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わたし、食べられちゃうみたいです

 屋敷に着いたらすぐに自分の部屋に案内された。

 これまた広い。数多い、豪華の三拍子。

 お付きのメイドもファースト、セカンド、サードと3人も紹介された。

 3人も多くね? と思う間もなく、裸にひん剝かれて、あちこちゴシゴシ洗われて、着せ替え人形のごとく服を着せられ、髪を整えられた。


 ま、船旅ではなかなかお風呂に入れないからすこぅし臭ってはいたのでしかたいけど、それより……


「明後日、結婚式?!」

 

 そう、二日後に結婚式だと言われたのは驚いた。


「え、私はまだ伯爵様に一度もお目にかかっていないのですよ」

「伯爵様には結婚式に会えますよ」


 結婚式当日が初顔合わせファーストインプレッションで、そのまま初夜(ベッドイン)ですか?


「いや、いや、その前に話をして、式の段取りとか、その後にどうするか……、ゴホン、ゴホン、いや、そのいろいろ話をしておくべきことがあると思うのですよ。わたしは!」

「まあ、それほど格式張る必要はございません。極々内輪の極々形式的なものなので」

「えっと、式はそれとして、その後のことをどっちかというと心配していましてね、どのくらいの大きさ、えっと、体ね、体格差ですよ! ほら、背の高さが違うと、指輪の交換とか、ちかいの接吻キスとかで粗相があるかもしれないじゃないですか!!」

「はて、伯爵様の体格ですか? おおきいですよ。もう見上げるほどの大男です」

「……マジですか」


 それは由々しきことだった。


 なんて、悶々と考えていた時期がわたしにもありました。2日ばかしね。

 でもって、あっという間に2日は過ぎて結婚式当日。

 なんでも屋敷の中に教会がまるごと一つあって式はそこで行われるそうよ。

 

 いやー、さすが北の大伯爵様。半端ないわ……


 などと呆れ、いえ、感心しているとまた、寄ってたかってゴシゴシ磨かれて、服を着させられて、教会へ連れていかれた。

 そして、神父様の眼前。

 相方(パートナー)を私は見上げていた。


「汝、エレノア・ヴェルデンティーノはゼファード・マルドゥールを生涯の伴侶として共に歩むことを、富めるときも、貧しきときも、健やかなるときも、病めるときも……」


 頭一つ分は大きい。見上げる首が痛くなる。


 いや、確かに大きいって聞いていたけど……


「戦乱の嵐吹き荒れ万馬の兵に囲まれたとしても……」

「聞いてないよ」

「……はっ?」


 思わず漏れた呟きに、神父様がポカンと口を開けたまま固まる。


「あっ! 違います、違います。それ、こっちのことなので、気にせず続けてください。

なんでも誓いますから好きなだけ言ってくらっさい」 

「……あー、ゴホン。

万馬の兵に囲まれても共に力を合わせること。汝、エレノア。誓うか?」

「誓います、誓います」


 片手を上げ宣誓する。そして、満面の笑みを浮かべながら隣に立つ大男をチラリ見する。

 漆黒の全身甲冑(フルアーマプレート)

 

 

 聞いていないのはこっちのほう。

 これが結婚式の格好? それとも、これから戦場にでも行くつもりなの?

 兜で顔も見えないし……


「汝、ゼファード。誓うか?」

ぐぉー がぁあ ぐぉぐぉ


 ほえ? なに、今の。 違いの言葉? 野獣の唸り声にしか聞こえない!

 いえ、いえ、た、たぶん、兜で声が籠ってるだけよね。きっと

 

「よろしい。二人の婚姻の宣誓は聞き届けられた」

 

 えっ、今の聞き届いたの?! すごいぞ。さすが神様。


 と、感心している間に神父さんがいそいそと退場していった。


 ……あれ?


 ガション、ズシン、ガション、ズシンって金属音と地響きをのこして黒騎士伯爵様も退場していく。


 ……あれ ………… あれれ、もしかして結婚式終わり?



 

「なんか絶対馬鹿にしている!」


 お付きメイドのミランダとエレオノーラに手袋をとったり、髪をほどいてもらいながら大声で叫ぶ。

 

「ええ、ええ、そりゃ、わたしは弱小貴族の娘です。そりゃそうですけどね。

でもさ、一応ね、嫁にと乞われたわけでしょう。それなのにこの扱いはどうなのよ?って思うわけ」

「はい、確かに出席者は少なめでしたね。

ただ、内輪で、できるだけ簡単に済ませたいとのことでしたので……」

「いや、それでなくてね、新郎が全身鎧で出席ってどう言うことよ、と私は言いたいのよ」


 と、髪に櫛をいれてくれていたエレオノーラがきょとんとした表情になる。


「えっ? あれは普通ですよ」

「普通? 鎧着て出席するのが普通?」

「はい」


 はい、って……

 

 今度はこっちのほうがきょとんとなる。


「この辺はもともとは傭兵の国でしたから。

結婚式では殿方は戦へ行くときの装い、というのが習わしなのです」


 少し離れていたところで衣装を片付けていたミランダが会話に参加してきた。


「えっ? でも、あんなんじゃ顔も見えないじゃないの」

「ああ、裕福な方の結婚式となると全身鎧になるので顔は見えないかもしれませんねぇ。あはははは」


 笑った!? ここ、笑うところなの?

 

「伯爵様、凄かったです。

あんな立派な鎧初めてみました!

私、興奮してしまいました!!」

 

 と叫んだのはエッダ。お付きメイド3人の中でもっとも若い。年のころは16歳と言っていた。


「私のお姉ちゃんの旦那さんは檜の厚板を重ねた手作りの胴巻きに長靴でしたよ!

あの伯爵様の鎧は魔法具ですよね」


 エッダは頬をぷぅっ膨らませる。天井を見上げ、恍惚とした表情を見せている。


 へーーーー、この辺の女の子は鎧に欲情するのか。さすが、世界は広いなぁ。


「ヘルマンド鋼です。あの黒さから純度はハイ、いえ、リッチヘルマンド。材料費だけで貴方の200年分のお給金分ですよ」

「それだけではないわ。私が見たところ、魔法紋が八つはついていました。あれはね、国宝級の業物わざものですよ。ああ、たまらない」


 エレオノーラとミランダが相槌をうつ。ミランダにいたっては涎を垂らしそうな勢いだった。

 

 ……

 えーーーー、この領の女の人って、鎧に欲情する鎧オタクばっかりなのかしら。いやだ、怖い。


「と、とりあず、鎧の話は横へ置くとしてね、妻となった以上、夫たる人の顔ぐらい知っておきたいのよ。国宝級の鎧かなんか知らないけど、そんなものですまされても困るのよ。それが女心ってもんでしょう?」

「「「はあ、そんなもんですかねぇ~」」」


 あれ、なんか反応薄いな。なに、わたしの感覚がおかしいの? 


「でも、伯爵様のお顔ならすぐにでも見られると思いますよ。

なんと申しましても、今夜は初夜なのですから」


 そこ単語にドキリと胸がなった。

 そ、そうなのだ。結婚式が終わって、晴れて夫婦となったのならば、そういうことが普通に行われるわけで、その最初の夜というのが初夜なのだ、と脳内でだれに言い聞かせているのだろうと一人ツッコミをしつつ、思うのだった。


「しょやぁあ~!」


 変な声が出た。


「はい、はい、初夜ですよ。大丈夫、さすがに、ベッドの上では鎧はきていませんから」と、エレオノーラ。


 そりゃ、そうよね、あの格好でベッドインは怖い。


「さ、準備も整いました」と、今度はミランダ。


 わ、いつの間にかネグリジェに着替えられてる。すごい、エロいな。鼻血でそうだ。


「え、ちょ、ちょっとまって。まだ、心構えができてない」


 慌てる私を見て、ミランダとエレオノーラは互いに顔を見合わせる。


「いや、だって、私、は、初めてなので、よくわかんらないのよ」

「それは、よございますね。伯爵様もお喜びでしょう。

シーツが汚れても大丈夫ですよ。お気になさらず」


 と言いながら、エレオノーラはぐっと親指を突き出した。


 いや、サムズアップはやめろ。


「えっとね、えっと。ほら、伯爵様、すごく大きい方なので、すこし、怖くて。

ほら、なんていうの、あちらのほうも比例して大きいと、困るなあと思ったりするわけで……

どんなもんか予めわかると安心なんだけどね。あなたたち、知らないかしら?」


 すこし、気が動転して、とんでもないことを聞いている気もした。


 エレオノーラはゆっくりとミランダへ顔を向け、ついでエッダに目を向ける。二人ともふるふると首を横に振る。


「存じません」


 ……

 ああ、よかった。このくらいとか大きさを示されたらどうしようかと思った……いろんな意味で


「あーー、だったら、香油もってきます? あれ、オリーブオイルの方がいいのかな。

キッチンメイドのピラーがエキストラバージンオイルが昨日入荷したとかいってました」


 エッダがものすごいこと言い放ったよ! って、エッダ、あんた、何を言っているのかわかってるのか? 


「そうされますか、オリーブオイル?」と、エレオノーラが真顔で聞いてきた。


 聞いてくるのか。オリーブオイルって、わたしゃ、肉料理かなんかか……

 いや、ある意味、肉料理なわけだけど……


 などと、妙な納得をしていると、ガチャリとドアの開く音がした。


 

2022/06/04 初稿

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