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高慢と偏見

 思わず口許が緩む


「伯爵様は変だけど悪い人ではない、ですか……

ふっ、さて、でもここは伯爵様の領地。

伯爵様が良いということはなんだって良いということになるんですよ?」


 自分はなんでこんな角の立つような物言いをしているのだろうか?

 

 自分の口から出てきた言葉に自分に驚かされる。


「そんなわけないでしょ!

訴えてやるから! 

連邦議会……えっとそれとも元老委員会の方がいいのかしら……

と、とにかく伯爵だろうとなんだろうと人の命をないがしろにしていい権利なんてないのよ!

みんなに訴えて止めさせてやるわ」


 激昂したエレノア嬢は大声で反論してきた。

 想像通りの気持ちの良い真っ直ぐな答えだった。エレノア嬢の気性がそこに全て現れているさ、と思えた。

 

「あははははは」


 自然と笑いが込み上げてきた。

 この世の中の悪意を信じず、真っ直ぐに突き進めばなんでも解決できると疑わない純粋(ピュア)な存在。

 正直なのは善きことだ。

 疑わない心の持ち主。

 それは好ましい。

 ただ、それだけにちょっとボタンの掛け違いがあるとどこまでも止まらず突き進んでしまう。つまりおっちょこちょい、と言うことだ。


「これはなにか決定的な勘違いをしているようだ」


 端的に評してみた。


「なに笑っているのよ! 馬鹿にするのもいい加減にしなさい」


 怒られた。

 まるで、打てば響く鐘のような女性()だな。なにか手のひらでころころと転がして遊んでいるような優越感と罪悪感のない交ぜにしたような感覚を覚えた。

 

「すごく興奮しています。魔法で眠らせますか?」


 クラリスが耳元で囁いた。囁き声にしては声が大きい。むしろわざと聞こえるようにしているのか?


「そこっ! わたしに魔法をかけようとしたってそうはいかないわよ!

やってみなさい! ひらってかわしてやるから。ひらっとよ!」


 ほら、余計興奮させてしまったよ。しかし、なんだろう、あの謎のダンスは。

 両手を上に上げて体を左右に動かしている。

 もしかして……


「ひらっと、よける、ですか」


 そうなのか。そうなんだな。ひらっと避ける真似を見せているのだ。天然ですか。


「あはははは、それは、それは、ひらりとよけるところを一度見てたいものですがそう言うわけにはまいりません」


 かなり本気で見てみたかったが、魔法が見えない彼女にひらりと避けることなどできるはずもない。あまり遊んでいても仕方ない。いい加減、彼女の誤解を解くことにしよう。

 

「まずは誤解を解かねばなりませんね」

「誤解? 誤解ってなによ!」

「だから、わたしたちが子供を切り刻んでいると言うことです」

「嘘おっしゃい!

わたしは見たんですからね。地下で子供が死んでいて、横の机には子供の手足が置いてあったのよ!」


 だから、死んでるっていう最初のところから勘違いしてる。しかしまあ、手足を切り刻んだのは確かだ。ふむ……、なるほど、彼女の言い分が全部勘違いって訳ではないな。そこはこちらが謝るべしところだ。 


「あー、なるほど。すみません。手足を切り刻んだというのは正しいです」

「ほうらごらんなさい! やっと自分で認めたわね」


 エレノア嬢は、どやっという顔をした。


「手足を切断したのは認めます。しかし、子供

を殺してはいません。エレノア様が目撃された子供は生きています」

「生きている……」


 鳩が豆鉄砲を食らったような表情になったと思ったら、次の瞬間、ぐっと眉が引き上がった。少し頬を赤く染め、怒りの表情で叫ぶ。


「そんなの嘘よ」


 さっきからころころと表情が変わり見ていて飽きない。

 ずっと見ていられる、そんな気がした。

 そして、結構頑固なようだ。多分幾ら言っても信用はしてはもらえないだろう。ならば直に自分の目で確かめて貰うほうが早いだろう。


「嘘ではありません。と、わたしがいくら言っても信用なされないでしょうから、ご自分の目で確かめてみるのがよろしいかと思いますが?」

「確かめるってどうやって?!」

「地下に下りて、子供のようすをご覧になられたら、と言ってます」


 この人、本気で言っているのかしら、と言うような目で私を見てきた。


「馬鹿なことを、そんなあからさまな罠に引っ掛かる訳が……」


 エレノア嬢は途中で言葉を止めると下を向いた。エッダが目を覚ましたせいだ。


「お、奥様、私、どうしてたのですか?」


 か細いエッダの声が聞こえた。

 その後、しばらく2人の会話が続く。

 それに静かに耳を傾けながら、少し悩んだ。このままだとエッダも再びまだ血の臭いの残る地下室に連れていくことになるが、まだ子供のエッダにはそれは酷と言うものだ。変なトラウマを植えつけるのは本意ではない。


「いいわ、じゃあ確かめてあげる。

その代わりエッダは帰しますよ。確認はわたしだけで十分できますから」


 と、悩んでいると向こうから思わぬ提案が飛び出してきた。

 渡りに舟とはこの事だ。

 無論、こちらに断る理由はない。

 だから、構いませんよ、と答えた。

 エッダが屋敷に戻って変なことを吹聴して回らないうちにエレノア嬢の誤解を解いてしまおう。


「それでは奥様、ご案内いたします」


 家令モードで、恭しく礼を尽くす。


「良いわ、案内して。それから、この際だから、はっきり言っておくけど……」


 エレノア嬢は一瞬妙な表情をすると、また眉根を上げて宣言した。


「わたし、あなたが大嫌いですから!」


 ……

 

 …………なんで、そうなる?!

2023/02/04 初稿

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