強金髪
明朝、馬車に乗り込み、ちゃっかりコーテッドの横を確保したチワワは『よしっ』と小さくガッツポーズをする。
昨日はこの2人のことが気がかりで、全然眠れなかった。
あれから何度もコーテッドの部屋に足を運び聞き耳を立てたが、特に収穫はなかった。
その2人はと言うと、朝から何だか険悪な雰囲気を漂わせているのだった。
折角、ピンシャーが気を利かせて2人きりにしてくれたのに、ケンカをしたのだ。
昨夜、2人きりになるとコーテッドは本音が出た。
「リサが来てくれたら何とかなりそうな気がしてきた。」
この窮地に再び『空からの使者』は現れたのだ。
これは必然に違いないとコーテッドは確信する。
だがその言葉にリサはプレッシャーを感じていた。
『はたして私が行って何かできるのだろうか?』
何の役にもたてなくて、コーテッドをガッカリさせたくはないなと思っていた。
「元気だったか?」
コーテッドは少し照れたように訊いてきた。
「うん、元気。でも実を言うと、私があっちに帰ってから1か月ぐらいしか経ってないの。だからこっちで1年も時間が過ぎててビックリしたよ。」
「どーいうことだ?」
「ホント、不思議ですよね〜。」
「私がこの1年間、どれほど心配したと思ってるんだ!」
えー、まさかの逆ギレ!
こっちだってどういうことだかわからないのにー。
理不尽に怒られて、リサはつい言い返してしまう。
「その割には、金髪の美少女と仲睦まじくしてるじゃないですか!」
金髪で強気の美少女チワワは、第二王子であるスピッツの奥方ペギニーズ様の妹だった。
シェパード伯爵は国王の義父の座をまだ諦めてはいなかった。
そこで今度は妹を、マルチーズ王子の花嫁にしようと考えていたのだった。
だがこの妹、頭の良い姉とは違い『弁解』『美』『気力』と知性に関する特性はからっきし無かった。
「マルチーズ王子なんて嫌です!だっておじさんじゃない!」
まだ17歳の彼女にとって10才近く年の離れた人など、おじさんに分類されてしまうのだ。
シェパード伯爵も、チワワには皇后などという大役は務まらないと思っていたので早々に諦めた。
そこで歳も近いサモエド王子のところへ、行儀見習いというよく分からない名目で潜り込ませたのだ。
なんでも『空からの使者』という人物がいなくなり、サモエド本人もその居城も活気がないらしい。
王配もレトリバーも「それはいい!」と大賛成してくれたのだった。
急にチワワの話が出てきて、コーテッドはなおざりな返事をする。
チワワがやって来ると伝えられて、王配や父それにシェパード伯爵の意図はすぐにわかった。
華やかの少女の登場に城内の者は喜んだが、コーテッドからすれば厄介ごとが舞い込んできたと、頭が痛かった。
リサのことで落ち込んでいる場合ではなくなり、することが増えた。
しかもなぜか、サモエド王子ではなく自分に懐いてきてしまったのだ。
身分だけは高いので適当にあしらうこともできないし、面倒だが相手をしないといけない。
特にサモエド王子に冤罪がかけられてからは、そちらのことで頭がいっぱいだったので、チワワのことなど本当にどーでもよかった。
だが彼女もサモエド王子を助けようと、シェパード伯爵に働きかけてくれたらしいのでその点では感謝をしていた。
「まあ、彼女がいてくれて助かったこともある。」
詳しい事情を知らないリサはコーテッドの返事に腹を立てた。
否定しないと言うことは、あの強金髪と仲良くしていたってことだ。
「あーそうですか、それは良かったですね」と怒ってさっさと部屋を出て行ってしまった。




