです。

例えば突然正気を失い暴れだすかもしれません」


 先代、つまり、ゼファード様(仮)様のお父上がそうだったと聞いておりましたので、本当にその様なことが起こらないとは限らないのです。


「そうなった時に伯爵様のご身分では家に傷かついたり、思わぬ責任問題に発展しかねません。なので、当面は別の人物に成りすまして、そのお姿の特性を観察されるのが良いかと思います」

「ふむ」


 ゼファード様(仮)様は更に考え込まれてしまわれました。お気持ちは分かります。自分ですら良く分からない状況をどう第3者に伝えれば良いのか分からないでしよう。それでもこのまま放置と言うわけには行きません。やがて、ゼファード様(仮)様、いい加減この言い方にも飽きてきましたが、はわたしの方へ顔を向けると言いました。


「そうだな。とにかくアリシアとヘンドリックに事情を話そう。2人を呼んできてくれ」


2024/02/17 初稿

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