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病院にて

「と言うことで、だね。これを渡しておくことにした」


 執事ヘンドリック)家政婦長アメリアに一つずつペンダントを手渡した。円い金属に細かな紋様が刻まれた地味な物だ。そして、自分も一つ首にかけた。2人に渡したものと似ているが良く見ると刻まれた紋様が異なっている。


「それを強く握ると私が今かけたペンダントに仕込まれた拘束魔法が作動する仕組みになっている。

万が一、私が呪いで暴走したときにはこれを失い使って私を止めて欲しい」


 マギアプレートを応用した魔法具なのでヘンドリックやアメリアのような魔法を全く使えない者でも扱える代物だ。これを作ったクラリスもヘンドリックたちと同じものを持っていた。


「このようなものを渡されましても……」


 アメリアは噛みつかれでもしないかと恐れるようにペンダントを指でつまみながら、困惑した顔をした。


「旦那様を拘束するなど畏れ多いです。

もしもそれで怪我でもされたなら、と考えるだけでも恐ろしいことでございます。

そのゼノというお姿はそんなに危険なのでしょうか?

わたくしには極普通に見えますが、そこまでする必要があるほど危険なのでしょうか?」

「正直なところは分からない。分からないからこそ、万全を期しておきたい。父のような悲劇を繰り返したくはないのだ」

「先代の……」


 アメリアはそれ以上言葉を続けることはできなかった。彼女は父の惨劇を実際に体験した者だ。恐らく当時の記憶を思い出してしまったのだろう。顔色が青ざめていくのが分かった。


「まあ、あくまでも可能性の話だよ。

だから、そうなるとは限らないからあまり心配しないでくれ。

ただ、皆には気をつけて私を見ていて欲しい。そして、私を止めて欲しい。

特にクラリスには日常的に監視をしてもらいたい」


 私の言葉にクラリスは無言で頷いた。


□□□

「聞こえるかい?」


 病棟の人気(ひとけ)の無い廊下で立ち止まると小声で呟く。

 事情を知らない人がそれを見れば独り言を言っている様に見えるか、それとも危ない人と思われるかのどちらかだろう。が、これは独り言ではない。


「良く聞こえます」


 右耳に着けた魔具から声が返ってきた。

 クラリスの声だ。

 彼女は今、屋敷の離れにいる。そこから私の魔具から伝わる声を聞き、さらに返事を返してくれたのだ。遠距離通信をする魔法の鏡の応用で、離れた場所の音を聞いたり伝えたりできる魔法具だ。術式自体はこなれた物だが、目立たない様に耳の裏に取りつけれる様にしたところが新しい試みだった。これもヘンドリックたちに渡したペンダントと同様、自分の暴走時の備えだ。

 屋敷に居れば3人にそれとなく見守ってもらえるが、1人で外に出掛けなくてはならないこともある。

 例えば今回のような場合だ。

 今、自分はモーリス少年の術後の経過を見るために病院にやってきていた。

 本当はクラリスについてきて貰うのが一番良いのだが、彼女の姿は少し奇抜過ぎてとかく周囲に波風が立ちやすかったし、彼女自体が外に出るのを嫌っていたので、この形に落ち着いたわけだ。

 

「では、これから病室へ向かうよ」


 断りをいれるとモーリス少年の病室へと向かった。

 

「調子はどうかな?」

「はい、痛みとかはなくなりました。でもまだなにか足も手も太い丸太がくっついているような変な感じです」


 私の問いにモーリス少年は答えた。

 接合した手と足を触って確認をする。

 人肌の温もりを感じることができた。痛みも失くなったのなら、付けた手足と少年の魔力が馴染んだ証拠だ。


「うん。良好のようだね。ならば、今日ぐらいから治療(リハビリ)を初めても良いかな」

「リハビリ……?」


 モーリス少年は聞きなれない単語に首をかしげる。


「付けた手足を自由に動かせるようにするための訓練のことだよ。多少痛みを感じたりするが元の生活が出来るようになるため必要な訓練だ。

だから、モーリス君には頑張って貰いたい。

分かったかい?」


 モーリス少年は少し緊張しながらも、はいと答えた。


「良いかい。まずは固まってしまっている関節を動くようにしないといけないんだ」


 なんといっても、死後硬直してしまった手足だからね、とはあえて言わないでおいた。


「ちょっと無理に動かすから痛いと思うけれど我慢して欲しい」

 

 と、言いながら少年の足首を掴んだ。そして、ゆっくりと動かす。


「痛いッ」


 とたんにモーリス少年は鋭い悲鳴を上げた。


 想定より関節が固まっていて、ぴくりとも動かない。モーリス少年のしかめた表情を見れば相当痛いのだろう。だが、これを乗り越えないと先に進めない。心を鬼にして、もう少し力を込めて足首を曲げる。


「痛い、痛いよ」


 モーリス少年は悲鳴を上げて、体をずらして逃げようももがいた。あまりに暴れてベットからずり落ちそうになったので一旦手を止めた。だが、リハビリは始まったばかりだ、ここで手を抜くと本当に手足が動かなくなってしまう。

 

「もう一度、ゆっくりやるから、ちょっと我慢だ」


 今度は逃げられないようにのし掛かるようにして、リハビリを再開する。


「嫌だっ! 痛いよ」


 ちょっと力を加えただけでモーリス少年は、すぐに悲鳴を上げた。

 完全に戦意喪失。

 目に涙を貯めて、いやいやと首を盛んにふって許しを乞うてきている。

 しかし、構わず力を込める。

 モーリス少年の口から嗚咽が漏れ聞こえた。

 なにか絵面的にはかなりヤバイようにも思えた。

 端から見ると、大の大人がいたいけな少年にのし掛かり、けしからんことをしようとしているように見える、のではと頭の片隅に思った。

 知り合いが見たら、絶対に誤解される。

 クラリスとの連絡魔法具が音声だけしか送れないもので良かったと思った。もっとも、音だけでもあらぬ誤解を招きそうではあったが……


「ちょっとあなた! なにしてるの?!」


 背後から突然怒鳴り声がした。


2023/2/25 初稿

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