モンペア認定
娘が少年野球チームを辞めて、学校で後ろ指をさされないように私がやったことを書こうと思う。
それは、父親ひとりが嫌われ役を買うやり方だった。
地域や学校で生活しているのは妻と子どもであり、会社と家が生活圏の私にとってはそんなにダメージはない。幸い、家の中での少年野球チームを抜ける話の方が早かったので、保護者会の会長とは飲みにいく約束はしていたものの、まだ実現していなかった。私はまだ少年野球チームに数回手伝いに行った程度だったので、どんな人間かはほとんど把握されていない。このタイミングで私だけが、意識高い系の頭おかしいキャラになり、一方的に少年野球チームを抜けさせてほしいと訴えかければ、妻と娘はその被害者と周りに思わせられる。
普通に少年野球チームから抜ければ、うちの子どもはシビアに嫌なことから逃げただの卑怯者だのとストレートに学校で言われるに決まっている。子どもは思ったことをすぐに口にする。そうならないようにするために、娘は父親の被害者であると周りに思わせる必要がある。
私は再び保護者会の会長とピンでLINEを使ってやり取りし、“監督やコーチらにパワハラがあることが分かったので辞めさせてほしい”という旨を、くどくどとかなりの長文で投げつけた。しっかり面倒くさい正論もいっぱい並べた。
すると、後日、その会長から今度は私の妻にピンでLINEのメッセージが飛んできた。
“ご主人は一方的に辞めたいと言っておられますが、これはご家族の総意ですか?”
私はこれを妻から聞いて、自分がモンペア(モンスターペアレント)認定に受けたと思った。私が立てた比企谷八幡作戦はこの段階である程度、成功したと思った。
保護者会のこの会長さんはおそらくやり取りしていた感触ではソーシャルスタイル理論のエミアブルタイプ。このタイプは人との摩擦を嫌うので、人付き合いがうまかったりする。実際に他のお父さん方とよく飲みに行くと言っていたので、私のモンペアぶりはその飲み会の場で酒の肴にされることだろう。少年野球の団員を簡単に手放したとなれば、会長も責められる可能性があるが、その団員にモンペア親父がいれば他の保護者の方々にも説明がしやすいだろう。そして、会長からその話を聞いたお父さんたちの何人かは、娘がいた少年野球チームにいる自分の子どもたちに、その話をするだろう。もしそうなってくれれば、娘は私の被害者で可愛そうな存在として、学校で友達の輪から外れることはないだろう。
もちろん、私は今回、モンペア認定を受けるために過剰にパワハラ大嫌い親父をやったのは事実だが、大なり小なり、娘から大好きな野球を奪ったことも確固とした事実であり、そういう意味では娘は私の被害者だという点を、私は否定しない。
だから、私は娘から奪ってしまったものを、いくつか返せないか、この数か月間、努力するつもりでいる。全部は返せない。そこは娘にも説明している。謝っている。でも、娘に寂しい思いをさせてしまった分を少しでも返したいと思っている。