女王謁見
もうすぐ女王に謁見することになっている。
リサは生まれてからこんなに緊張することあったかなと考えていた。
就職の最終面接も緊張したけど、そんなどころの騒ぎじゃない。
「普通にしていれば大丈夫だよ。」
サモエド王子は安心させようと声をかけてくれた。
『絶対に粗相はするなよ。王子を始めみんなの評価が下がるんだからな』
悪魔の声がさっきからめちゃくちゃプレッシャーをかけてくる。
『視線を合わせるのは失礼だから首のあたりを見て話せ。
余計なことは言わず、聞かれたことにだけ答えろ!!』
開けっ放しにしてる冷蔵庫の警告音ぐらいうるさい。
恐る恐るコーテッドの方をみたら、優しく微笑んで「大丈夫だよ」と言う。
サモエド王子が側にいるからって、言ってることと頭に流れてくる声が全然違うんですけど・・。
先程までの心配はどこへやら、女王も王配もリサに感謝の意を唱えたのだった。
「あなたには本当に感謝しています。もっと近くにいらして。」
女王がそう言ってくれるものの失礼にあたらないのかとためらう。
『さっさと近くまで行け!』
言い方は腹が立つがコーテッドが『結び』を用いて指示をくれるので心強い。
「お名前はなんとおっしゃったかしら?」
「イシクラ アリサです」
しまった!!緊張のあまりつい本名を言ってしまった。
言い直そうかと考えていると、女王は私の手を取った。
「シクラ アリサ!!」
周りもざわざわしだしたので、思わずコーテッド様のほうを見る。
『お前、イシクラ リサではないのか?』
『すいません、本名はアリサです。』
『なぜ黙っていた?』
コーテッドが静かに怒っている感じがした。
状況がよくわからないときは本名を明かすのはよくないと思っていたので(定石だもん)、偽名を使っていたこと。
そのうちリサと呼ばれるのに慣れてきたので、わざわざ言い直す必要もないかと黙っていたと正直に答えた。
『アリサは女神を意味する言葉だ!』
『そんな、リッサ(扉)のほうでいいですよ。アリサ(女神)はいいです!』
イシクラのイの字をまた発音してないから『頑丈な女神』と思われていることになる。
そんな大袈裟な名前は結構です。
しかも『頑丈な女神』って・・・
『100人乗っても大丈夫!』的な感じで無駄に強そうだ。
『もう遅い、女王の前で言い直しなどできない。』
溜め息混じりのコーテッドの声が頭に響いたのだった。
サモエド王子が『空からの使者』だと紹介したとき、両親もかわいい息子の言うことなので頭ごなしに否定するのもかわいそうだからと話を合わせていた。
だが後継者の証をとりもどしてくれた上に、名前が『女神』だなんて、ただの偶然なのだろうかと考えるようになったのだった。