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人には誰でも一つくらい秘密があるんだ、ぜ!

9月のお題『令嬢』より・公爵令嬢の変装?

@短編その75

「お前が女とバレなかったら、お前の意思を尊重して騎士団に入団を認めよう」


お父様と約束した私は、騎士養成学校に入学した。

10歳から16歳まで6年間学ぶ、騎士になるための学校だ。


わた・・こほん、俺は!マイオール・ダムリン。騎士家の次男だ・・・と言うことにして入学した。

本当の姿は、マイオラ・フィフ・ダムール公爵令嬢。身分と性別を偽り、騎士になるための学校に入学!



周りの人たちには、わたくしは外国に留学していると言うことにしています。

さあ、バレずに6年間学ぶ事が出来るかしら・・・



入学式まで分からなかったけど、今年入学する生徒の中に・・・王子様がいる!!

()()()()は何度も御目通りしている・・・どうしよう、バレないかしら?

あ。

そういえば髪を切り、毛を染めているわ。忘れてたわ!

じゃあ大丈夫よね、っと、大丈夫だよな!会った事があると言っても、数分話すだけだったから、ね、っと、な!

おっと!女言葉では話さないようにしなく、ては。

これでも3ヶ月以上男言葉を練習して来たんだから、な!



教室の組み分け・・・ひえっ!王子様と同じクラス、だけでは無い!隣の席に王子様だぁ!!

あわわ・・・ばれませんように・・・




王子様をなるたけ避け、大人しく過ごす筈が!!

他の生徒達が、身分だの技量だの美少年だの・・・俺、イチャモンをふっかけられるのは何故だ?!

誰も彼もが、俺に対抗意識を持って挑んでくる!!あ。俺ってスルッと言えるようになったぜ!



「おお!またマイオールが一位か!」

「すげえな、マイオール」


テストでまた一位。入学して連続記録は続いている。

二位は王子様だ。・・・ヤバイ。

ライバル視されてるんだよね・・・困ったなぁ。

まあ女顔だけど、父親譲りのキリッと太めの眉とつり目で男の子にも見えるからね。

髪は大きめカールの癖毛。元は琥珀色だったけど、今は光沢あるシルバーに染めているんだ。


実は俺は学問以外も優秀なんだ。だから、騎士になりたかったんだ。

剣術も、魔法も、馬や飛竜に乗るのも得意だ。

戦術学、戦法も好きなんだ。輸送論も大好物だ!地図を見て、あーだこーだ考えるのがね・・・


お前が息子であったなら


父上が残念そうに呟いた、あの日を忘れない。


俺だって思うんだ。

男だったら。何も問題はない。

嫡男として家のため、国のため、頑張ったさ。

大人も負かす剣技。

大人も舌を巻く知識。

大人が唖然とする政策案。

8歳で既に俺は天才、神童と言われたんだ。

だが女だったばかりに、『女のくせに』『女は女らしく』と言われ、頭打ちだ。

これほど才能があっても、たかが騎士団の騎士にしかなれないのだ。

しかも、男と偽って。

せめて王家に生まれていれば・・・

俺本人が、一番歯痒い思いをしているんだ。

頭の悪い子供の群れに混ざってさ。

だから、ずっと一番でいる。

成長期で、俺はやはり体力や身体能力は男に負ける時が来る。

その要因が関係ないのが、学問や戦術学だ。

これだけは一番を取り続ける。




俺は友人を作らなかった。



一人で戦い続けた。



出来る努力は惜しまなかった。



ありがたい事に、身長は伸び続けている。



4年生になって、遂に剣術で負けた。

王子は14歳で170に伸びて、身体的に差が出始めていた。俺は166だが、体格が王子の方ががっしりとしている。

まだ馬術、飛竜を乗りこなす事は、ふたりでトップ争いだ。



王子の周りには大勢の友人が集い、楽しそうだ。

だが俺は、おいそれとそこに混ざるわけにはいかない。女とバレるわけにはいかないからだ。



そのせいか、学校では俺を『孤高の氷竜』と言うようだ。おや、綺麗だな。



「あ。『孤高の氷竜』だ」

「綺麗な男だなぁ」

「銀の髪に、アイスブルーの瞳だ。男と分かってもドキッとするな」

「全然笑わないんだよな。俺たちを見下しているのかねぇ」

「見下したくもなるだろうよ。だって、あの頭脳だぜ?」

「入学以来ずっとトップだもんな」

「剣の腕もサーリッシュ王子と引けを取らないじゃないか」

「天才とはいるものだなぁ」


俺が通りかかると、生徒がだいたいこんな噂話をする。

馬鹿め。

努力をしているに決まっているだろうが。

朝早く起きて4分で1キロ、それを3本から始まり、腕立て、腹筋、逆立ち歩き、そして剣の素振り。

夕方も同じメニューを続けている。

そして勉強だ。



「マイオール。まだ勉強をしているのか」


図書室で勉強をしていたら、急に声を掛けられて驚いた。

そして瞬時に緊張した。この声・・・

視線を向けると、ああ、やはり。


「どうも、殿下」

「ずいぶん熱心だな。これは勝てない筈だ。朝もトレーニングをしているようだな」

「もう日課ですので」


なんか・・まずいな。もしや・・・一緒に勉強しないかとか言ってきそうだぞ。


「マイオール、私と一緒にトレーニングを」


やっぱり言ったぞ・・・だが女であることをバレるわけにはいかない。


「すみません、殿下はライバルです。馴れ合う気はありません。どうぞ、他の方と。俺は、こんな感じのメニューで朝と夕方にトレーニングを行なっています」


そして、紙に練習メニューを書き出して殿下に手渡した。


「では、どうぞ頑張ってください。俺も負けませんよ。・・・失礼いたします」


俺は勉強道具を纏め、席を立ち殿下に一礼して立ち去った。


図書室のドアを閉め、後を追ってこないようにして、猛然と駆け出して、部屋に引っ込んだ。




朝、運動場に行くと・・・殿下がやはりいた。なんでだよ・・・


とりあえず一礼し、自分のメニューを開始。スタートライン近くに4分計量された砂時計を置き、走り出す。

猛スピードではない、ちょっと早い程度。1キロ4分で走る。

そしてちょうど4分の砂が落ちた時に、俺はゴール。軽くジョギングしながら手をブルブル震わせ、足も手でパンパンと叩いてクールダウン。そして再び砂時計を回して置き、スタート。

俺は自分の走りに集中した。毎日の事だから、何歩で1周なのか分かっている。

きちんと正確に。

1キロ3本走り終え、次は腕立て、腹筋、逆立ち歩き。

最後に剣の素振り。最近は剣先に重りを乗せて、ゆっくりと振るようにしている。


200回ほど振って、朝の練習は終了。

用具を手に取り、寮に帰ろうとしてふと気付くと殿下が練習を続けている。

今は素振りだ。


俺は王子に一度礼をし、先に戻った。



それからも朝、俺と殿下は一緒に練習をしないで各自でメニューをこなした。

・・・なんか、いやだなぁ・・



そして勉強も図書館に来るようになったので、俺は自室でするようになった。

図書館の本の匂いや静けさが好きだったのに、王子が来るようになったら他の余計な生徒も来るようになって、静かでなくなったからだ。

ああ、また俺の居場所が無くなってしまった。




イライラが頂点、俺は殿下をあからさまに避ける態度を取った。


朝のトレーニングも、運動場をやめて体育館でするようにした。

ジョギング用に魔法で滑る板を作ってみたら、何度かこけたがだんだん上手になって、今ではこれで3キロ走っている。ちょっと楽しい。つるつるランナーという名をつけた。




5年の初夏、殿下に体育館での朝練が遂にバレた。

どうせお互いひとりでやるんだから、俺が側にいなくてもいいでしょうに・・・

つい不満が顔に出た。それを王子にバッチリ見られた。


「私が一緒にするのがそんなに嫌か」

「いやですね」

「・・・そんなことを言うのはお前だけだ」

「俺は一人でやりたいんですよ。ただそれだけです」

「私は・・・お前ともっと話がしたいのだが」

「俺は一人がいいんです。お気遣いなく」


ヤバイヤバイ、気付かれたくないんだって。くそう、王子でなければ、魔法・拘束の呪文で半日放置してやるのにな。


「・・・お前は」

「?」

「線が細いな」


線?

変な事を言うので、目がぱちくりと見開いた。

そして、王子がすうっと手を伸ばして来て、首に触れたのだ。掌が、首をするっと撫でる。


「首の線が繊細で華奢だ。まるで」

「あんっ」

『?!!』


そして二人は固まった。


くすぐったかった。

『やめてください』と、手を払い除けようと思ったのに、変な声が出てしまった。

こ、これはどう逃げれば・・・


「殿下もお戯れを。まさか、男色ですか?」


俺は顔を引きつらせて、声も少々震えたが、なんとか軽口を言ってみせた。

一度軽口を言えば、エンジンが掛かるものだ。


「俺は『孤高の氷竜』と、なんか美貌を讃えられているようで。でもその()はありません。では失礼」


離れろ、離れろ、早く。

俺の頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。

それはもう、脱兎大急ぎで逃げました。



殿下とそれ以来話す機会がなくなって、本当にほっとしたが・・・


5年の後期から、騎士団と実地訓練の授業が始まって、女であることがバレる機会が増えた。

しかも王子とも同じ班となってしまった・・・

だがあの件のせいか、向こうから話しかける事は無かった。


野外練習が増えるから、トイレだよ・・・これがヤバイ。

生徒や騎士の方々の、立ちションはもう慣れたものだが・・大きい方だよ。

巫山戯て見に行ったりする馬鹿はいるもんだ。で、茶化すんだ。

男同士はいいんだ。俺はヤバイだろ!即女バレ、しかも恥の上塗りだ。

裸を見られるよりも恥ずかしい!!

細心の注意をして、トイレは我慢したり、早く済ませるようにした。

まあ、学内や寮でも気を付けていた事だから、困る事態にはならなかったが。


でもしたくなる時はある。で、いろいろ工夫をして、おむつのようなパンツを作った。

生理中にもシミ出しが気にならないので、安心感が半端なかった。

で、あまりにも良い出来だったので、こっそりと小遣い稼ぎに作って売ったら、貴族から庶民の女性達まで大受けした。父上に頼んで、工房を作って売り出したのだ。

長時間吸ってくれるので、医療用おむつにも流用されたので、ますます儲かったのだった。

一財産作れたので、父上も大喜びだ。



まあ結果、本当に運良くトイレで困る事なく、5年の騎士団訓練の授業を終える事が出来たのだった。


いよいよ6年。最終学年だ。

後1年バレなければ、父上は騎士になる事を許してくださる。



なのに突然、父上が面会と称して俺に会いにきたのだ!

俺は入学して一度も屋敷に帰らなかった。そのかわり、手紙は送っていたけどな。報告大事。



久々に会った父上は、俺の姿を見て驚いていた。驚くわな。

まあ、髪を切って染めた事は伝えておいたんだが・・・

身長はあれからも伸びて、今は176。どこを見ても少年騎士だ。


「ああ・・男に生まれていたら、こんな姿だったのだろうな・・・」


うん。でも女に産まれたのは、父上の子種のせいだよ?


「ここに来たのは、お前に縁談があったんだが・・・」


父上、俺のこの格好を見て、嫁にと言う男はいないだろう?

驚く事に、女と今もバレていないんだぞ?学友たちがボンクラなだけか?


「まあ諦めてくれよ、父上」

「喋り方も!なんか男らしいな?」

「だってバレないように頑張ったからなー、ははは!」


父上の傍にいると、俺、やっぱし親子だって思う。

だって、眉や目つきがそっくりだもんな。


こんこん。

面会室に誰だろう?先生か?

誰かがノックするので、俺はドアを開ける・・・すると、王子がいた。

なんでっ?!


「ああ、ダムール公爵、久しいな」

「殿下におかれましては、」

「挨拶はいい。実は頼みがあるんだが」


王子、何なん?頼みって。俺はなんか、いや〜な予感を感じた・・


「私は騎士学校を卒業したら、騎士として2年勤務する事になっている。その間、私の側近にマイオールを押したい。宜しいか?」


ゔぇ?

俺は呆然とした。

俺もだが、父上も呆然とした。親子そっくりな顔だったと、後で王子が笑った。


王子のお願いは・・・絶対だ。家臣は聞くものだ・・・

父上は了承以外の返事が言えない。

それからの王子の朗らかな事よ!


「だから、マイオール。もっと話をして、もう少し仲良くなろうではないか」

「・・・・・・はい(小声)」


・・・参った。

だが、5年間ばれなかった俺だ!もっと自信を持とう!

男らしいセリフや仕草を磨こうか!目指せ、モテ男!


この6年生の間に、側近としての立ち位置を学ぼう。



王子を避けて避けて避けまくって来たが、もっと早く親しくしておけばよかったかな、なんて今は思う。

気さくで、ユーモアある少年で、成績も二位だ。頭も良い。

だが、時々首をするっと撫でるんだ。


「ん、あっ・・」


そして二人で固まる。

ま、また声が漏れたっ・・!!もう、なんだってこんな声が漏れちゃうかなー?

王子、笑うんじゃない。なんでそんなに嬉しそうなんだ。本当に男色家なのか?


「人に見られたら、殿下は男色かもと見られますぞ」

「そんな甘い喘ぎ声を出す方が悪い」

「隙を狙って、くすぐるのはどうなんですかねぇ」

「・・・顔が赤いぞ?なんだマイオールの方が、男色なのかな?」

「馬鹿いえー、もう不敬罪なんか知るかー」


俺は前屈、両手を地面に付け、手で体を捻るようにして、ぎゅるんと体を急旋回、足技を王子に喰らわせる。


「おお、足癖が悪い側近だ!」


手でぱしぱし、と俺の足を受け、笑っている。くそう、巫山戯やがって。


「あんまりおいたが過ぎるなら、側近になんかなってやらねえぞ!」

「おや、王家のお願いを受けないのですか?」

「良い主には仕えますーーー!」

「ふむ。隙あり」


隙を狙って、また首をする〜っと撫でる。


「きゅん、っ、んがあああああ!!殺す!!」

「あはははは!!」




思えば首を撫でるのは、二人きりの時だ。男色と思われたくないからな。

おもしろがられてるなぁ、くそっ!

テストでは、覚えとけよ。




2週間後、テスト順位が貼られて・・

ふははは!!テスト連続一位記録は途切れず。抜かり無し!


「ああー。今度こそ、勝てると思ったのだがなぁ」

「殿下はまだまだ甘いですな」


俺が笑うと、王子はきょとんとした顔になって、それからじわじわと笑うのだ。

なにその笑顔。落ち着かないなーもー。




全く、困った事に・・・

俺はいつの間にやら王子の側で、怒ったり笑ったりするようになっていた。

もちろん、女だとバレないようにしていますよ!


いつの間にか『孤高の氷竜』だったあだ名が、『麗しの美豹』になっていた。

美しく強いと言う事らしい。




もうすぐ夏休みだ。

入学して以来、夏休みも俺はずっと帰らず学校の寮にいたのだが、王子が俺を誘うのだ。海に。

俺が一度も行った事ない、海へ行こうと。海の別荘においでと。正直行きたい。

でも・・・俺、泳げないわけではないが、水着を着たら・・・女とバレる。まずいじゃん。

だから嘘を言って断った。『強い日差しがダメなんです、背中とかの皮膚が弱くて』と。

騎士訓練で、泳ぐ授業はあった。だが、騎士服着て、剣を背負っての実技的なものだったから、肌を晒す事はなかったんだよな。考えると無茶ぶりだよな。ブーツに水が入っての、歩く時の不愉快さよ・・・それはいいとして。


「じゃあ、山はどうだ?」


あまり断るのもまずい。王家だからな。だから山なら、と承諾した。


でも困ったな・・・洗濯。

こっそりと、隠れてするか。風呂に入る時とか。


だが俺は肝心な事を忘れていた・・・・あいつは朝のトレーニングでもそうだった。




夏休みに入ってすぐ、王家の山荘に連れて行かれて・・・


執事に『暑かっただでしょう、さっぱりして来たらどうです』と言われて、やっと思い出した!


「裸の付き合いってやつだな。お前とは風呂に入る機会がなかったからな」


王子に風呂に誘われたーーー!!!!!!!!!←超強調

そうだった、王子はすぐ誘うんだった!

だめじゃん、もう、バレるとかの問題じゃないじゃん!

下着も洗おうと思っていたのにーーー!!


「いや、あの、殿下お先に!俺は一人で入りたいんですよ!シャワーでいいですから!皮膚も弱いですし!」

「そうか。医師もいるから、見てもらうか?」

「もう、結構ですから、はい!」

「おい、マイオール。お前・・・小さいから恥ずかしいのか?」

「はいそうです!!見せたくないです!小さくて!!」


そういう事にしておいてくれーーー!!

俺は割り当てられた部屋に駆け込んだ。


・・・・バレるじゃん。

もう、絶対にバレちゃうじゃん・・・

うざい。王子がうざ過ぎる。

このままでは、ぶん殴ってしまいそう・・・


俺はなんともし難い思いで握り拳をプルプル震わせ、衝動的にならないように堪えるしかなかった。



風呂は一人で入ると断固として拒否、なんとか許してもらえた。

それ以外は、頑張って付き合う事にした。


川辺で釣りとか。面白い顔の魚が釣れて、王子と笑った。

山登りとか。山頂からの景色が綺麗で雄大だった。王子は184くらいまで伸びていて、足の一歩が大きいから追いつくのが大変だった。いい運動になる。

そして・・・山の露天風呂。俺は入れないので足湯にしていると、王子がマッパになって飛び込んだ。

丸見えです。でも俺も5年以上男の子達と暮らしていますからね、その程度ではビビりませんとも。


「入ればいいのに」

「だから、皮膚が」

「ふーーん?」


王子が急に足を引っ張った!

ずるっと滑り、服のまま温泉にドボン!!

ごぼごぼ、と口から空気が逃げる!鼻の穴から湯が入る!!

慌てて踠き、なんとか顔を湯から出した。ああ、鼻が痛い、つんとする・・・


「殿下・・やってくれやがりましたね・・・はっ!」


俺は王子の頭に手を置き、ずびしと押して湯に沈めてやった。

うわ、股間丸見え!蹴ってやろうか。侮辱罪になるかな?


湯から顔を出した王子がニヤリと笑って、また俺を湯に沈めてきて、そこからはしっちゃめっちゃかだ。

露天の天然風呂で大騒ぎして、今は湯から上がってくたくただ。


「ああ、楽しい!どうだ、マイオールも楽しかったか?」

「馬鹿丸出しなことはやめましょうね、殿下」

「ははは!確かに丸出しだ!」

「下ネタとか」


愉快そうにしている王子に、苦笑するが・・・可愛いな、とも思った。

卒業後、2年側近としてお守りするのだと思うと・・・感慨深、いっ?!

するっとまた首を撫でて来た!


「ひゃあ、ん」

「うん。皮膚が弱いのは確かだな」

「落ちろ!」


俺は王子を湯に叩き落としたのだった。




俺と王子はよく遊び、よく学び、よく食べ。

夏休みを二人で堪能するのだった。



こうして付き合ってみれば、なかなかに良い奴ではある。

卒業後は帝王学も学ぶ事となるそうで、大変だなと。まあ、未来の王だからな。

仕方がない、お支え(おささえ)して差し上げよう。

でも首を撫でるのは、許さん。




いよいよ夏休みの最後の1週間、明後日には学校に戻る。

宿題も全部終わって、さあ、後期だ!最後まで一位を死守する!



・・・って思っていたんだ。

でも、叶わなかった。


翌日、ワイバーンがこの地に襲来、俺と王子で・・と言うか、戦力になりそうなのが俺達二人しかいなかった。

2匹も飛び回っていて、近くの村が危ない状態に陥った。

俺と王子は早馬で駆けつけ、ワイバーンと戦う事となり、なんとか2匹を倒した。

・・・と思ったが、1匹は虫の息、まだ少しは動けた。

ワイバーン(あいつ)も必死で口を開け、火球を吐き出したのだ。


「殿下っ!!」


熱いと思う間も無く、俺の意識は飛んだ。






「マイオール・・いや、()()()()


目覚めると王子が傍にいて、()()()()の名を呼んだ。

ああ、バレたか。

体や腕、頭に包帯が巻かれている。大怪我だったようだ。

わたくしは王子の顔を見ず、目を瞑った。


「お前、やっぱり、女の子だったんだね」


まあ、王子を助けての身バレだ。

誇ってもいいかな・・・

父上との約束だ。騎士になるのは諦めよう。

・・・・・・。

目が熱いなぁ・・・

あと半年ちょっとだったのになぁ・・・

・・・頑張ったよな、わたくし。

ああ、本当に・・

男に生まれていたら。

口惜しい。

口惜しいよ・・・


「泣くな、マイオラ。・・・ありがとう」


王子のお礼なんか、何の役にも立つものか。

腹も膨らまないし、喉の渇きも癒せないじゃないか。有難がるか、そんなもん。

早く出て行け。

わたくしはもう、ありったけの声を上げて泣きたいんだから。

助けなければ良かったとは思っていないけど、それでもあと少しだったんだ。


「目を開けて、マイオラ」

「うるさい・・・出てけ・・馴れ馴れしい」


頬を優しく撫でるけど、子供じゃないんだぞ。そんな事で喜ばないからな。


「先ほど君の父上・・ダムール公爵が来てな。お前との約束事を、聞いた」


だからどうした。


「お前は意地っ張りだから、約束は約束と、騎士学校を辞めてしまうだろう?」


そうですよ。意地っ張りではなく、正しく約束事を守るだけです。約束というのは、そう言うものです。


「学校を卒業しないと、騎士になる資格が授与されない。それでは、私の側近になれない」


騎士にはなりたいですが、側近にはなれなくていいんですが?


「私としては、有能なものにいてもらいたい。だから、妃にならないか、いや、なれ」


なんか言ってまーーーす。王子、ご乱心でーーーす。

不意に、しゅるっと首を撫でられた。


「んふっ、っ・・またーー!!もういい加減にしろーーー!!」


ガバッと布団から起き上がった瞬間、ビリリっと全身が痛んだ。


「〜〜〜〜・・」


よれよれとしゃがみ、香箱座りの猫のように丸くなって蹲る。

いだいいだいいだいぃ・・・うう、涙が滲んできた・・・


「君の父上にはもう許可をとっているからね。では、養生したまえ」


顎に手を差し込み、軽く持ち上げてキスをして出て行った。

おのれ・・・王子・・・

なにが妃だ。お分かりの通り、お妃教育なんざ、ちーーーっともしてこなかったわ!!

おう、お妃になったろやないかい!

そして、世界的に恥かかせたろやないかい!

男らしい妃、さらしたろやないかい!






辞める!・・なんて言っていましたが、結局学校に戻り、勉学を受け、きちんと主席で卒業しました。

父上も『ここまで頑張ったのに、そんな意地張らなくていい』と言って下さいましたので。

後半は、わたくしが実は女だった事を公表。

そりゃあもう、大騒ぎでしたわ〜〜〜。でも『冗談だろ?お前ほど男らしいのが女?』って奴もいたな。

ついでに王子の婚約者ってのも公表。同級生、皆口あんぐりですわー、そうだろうなー。

いやいやいや!!側近ならまだしも、お妃は遠慮しますわーーー。

前に『男らしい妃、さらしたろやないかい!!』って言ったけど、ごめん被りますわー、恥かくの、結局わたくしじゃんか。




卒業して数ヶ月。今は王子の側近として、付き従い勤務しています。

髪も元の色に戻し、ようやく肩を覆う程度の長さになりました。


「銀色のイメージが長かったからね。でもその色もいいね」

「殿下はどちらがお好みで?」

「私と口を聞いてくれなかった頃を思い出すから、今の色が良いかな?」


なんか拗ねてますねー。

『孤高の氷竜』時代ですね。だってバレたくなかったからねー。ゴメンゴメン。

しゅるっとまた首を撫でてきた。んもーー。

思わず声を上げそうになるけど、最近は口を塞がれるので・・・声漏れません・・・ぐぬぅ。



まあ、わたくしの事は照れくさいのでこの辺で・・


そうそう。

その後、騎士養成学校には女子も入学出来るようになったそうです。喜ばしい。



思いつくまま、ほぼ1日1話ペースで書いてたけど、そろそろペース落ちるかな。

9月からは『令嬢』がお題。


タイトル右のワシの名をクリックすると、どばーと話が出るけど、ついに75話に。

マジ6時間潰せる。根性と暇があるときに、是非。

いろいろな話を書いています。お話スタイルをかなり模索中。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 線が細いな、女の子なのかな?とか思いつつ、のちのち女の子に、見られた、とか照れたらいいよ。 いろんな男の子見られてる(笑) 逆に王子視点で読んでみたいなとか思いました…
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