娘の気持ち
私は自分の部屋に戻り、頭を抱えた。結構、状況は良くない。そう思った。調べたところでは、少年野球チームの一番の権力者は監督だと書いてあった。この監督と関コーチは恐らくソーシャルスタイル理論でいうところのドライバータイプである可能性が高い。人をコントロールしたがるが、人の感情を読むのは下手。だから、他人にキツい言葉を使える。そして、このタイプは他人の話をあまり聞かない。何事も決め付けは良くないが、想定はしておいたほうが、事前に対処はしやすい。
私はネットで、“少年野球 クーデター”と調べた。読んだ本にそんなことが書いてあったからだ。調べると、結構みんなやっているのが分かった。おそらく、保護者会が監督たちの悪行(?)に耐えかねて、交代させたのだろう。もちろん、もっと強いチームにしたくてという理由もあったのかもしれない。
私は再びLINEを使って、今度は娘の所属するチームの保護者会の会長に監督らとの関係性について探りを入れてみた。結果、保護者会はこの監督らに弱く、裏で文句をブツブツ言うレベルで終わっているようだった。何やら、世の中ってそんなもんでしょって言わんばかりの言葉が並んでいた。その通りだ。保護者会は何も悪くない。普通だ。
この保護者会にクーデターを起こす気概はさらさらない。子どもが減っていることに危機感を持って、保護者会の何人かでお酒を交わしながら、話し合っているようなことは聞いていたが、どうも監督らにはあまり危機感はないようだった。そうなってくると、私がひとりで改革を呼びかけたとしても、何年もかかるか、無視されてサクッと終わる可能性が非常に高いような気がしてきた。
私は娘にまた訊いた。
「まい、パパがおまえのおる野球チームに入ったら、うれしいか?」
「入るって、何するん?」
「コーチ的な感じ」
「うーん。あんまりかも。だって、怒られる状況は変わらへんやろうし」
「なんでや?」
「友だちのパパがいっぱい来てるけど、誰も関コーチが怒鳴んのとか止めへんし」
低く見られていることはショックだった。しかし、娘の見積もりは合っている。私はまだ何もしていないし、調べた状況からしても、チームを昭和野球から令和野球へ移行させられる可能性はゼロに近いと思った。
「まい、おまえは野球チームを辞めることになってもええか?」
「え?なんで?」
「パパ、パワハラ嫌いやねん」
「せやけど」
「じゃあ、パワハラあっても野球続けるか?」
「・・・わからん」
私の急な問いかけに、娘はどうしていいかわからないといった感じで、混乱してしまった。
「友だちを失くさんようには、おれががんばってみるから」
「そんなんできるん?」
「うまくいくかわからんけど」
「・・・野球やめるかはパパで決めて、あたしはわからん」
パワハラだけを娘から奪えれば、なんの問題もない・・・でも、それはおそらくもうできない。
「パパ」
「なんや?」
「あたし、楽しい野球がやりたいねん」
「ああ、知ってるよ。おまえは仲間とワイワイすんのが好きやもんな」
「YouTube見てても、みんな楽しそうに野球やってんねん」
「そら、やらされて野球やってないからな。自分たちから進んでやる野球はさぞおもろいやろう」
「あたしも、こんな野球がしたいわ」
ふと、泣きそうになった。でも、我慢して、「そうやな」と小さく答えて、私は自分の部屋に戻った。