あの、オレ本当に何の取り柄もなくなったんですけどー2
アリサはようやく新しいスマホを手に入れ、ひとまず安心していた。
いつも鞄に入れてあるような必需品は要るなと、ドラッグストアに入ろうとした時だった。
隣接する交番に、おかしな人物がいることに気がついてしまう。
それは紛れもなくナイフを持ってこっちに向かってきたシバという男だった。
『あの人、何でここにいるの?』
ふてぶてしい感じで、椅子に座っているのがわかった。
どちらかと言うと、警察官の人たちが言葉が通じなくて困っているようだった。
助けてあげようという気も起きず(ついさっき襲われたところだし)店に入った。
買い物帰りにもう一度見てみると、シバはいなくなっていた。
「あの、さっきここで尋問を受けてた人ってどうなりました?」
「言葉が通じないから、本部に行きました。あなたお知り合いですか?」
アリサはどう答えようか悩んだ。
「多分、知り合いだと思います。」
面倒なことになるとわかっていたが、ついそう答えてしまった。
その数十分後にはそう答えたことを激しく後悔することになる。
「てめー、ここはどこだ?!オレに何してくれたんだ!!
オレをワンダ王国に帰せ!」
さっきからずっと「帰せ」コールをしている。
こっちだってむこうに帰りたいよ、私の想いは果たしてコーテッド様に伝わったんだろうか・・・
助けてしまったのだから、仕方なく家に連れて帰ることにする。
エレベーターから降りる時になかなか出てこないので引っ張って降ろした。
「オレに触るな! てめーのせいで特性が消えたんだぞ!」
アリサが廊下を進み出すと、後ろから声がした。
「おい、あの箱で帰れるんじゃないのか!?」
「多分無理だと思うよ。」
投げやりに答えると怒り出した。
「無理とはどういうことなんだ!!」
こっちだって、どういうことだか説明して欲しいぐらいなのだ。
「もう、本当にうるさいな〜、ちょっとは静かにしなさい。」
リサはシバの一方的な感じにうんざりしていた。
◆◆◆
シバは落ち着いてくると、ようやくアリサの話に耳を傾けだした。
そして自身の置かれている状況が段々とわかってくる。
アリサが元居た世界に連れてこられたらしい。
なぜ?オレが?疑問は尽きない。
だが、ここは何という世界だろう!
馬がいないのに馬車は勝手に走っている。信じられないぐらい高い建物がある。
動く箱(階段を上らなくて良い)がある。そして部屋が狭い。
「おめー、こんなところに住んでいるのか?」
「なんか文句あります。」
「とんだ貧乏人だな・・・」
母と住んでいたところよりも狭い部屋に住んでいるなんてと、シバは馬鹿にする。
ここで生きていくためには、彼も仕事をしないといけない。
「あなたって、何ができるんですか?
例えば、絵が上手とか、人の顔を覚えるのが得意とか何かあります?」
「バカかよ!『暗示』が使えるじゃないか!」
ドヤ顔で答える。
「多分、それ使えませんよ。」
「おめーのせいで使えないんだろ!」
「そういう意味じゃなくて、私が触ってもしばらくしたら使えるようになるんですよ。」
「でもさっきあの男たちは『暗示』にかからなかったぞ!」
やっぱりそうかとアリサは思う。
自分に特性が全く通じなかったのと逆だ。
シバはここに来たら特性が使えない。
「こっちの世界では特性自体が消えると思った方がいいですよ。
もしかしたら、こっちの言葉を覚えたら使えるのかも知れませんが、望みは薄いと思うよ。」
その言葉にシバは愕然とする。
オレから暗示を取ったら一体何が残るんだ??
「そんなのずりーぞ! じゃあおめーらの取り柄は何だってんだよ!」
「こちらでは一人一人、自分にできることをするの。
学んだり練習したりしながら少しずつ色んなことを習得していくんだよ。」
「そんなバカバカしいことやってられっか!!オレは王様の息子なんだぞ!」
その言い方が、まるっきり母親と一緒だったのでシバは愕然とする。
プライドばかりが高くて「私は王様の愛人なのよ!」がいつも口癖だった。
いつものように、人をビビらせるために使ったのではない。
まさしく心の底からその言葉を言ってしまった・・・
オレは母さんみたいになりたくない、何かに縋り付いて生きるのは嫌だ!
ずっとそう思っていたのに、いつから自分は顔も覚えていないような父親の権力に頼って生きていたのだろう。
「ここでは特性なんて生まれつき便利なものは備わってないの!
みんな努力していろんなことが出来るようになるの。
だからあなたもそんなバカみたいなことばっかり言ってないで、現実と向き合いなさい。 それに! ワンダに帰っても犯罪者なんですからね!」
『犯罪者!』 その言葉はシバの胸に突き刺さった。
そう、あっちに帰れても待っているのは夢のような生活とは真逆のことだ。
殺されるか、一生投獄されるかだろう・・・
急にシバが静かになったので、アリサは言いすぎたかなと思う。
「でもあっちとは違い、努力すれば報われる世界だよ!」
実際はそうでもないんだけど、ワンダ王国よりは身分社会ではないことは確かだ。
「そうだよな・・・これはやり直すチャンスだよな!」
シバは急に前向きな気持ちになったのだった。




