犯人
「正直に話しなさい。」
コーテッドが彼女に近づくと頬を赤らめ、視線から逃げるようにそっぽを向いた。
その様子にピンときたリサは結びでコーテッドに指示を出す。
『もう一押しです。『美』の特性にやられてますよ。
瞳を見つめて手でも握って、話してくれないと困るとか言って落として下さい。
ゆけ!天然タラシ!』
コーテッドはムッとリサを見たが、王子のためだと腹をくくる。
メイドの顔をこちらに向け、彼女の手を取る。
瞳をじっと見つめる。
「君のすべてが知りたいんだ。」
その言葉にリサはずっこけた。
『なにエロいこと言って口説いてるんですか!『全てを話してほしい』でしょうが!』
コーテッドが言い直すよりも早く、彼女は罪を認めた。
そして洗いざらい、ぺらぺらと話してくれた。
ここに来ている御用聞きに盗みをしていることが見つかり、黙っててやるかわりに見つけてほしいものがあると頼まれたこと。
勿論、後継者の証のことだ。
その男は毎週決まった曜日に来ることになっている。
それが今日の夕方であること。
「男には頼まれた物を今日渡すと話しているのか?」
「言ってないです。」
「じゃあ、毎週見つかったかと催促されていたのか?」
それが・・と言葉を濁した。
ここで盗んだものを男に渡すと現金に換えてきてくれていたらしい。
しかも市場よりも高く換金してくるので有難かったと。
盗んだ物をリサの部屋に保管してあったのは、彼女が一番犯人に仕立てやすそうだと思ったからだそうだ。
それを聞いてリサは怒り狂っていた。
その日の夕方にのこのこやって来たのは、あの行商人の男だった。
そこからはピンシャーの独壇場だった。
昼のメイドの時は、コーテッドとリサに美味しいところを持っていかれてしまったが、今回はあっという間に男を自白させたのだった。
賊共に依頼して王子を襲わせたこと。
後継者の証を探していただけなのに、考えなしのバカ共が暴走してひどい目にあったこと。
次に女を脅して家の中を探らせていたこと。
女をつなぎとめておきたいために、わざと盗品を高く買い取っていたこと。
そして、それを命令していたのが、あのグレーヘアーの子爵だったこと。
連れてこられた子爵はあっさりと罪を認めた。
だがその目的については一切口を噤んだ。
ピンシャーの『自発』も会話の中でこそ効果を発揮するものなので、黙りにはお手上げだった。
「まさか、あの方が・・・そんな、信じられない・・・」
王子は子爵を信頼していただけあって、とても落胆していた。
さすがに後継者の証の強盗未遂ともなれば、国王のオーナー5世をはじめ右腕を務める父にも黙っているわけにもいかなかった。
王子は理由をきいてから知らせたかったようだが、そんなわけにはいかなかった。
すぐに王都からは『子爵を連行するように。』との連絡がきたのだった。