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対決

 空高くから街並みを俯瞰すると、通りを歩く人の姿はなく、街は全く死に絶えているように見えた。


 少し降下して町に近づく。


 結局のところ、あの後死体をいくら調べてみてもやはり手がかりを見つけることはできなかった。有力な手段を持たない儂らは、最終的に町を調べることにした。勿論、直接乗り込むのは危険すぎるので、近くで見つけたカラスの死骸に感覚接続センスコネクトして、それを使役しての偵察となったのだ。上空からの観察では特に危険なものは無さそうだったので、町で一番背の高い建物の屋上へ降りる事にした。

 屋上に降り、しばらく死烏ゾンビクローの調子をみたが制御を失う事はなかった。

 ならばと一気に路上へと舞い降りる。

 それでも特に支障はない。

 メカニズムは良く分からないが、死体操作ネクロマンスされたものへの影響はないようだった。

 メインストリート、公園、最寄りの家の中などを覗いてみる。

 いたるところに人やイヌ、ネコが倒れていた。

 ネズミやその他、命の有るものはみな分け隔てなく死の翼に捕らわれているようだ。

 色々と見て回った結果、ある事に気づいた。

 この事件が発生して2週間は経過している筈なのだが倒れてる者たちに腐敗の徴候が見られない事だ。


 これは、奇妙だ。まるで時が止まったよう……


 と、視野の端でなにかが動いた。

 道の少し先を確かになにかが横切って行ったのを見た。一飛びで、その方向にある適当な建物の雨樋あまどいへ取りついて、こんな時は鳥という生き物は便利だ、見下ろす。

 道を歩く人がいた。

 黒っぽいローブを頭からすっぽりと被っているので男なのか女なのか分からない。もしかしたら死霊ゴーストの類いかもと一瞬疑ったが、そのような燐気オーラは出ていない。

 正真正銘の生者。

 死の町(ゴーストタウン)を闊歩する生者となればこの事件の関係者であるのは確定だろう。追いかけない手はない。

 謎の人物は町の北に向かって歩いていく。やがて北門が見えてきた。門から少し左の壁をしきりに触りだす。そして、今度は右側の方に行き、同じような行動を繰り返す。遠目では何をしているのか良く分からない。


 壁のところになにかあるのだろうか?


 謎の人物はしばらくすると壁からはなれて歩き始める。壁を調べるか、追いかけるか一瞬悩んだが壁は後で調べる事にした。


 不意に視野が切り替わった。


 そこは薄暗い天幕の中だった。隣にはクラリスが控えている。


「むぅ……」

「どうかされましたか?」


 困惑の唸り声にクラリスが心配そうな聞いてきた。


「突然、感覚接続センスコネクトが切れた」


 取りあえず状況を説明しつつ意識をカラスへ向ける。死体操作ネクロマンスは繋がった感覚はあったカラスを動かすことはできなかった。


「カラスを動かすこともできない。ちょうど、呪いの犠牲者を動かせなかったのに似た感覚だ」

「どういう事でしょう?」

「うむ、良く分からない。まるでゼンマイが切れたからくり人形のようだ」

「でも、町に入って普通に動かせていたのでしょう?」

「そうだな。呪いが遅れて効いたのかもしれん。

そもそも、この呪いは効果を発するのに少し時間がかかるようだ。なんにしても、町を歩き回る怪しい人物を見つけた。そいつを掴まえれば対処の仕方もわかるだろう」

「しかし、相手は呪いに満ちた町の中に隠れているのですよ。どうやって見つけて捕らえようというのですか?」


 至極当然な指摘であった。


「そうだな。それが問題だ。

だが手が全くないわけではないぞ。

取りあえず、新しいカラスの死体でも探しに行くとしよう」


 


 

 次の日の朝。東の山脈の頂から朝日が顔を出し南門が照らし出す頃。


「そうそう。門の左右のすぐの壁だ」


 夜の内に部隊の大砲を南門の前にズラリと並べさせていた。


「はぁ、城門ではなく、その左右の壁なのですよね?」

「そうだ。集中させて壁を貫通させるのだ。出来るのだろう?」

「時間をかければやれます。しかし、それならば門を狙った方が簡単です。それに、侵入するのであれば、穴は二つも要らないと思うのですが……」

「いいや、二つ要るのだよ。さあ、始めてくれ」


 司令官はまだ納得しかねていたが砲兵に号令をかけた。轟音と共に数え切れない砲弾が吐き出され壁へめり込み爆発した。やがて壁に大きな穴が空いた。これで一つだ。砲撃は続き、同じような穴がもう一つ追加された。


「ようし、では撤収だ」

「撤収なのですか?」


 司令官が驚いたように叫んだ。折角城壁に穴を空けたのに侵入もせずに引き上げるなど意味が分からないのだろう。だが、それでよいのだ。不満顔の司令官を尻目にさっさと天幕へ引き上げた。


……


…… ……


…… …… …… ……



 そして、深夜。町の闇から一つの影が姿を現した。影は音もなく南門に近づいて行く。頃合いを見計らい潜んでいた建物から外に出た。


「また呪いの紋様を刻もうというのかな?」


 影がびくりと体を震わせて振り返る。無言ではあったがかなり動揺しているのは間違いない。


「なぜ儂らが町に入っているのに無事なのかをお前さんに話す必要はなかろう。

既にこの辺は呪いが効かないエリアになっている。壁に描いた呪いの紋様を砲撃で抉ったからな。

だからそれを直すためにきたのであろう?」


 影はやはりなにも言わなかった。場が持たないので仕方無しに儂が言葉を続けねばならん。


「町を調べて分かった。町の南北、つまり、町の南北の門の壁に魔法陣が刻まれていた。

そして東西の壁にもそいつはあった。

つまりだ。魔方陣の効力や呪いの方式とかはさっぱり分からないが、とにかくその紋様が町に呪いの結界を作っているのは分かる。

そして、南門の魔方陣を破壊すれば結界の一部に穴を空き、それを直すためにお前さんが現れることも予想できる」

 

 黙って聞いていたそいつは突然右手を上げた。本の一瞬だったがその手の甲にアザのようなものが見えた。右手に魔法力が集まるのが見えた。色は赤い。攻撃魔法だ。炎の矢がその右手から放たれる。

 儂に当たる直前、炎の矢は青い壁に弾かれた。


「ゼルヴォス様には触れさせませんよ」


 背後からクラリスが現れて儂の横に立った。

 謎の人物は両手を上げた。左手に魔力が渦を巻き集まっていく。少し遅れて右手に赤い帯のようなものが現れてた。帯はクネクネと折れ曲がりより複雑な形を取り始める。


「やはり、イルシャーリアン!

こんなところで出会えるなぞ思いもしなかったぞ!!

クラリス、捕らえよ! 生かして捕らえるのだ」


 この不可解な呪法の背後にイルシャーリアンが居るのなら納得出来る。そして、この人物ならば、儂の呪いを解くなんらかの方法を知っている可能性もあるのだ。ならばなんとしても生きて捕らえたい!

 クラリスはマギアプレートをかざすと、プレートに左手を押し込む。とたんにプレートから薄紫色のロープのようなものが幾本も現れてた。ロープは蛇のように身をくねらせながら名も知らぬイルシャーリアンへと突進して絡みついた。こちらも魔法を使えるなどと思いもしなかったのか、それとも魔法勝負で負けるなどあり得ないと傲っていたのだろう。

 しかし、マギアプレートの魔法発動と魔法を一から編み上げいく通常の魔法発動の勝負で後者に勝ち目はない。クラリスの発動させた拘束魔法にあっさりと絡めとられイルシャーリアンはあえなく地面に転がった。


「心配するな。大人しくしてくれれば危害は加えない」


 大人しくしろと言っても無理な相談かも知れないが、出来る限り優しく声をかけながらイルシャーリアンに近づく。


「殺してやる!」


 若い男の声だった。魔法の拘束具(マジックバインド)から無理やり抜き出した右手には四角箱が握られていた。


「くっ!」


 それがなにかは分からないが、反射的に男の手からそれを叩き落とした。箱は鈍い音を立てながら道端を転がっていった。


「妙なことは考えるな。そちらかその気ならばこちらもそれなりの対処をすることになる。

クラリス! 眠りの魔法をこやつにかけて」

「ゼルヴォス様!」


 儂の言葉はクラリスの悲鳴に止められた。クラリスがあらぬ方向を指さしている。その方向へ目を向けると、さっき叩き落とした箱が転がっているのが見えた。箱は真っ二つに割れていた。いや、割れていたと言うより蓋が開いたが正しいのかもしれない。が、そんなことはどうでもよい。問題なのは箱から煙のようなものが立ち上っている事だった。それも一つではない。一つ、二つ……全部で五つだ。


「これは?! ……呪いの塊か」


 呪いの基本形態、じゅかいを凝縮した呪いのスープのようなものだとすぐに分かった。それらが絡み合い、みるみる膨れ上がっていく。こんなものが破裂したらこの辺り一帯の人々はみな呪いに取りつかれて全滅するだろう。

 それを防ぐ方法はただ一つ、破裂する前に呪いを全て誰かが引き受ければ良いのだ、

 儂はその箱に覆い被さるように体を投げ出した。

 とたんに、頭痛、腹痛、吐き気、悪寒、倦怠感、ありとあらゆる不快な感覚に襲われる。さらに、怒り、悲しみ、憎悪、嫉妬と言う負の感情が腹の底から沸き上がる。


「ぐううぅ」


 こんな世界、全て破壊して、生きとし生けるもの全てを根絶やしにしたいと言う欲求が儂の体と心に満ち溢れ暴れまわる。

 この呪いのスープを少々甘くみていた。一人が犠牲になるのならばと思っていたが、このままではすぐに自我を失い呪いを無作為にばらまく動く呪いの苗床になってしまう。そうなってしまえば、この身を犠牲にしたこと自体になんの意味もなくなってしまう。どうなかしなくては……

 その時、ある考えが閃いた。


「ペンダントだ!」


 儂はクラリスに向かって叫んだ。


「ペンダントを使って儂を拘束しろ。は、はやく!」


 儂の指示にクラリスは胸元のペンダントを引きちぎった。その瞬間、身につけたベルトや腕輪から魔法縄マジックバインドが伸び、あっという間に儂を拘束した。文字通り手も足も出ない状態だ。これでいつ自我を失っても周囲に危害を加える危険はなくなった。


「ゼルヴォス様、今すぐ解呪を!」


 クラリスが走り寄り言った。


「無理だ。お前一人では手に負えない。おそらく全て解呪するにはマギアプレートの種類が足りない」

「では、どうすれば良いのですか?!」

「中央魔法局へ行けば専門家がいる」

「中央魔法局? そんなところへどうやって行けというのですか? 何日もかかります!」

「転移だ」

「転移?! 無理です。魔法局など行ったことがありませんから座標を固定できないです」

「座標の固定は儂がやる。クラリスは運んでくれれば良いのだ」


 激しい頭痛に耐えながら叫ぶ。危険ではあるか転移のマギアプレートは持ってきている。儂の魔力とクラリスの魔力を込めればギリギリ届く……はずだ。


「はやくしろ! 儂の意識のある内に!」 

「分かりました。では」


 クラリスが転移のプレートを取り出し魔力を込め始める。儂も残った力を振り絞りプレートに意識を集中させる。やがて頭上に黒い靄のようなものが現れる。空間の歪み。転移門ゲートだ。

 ふわり体が浮く感覚。と、儂らは転移門ゲートへ吸い込まれた。が、そこまでだった。座標を固定するよりも前に儂は意識を手放してしまった。

 

2023/09/09 初稿

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