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わたし、謝罪いたします

 ゼノの高い背中を見ながら階段を下りる。すぐ後ろから例の仮面の女の気配をびしびしと感じた。正直生きた心地がしない。

 さっき飛び出した部屋のところに到着する。ゼノがドアを開けると同時に恭しくお辞儀をする。中へ入れ、と言うことらしい。気分は刑を執行される死刑囚だ。心臓が今にも破裂しそうな勢いでバクつく。


 怯むな、わたし 

 びくついてる、なんて悟られるわけにはいかない。平常心! へぇーじょーしん、よっ!!


「うん」


 なんてことないアピールでわざとらしく鼻でうなづいて、部屋に踏み入る。自分の耳で直に聞けそうなくらい心臓が波打っていたが、それは絶対内緒だ。


「ふぅ」


 一度深呼吸をすると部屋を仕切る布を一気に引き払った。

 淡い光の中、冷たく横たわる子供が現れる。

 背筋な冷たいものが走る。

 血の気のない真っ白な肌。石像のようにピクリとも動かない……うん? あれ…… 

 なんか動いてね?

 あわてて名も知らない子供のところへ駆け寄る。よっく見ると微かだが胸が上下しているのが分かった。


「あれ、生きている」

「だから、そう言ったでしょう」


 ゼノのすました声が間髪をいれずに響いた。

 肩が微かに震えているのは笑いを堪えているからか?

 

「えっ……だって、そこに切断された手足があって、ほら、あるじゃない!」


 大根かなにかのようにごろんと机に載せられている手足を指差しながら、叫ぶ。

 なんで言い訳みたいなことしてんだろう? と疑問におもわないわけではない。そして、別の可能性にはっとなる。

 

「待って。そ、そうよ! 

例え、子供が生きていたって、あなたたちが無慈悲に子供の手足を切断している事実は変わらないわ。

見なさい! この子の手と足を!

無惨に切り、切り……あれ、ちゃんとついてる」


 足首と肘のすぐ先のところに包帯が巻かれていたけれど子供の両手両足はちゃんと存在していた。


「その子の手足は壊死していた。

そのまま放置していたら死んでしまう。なので切断して他の手足をくっつけた」


 と言ったのは、笑いを必死に堪えているゼノの横に立つ仮面の女の方だった。こっちはこっちで面白くもないと言う風に淡々としている。


「他の手足をくっつけるって、そんなことどうやって?」

「魔法に決まっている」

「嘘よ。そんな魔法聞いたことないわ」

「事実よ。伯爵様が開発した術式よ」

「伯爵様が開発した術式……?

生きている人間の手足を別の人間の手足にくっつける……なんて恐ろしい」

「死んだ人間の体の一部を生きている人間に移植する術式よ!

あなたは伯爵様をなんだと思っているの?!」

「えっ……?

子供の手足を切り刻むサイコとか、狂えるネクロマンシー? あと、残虐なバーサーカー、かな。とにかく、黒い噂とか、なにか脛に傷を持ってそうな人」

「チッ!」


 仮面の女が大きな舌打ちをする。

 止めてよ、それ。怖いって。

 ただでさえ異様な風采なんだから、そんなあからさまな不機嫌を振り撒かれると周囲の空気が冷える。


「あはははは」


 と、爆発的な笑い声が響き渡った。

 ゼノだ。ゼノがついに堪えきれなくなったのか腹を抱えて笑い出した。

 なんなの? 

 これは、これで、意味分からなさすぎて怖い。

 

「いや、いや、エレノア様は存外正直な方だ。なるほど、なるほど。それが伯爵様に対する一般的なイメージというわけですね。

実に参考になる。うはははは」

「ゼノ! なにを笑っているのです。

こんな無礼な女が奥様などとわたしは断じて認めませんよ」


 仮面の女、たしかクラリスとか呼ばれていたけど、がゼノに噛みつく。なんだろう、内輪揉め? それとも痴話喧嘩かしら?


「多少思い込みが激しく、直情径行な面も見受けられますが、無礼とは少し違うかな」


 直情径行ってわたしのことか?

 否定はしないけど……

 否定しないけど、偽装でもなんでも一応あんたの主人の奥さんを掴まえてそんなこと言う? それも本人目の前にして。


「ところで、これで納得はしていただけましたか?

私たちが子供を惨殺しているのではないことを?」

「えっ、ええ、まぁ、それはそうね」


 突然話題を振られて、どぎまぎしながら答える。確かに無礼な態度と言われると返す言葉がない。思い出すと頬がかっかと熱くなった。

 その時、ドタン、ドタンと物音が頭上から聞こえてきた。


 1階につながるドアのところまで行くと男の声が漏れ聞こえてきた。


「駄目だ。全然開かないぞ。本当に師匠はこの先にいるのかよ?」

「さっきは普通に開いたんですよ。急がないと奥様が……」

「くそっ、こうなりゃ斧で扉をぶっ壊すか」


 ピートとエッダの声だ。

 今すぐにでも新たな火が燃え上がりそうな雰囲気だった。あわててドアを開けて飛び出した。

 すると、そこにはフライパンをもったピート。その左右に二人の女の子、マールとミルダがいた。背が少し高い方がマールで金髪の方がミルダ。マールはすりこぎ、ミルダは包丁を持っていた。特にミルダが上気した頬で包丁を見つめてるのが怖い。さらにその両手が小刻み震えるのが怖い×怖い情景を作り出している。

 少し離れたところにはエッダとエレオノーラがハタキとホウキを構えて立っていた。

 ミランダもいる。彼女は干し草を集める巨大なフォーク(ピッチフォーク)を槍のような腰だめに構えている。本格的である。

 ミランダのそばに控えるのは夫のドーテル。庭師の道具なのか巨大なハサミをじょきじょきいわせていた。まるで旅人を殺して食ってる人食い夫婦みたい。冷静にみるとこっちもかなりヤバイ絵面だ。


 ドアを開けたとたんに現れた、この『なんだこれは群衆』に言葉を失う。その状況は相手も同じようで、その場にいた者たち全員の視線がわたしに集中したまま、固まっていた。


「あー、みなさんご機嫌よう」


 我ながら間の抜けた挨拶だ


「し、師匠ぉ―――」

「奥様~ッ」


 ピートとエッダが駆け寄ってきた。


「「ご無事でしたかぁ~~」」


 あ――、ごめんなさい、全然大丈夫でした


 と、心の中で小さくつぶやく。


「ゼノの野郎に変なことをされてませんか?」

「それねー、うん、大丈夫っていうか、不幸なボタンの掛け違いって言うのか……ねぇ」


 天井を見上げて言葉を濁す。気まずさでピートやエッダたちと目を合わせられない。


「やぁ、やぁ、やぁ。この離れは許可なく立ち入り禁止のはずだと思うのだけど、この騒ぎはなんなのかね?」


 落ち着いたゼノ、いやゼノさんの声が部屋中に響き渡った。


「てめぇ、良くもそんなのうのうとした顔しやがってふてぶてしい奴だなぁ!

そんなの非常事態だからに決まってるだろう。

師匠に指一本触れてみやがれただじゃおかねーぞ!!」

「あ―――、待って! 待ってね。それ、誤解だったから、ストップよ、ストーップ」


 ゼノさんに掴みかかろうとするピートを慌てて抑える。


「誤解? 誤解って本当になにもされてねぇんですかい?」

「うん、うん。ねぇんです。ねぇんです。

本当に大丈夫よ。

えっと、みんなも心配してきてくれたんだと思うんだけどごめんなさい。

わたしの勘違いでした。だから、もう解散よ。自分たちの仕事に戻ってちょうだい」


 両手をぱんぱんと叩いて、部屋一杯の人たちを押し返すように解散の宣言をする。みな、怪訝そうな表情ではあったが言うことを聞いてくれ、ぞろぞろと部屋を出ていく。後には自分とゼノさん、そして、クラリスと言う名の仮面の女の3人になった。

 どっと疲れた。

 疲労を吐き出すようにため息をひとつつくと、ゼノさんたちの方を向き、頭を下げた。


「ゼノさん、クラリスさん、お騒がせしました。今回のことをお詫びします。

謝っても許されないかもしれません。そうであるならなんなりと申してください。相応の罰を受けます」


 顔を上げて、じっと二人をしばし見つめる。


「ただし、それはわたし一人が受けます。

エッダやピートたちには関係ないことです。

その点、考慮していただけますようお願いします」

 

 一応釘は差しておいた。

2022/06/25 初稿

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