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first impact

 それは衝撃的でした。

 ゼルヴォス様が反乱の首謀者達の内偵を進められて暫く過ぎた時のことです。

ゼルヴォス様の頑張りで反乱計画の全容はほぼこちらの知るところとなり、こちらも対策を着々と進めているところでした。後はいつ頃反乱が決起するかの時期を探っておりましたが、それも大体お分かりになったのでそれをカディス様に報告していたしました。その席でカディス様がとんでもないことを言ったのです。


 「……君に結婚して欲しいのだ。ヴェルデンティーノのお姫様とな」


 結婚!!

 結婚と言いましたか!?


 その時、わたしは魔導書などの整理をしていましたが、カディス様の言葉にとたんになにも手がつかなくなりました。それこそ全身を耳にしてその後のお二方の会話に聞き入りました。

 やがて、どうやら結婚は結婚でも偽装結婚であると知れてホッとしました。

 でもしかし、すぐになにかイラッとするものを感じました。そして、そんなものはきっぱり断ってくださいと内心強く思ったのです。

 ゼルヴォス様も最初は断っておられましたが、カディス様の話術にやられてだんだん旗色が悪くなり、信じられないことに最後には言いくるめられてしまったのです。


 何て事でしょう!

 いつもならこんな面倒なこと絶対に断るはずなのに!!

 やはり、結婚に興味があるのでしょうか?

 なんだか、さらにモヤモヤしてきました。


「この儂が結婚? あり得ん話だ」


 カディス様との会談が終わられた後、ゼルヴォス様はどこか上の空のような面持ちでそう呟かれました。

 

 なんでしょう。結婚相手の事でも考えているのでしょうか? 

 ああ、いやらしい!

 ゼルヴォス様は違うと思っていましたが殿方と言うものはみなそのようなものなのでしょうか……

 なにか、こう、すごくがっかりです!!


「クラリス、すまぬが茶を淹れてくれぬか?」


 内心釈然としない気持ちで魔導書の準備に戻るとゼルヴォス様にそう言われました。




 別室でお茶を淹れるための湯をわかしながら自分に言い聞かせます。


 落ち着きなさい。


 これは偽装結婚。本当のことではないのです。

 いや、でも……嘘から出た真と言う言葉もありますし、瓢箪から駒とも言います。

 とかく世の中、なにかの弾みで信じられない事が起こったりしますから、これが切っ掛けで本当の結婚になるなんてことも……

 いや、いや、呪いがあるかぎりゼルヴォス様が結婚されることはないはずです!

 それに……あの見た目では普通の女がゼルヴォス様と結婚を本気で考えるとは思えない。

 いやでも……


 なとどと悶々としていたらとんでもなく渋いお茶ができてしまいました。どうしょうかしら……

 ちょっと飲んでみましたが、舌がしびれる程渋かった。う~ん……


 ま、いっか


 少し悩みましたが、偽装結婚などを承諾してしまったばちとして飲んでもらうことにしました。

 ほの暗い愉悦を感じつつお茶を持っていそいそと戻るります。


 部屋に戻るとゼルヴォス様は腕組みをしたままなにか思案にくれているご様子でした。

 そっとお茶を差し出します。と、わたしの方を見ると言いました。


「儂が結婚だと。信じられるか?」


 それをわたしに聞きますか、と言うのが正直な気持ちでした。ちょっとカチンと来ました。やはり、飲んでいただきましょうと思いつつ、淡々と答えます。


「カディス様からのお話ですね。聞いておりましたから知っております」

「うむ。そう言う意味ではないのだが」


 わたしの答えにゼルヴォス様は少し不満のご様子でした。でも、良いのです。わざとですから。


「儂のような者が結婚することの是非を問うているのだ」

「偽装なのでしょう。是非もなにもありはしません。嘘なのですから。

それに、気が進まなければ受けなければよいのです。それか、嫌なら断ることもできましょう」

「……? なにか断る選択しかないように思えるのは気のせいか?」

「気のせいです」

「左様か」


 ゼルヴォス様は釈然しないご様子でお茶を一口飲まれた。とたんに激しくむせる。


「うぐ、ちょっとこれは苦すぎないか?!

これはいつもの茶葉なのか?」

「はい」 


 それは本当のことです。茶葉はいつものですとも


「淹れ方も一緒か?」

「はい」


 これも本当。淹れ方は一緒でしたとも。ちょっと失敗しただけ……


「ふ~む。左様か。しかし、苦い。舌の先が少し痺れるぐらい苦いぞ。

すまないが淹れ直してもらえないか?」

「申し訳ありませんが茶葉はそれが最後です。代わりは淹れられません」


 これはちょっと嘘。離れのストックは少ないけれどもう一杯淹れるぐらいはできないことはないでしょう。でも、なんとなく淹れるのが嫌でした


「なんと。左様か……」


 ゼルヴォス様は少し残念そうにため息をつかれました。そして、しかめ面をしつつお茶をすするのでした。そのお姿を見て、わたしは少し気が晴れる気がしました。


 

2024/01/27 初稿

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