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告白

 ドアの前で一度呼吸を整える。エレノアへどう話を切り出せば良いものか考えてみたものの、部屋の前まで来ながらまとまっていなかった。ノックをしようとしては何度もその手を止めて、思い直してまたノックしようとする、を繰り返していた。


 ええい、ままよ!


 そんな事を繰り返していても埒が明かない。どう話すかは後で考える、と思いきってドアを開けた。


「ゼノ!」


 目の前にエレノアの顔があった。上擦った声が出迎える。


「な、な、なんでここに」


 それはこっちのセリフである。不意打ちにも程があるだろう。バクバクと暴れる心臓を無理やり押さえ込みながら慌てて言葉を組み立てた。


「少しお話があってきました。

本当はもっと早くにお話をするべきだったのですが、エレノア様の体調がすぐれないというお話でしたので、遠慮しておりました。申し訳ありません」


 定型文を取りあえず機械的に吐き出す。


「え? あ、はい、それは別にいいです。

あ、あなたこそ体調を崩されていたとのことで……

え、えっと、もう、体の調子は良いのですか?」


 なんだろう。久しぶりにあったせいかいつもより固い感じがする。こちらの動揺に気づいているのか? 

 ここはもう少し様子をみるべきかだろうか……


「はい。エレノア様のお蔭ですっかり良くなりました」

「そ、そうですか。それはなによりです」


 ふう……少し落ち着いてきた。

 さて、本題に入る前に……

 エレノアの後ろに控えているエレオノーラへ目を向ける。


「エレオノーラ。すまないが君は少し席を外してもらえないか?

エレノア様と話したいことがあるのだ」


 ここはやはり二人きりになりたい


 エレオノーラが出ていくのをエレノアは不安そうに見つめていた。

 やはり、どこか普段とは雰囲気が違う。

 なにか気になることがあるのだろうか。もしかしたら、騒乱が収まったことを知っているのか。

 あれほどの出来事だから新聞や噂話から情報を仕入れる事はできる。少なくとも事件があってそれが終結したのはエレノアの耳にはいっていても不思議ではない。となれば、当初約束していた彼女の役割は終了になったと察しているのかもしれない。

 さっきから感じる違和感はそのせいだろうか。

 だとしたら、解放されることを喜んでいるのかそれも役目が終わったことを悲しんでいるのか、どちらなんだろう。

 エレノアの真意を知れないか観察してみたが分からなかった。願わくば後者であって欲しい。

 まあ、それはそれとして話を進めよう。


「この間――「あの」」


 偶然エレノアと言葉がぶつかってしまった。一瞬、話すのを躊躇うが彼女も同様の仕草をしたので先に話をさせてもらう。


「この間、例の騒乱が全て片付きました」


 ほんの一瞬、エレノアの体が震えたように見えた。


「今回のこと、エレノア様にはご迷惑をおかけしました。また、大義があるとは言え、一方的なお願いを聞き届けて、協力していただけたこと感謝します」


 我ながら硬い挨拶だと思う。どうしてこんな他人行儀なのだろう。

 いや、他人だから当たり前なのだが……、それでも、もっと気のきいた言い方があるのではないかと自分の事ながら嫌になった。


「あー、いえ、こちらこそ。これはこれで楽しかったですから」


 彼女は笑みを浮かべながら答えた。その笑顔に少し見惚みとれてしまった。ああ、この笑顔に自分には憧れているのだ、としみじみ思う。次の言葉を言うのが躊躇われた。

 が、言わないわけにはいかない。心を強くもって口を開いた。


「これで、伯爵様との偽装結婚を偽る必要はなくなったわけです。

つまり、これでエレノア様のお役目終了となります」


 まずはけじめをつける。

 これで彼女を自由だ。そして、この後に改めてこちらの思いを伝えるのだ。

 

 「それね、そう、その事で話したいことがあって」


 エレノアが答える。そう、話したいことがあるんだ。息を吸い込み。一気に話しきる。


「それで、その、改めて伯爵様と結婚してほしいのです」

「わたしをこの屋敷で……」


 彼女もなにか言いかけていたが私の方がすこし早かった。こちらの勢いに押され途中エレノアの方が口をつぐむ。そして、目と口を丸くさせた。

 驚いているこの表情もおもしろ可愛くて良いと思う。


「ふぇ? 今、なんて言った?」


 さすがに突然過ぎて理解が追いつかないのだろう。


「だから、伯爵と改めて、と言うか本当にと言うか、結婚して欲しい、と言いました」


 エレノアは眉間に皺を寄せる。なにか必死に考えているようだ。


「……えっと、また、なにか揉め事ができたの?」


 違う!

 考えた結果の結論がそれなのか?

 何か揉め事がある度に偽装結婚するって、普通考えるか?


 少し不味い方向に話が傾いているように思えた。思い込みが激しいのは彼女の悪いところだから早めに訂正しないとまた面倒臭い事になる。


「違います。正式にあなたを妻として迎えいれたい。それが伯爵の意志です」

「そんなのあり得ないでしょ!」


 即答された。これはさすがに少し傷つく。


「あっ、え~っと、だってわたし、伯爵様に一度しかあってないんですよ。それも甲冑越し。その後は伯爵様は、ずっと屋敷を留守にしてたじゃないですか。それなのになんで伯爵様がわたしと『本気で結婚したい』ってなるんですか?!」

「いや、それは、その伯爵にも色々と事情があって……」


 いや、そう思っているのは君だけで、ずっと見てきていたんだ、と言えないところが辛い。


「と、とにかく、あなたのことを知るうちに本当に好きなってしまった……のです」


 するとエレノアは少し体を引いて、恐々と部屋の中を見回し始めた。

 言い方を間違えて、変な誤解をさせてしまったのかも知れない。このまま、自分が伯爵だと名乗っても信じてもらえないかもしれない。


 一度、出直すべきか……


「分かりました。

ならば伯爵自ら話すことにしましょう」


 えっ? 伯爵様はお屋敷にいるの?、と言うエレノアの言葉を背中に受けながら部屋を飛び出した。

 頭の中はどうすれば自分が伯爵だと納得してもらえるか、の一点に集中していた。と、『甲冑越し』と言う単語が頭を過る。

 成る程、彼女の中では伯爵=甲冑のイメージが強いのだろう。ならば、結婚式に使ったあの甲冑から自分が顔を出せば納得してくれるはずだ。

 自室に戻ると急いで甲冑を身につけるととんぼ返りでエレノアの部屋へと戻る。

 ドアをノックする。

 返事はなかった。


 おかしい。まさか逃げ出した、なんて事はないだろうが……


 もう一度ノックしてみたが、やはり音沙汰がなかった。なにかあったのかと心配になったので、無礼は承知でドアを開けて中に入る。


 いない……


 本当に逃げ出したのかと思い始めた時、奥の部屋方から悲鳴のような声が聞こえた。顔を向けたがやはり姿はない。ただ、窓が開け放たれていた。

 もしかして本当に逃げたしたのかと窓から外を見るとエレノアが壁にへばりついていた。落ちないように蔦を必死に握りしめている。


 なにやってるんだ!


 声にならない悲鳴を上げると、魔導甲冑の高機動術式を発動させ、窓から外に飛び出す。


「うきゃ」


 その瞬間、蔦が千切れた。


2023/10/07 初稿

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