あの、オレ本当に何の取り柄もなくなったんですけどー1
「わーーーーっ」
アリサは頭を抱えてエレベーターの床に座り込んでいた。
どうやら、刺されはしなかったようだ。
1階に着き、開いた扉からは新鮮な空気が流れ込んできた。
やはりこちらに帰ってきたのだった。
もう一度3階(自分の部屋があるフロアー)のボタンを押し、上がってから再び下に降りてみた。
普通に降りただけだった。
何度か繰り返してみたがやはり無駄だった。
そう簡単にはあっちの世界には戻れないってことなのね・・・
アリサは現実と向き合わなければいけない。
さて向こうに行ってからどのくらい日にちが経ったのだろう・・・
確認しようにも、スマホはない!
と言うか手ブラ!!
しかも向こうにいたときのまんまの格好だし!
これじゃどこにも行けないよ〜。
私の部屋ってどーなってんだろう?
家賃の未払いが続いて勝手に撤去とかされてないでしょうね〜。
確認しようにも家の鍵もない。
全く不親切極まりないな〜!
『空からの使者』って、割に合わない仕事だな・・・アリサはぶつぶつ怒りながら4階で降りた。
4階には親友の優ちゃんが住んでいる。
今もここに住んでいることを祈ってインターホンを鳴らした。
◆◆◆
「で、刺されそうになって、気がつくとこっちに帰ってきてたの。」
アリサは向こうで起こった出来事をダイジェストでお伝えしながら、先ほどの別れを思い出して涙ぐみ、そしてカップ麺をすすった。
「っていう、夢オチだったら怒るよ?!」
「優ちゃんをだますためだけに、わざわざこんな衣装まで用意すると思う? しかもこんな朝っぱらから・・・」
「まあ、そうよね。」
優ちゃんは夜のバイトをしているので、朝は遅めだ。
アリサも緊急事態でなければ、こんな時間から訪ねることなどない。
さっきもすごい怒りながら出てきた。
アリサが泣いていたので驚いて中に入れてくれたのだ。
幸いにもアリサが向こうに行っている間、少しも時間は進んではいなかったようだ。
「しかし、今流行りの『異世界』ね〜。」
壮大な馬鹿話を朝からだらだらと聞かされて、優は初めは適当に相槌をうっていた。
だが作り話にしては妙にディテールが細かすぎる。
それに滅多に泣かないアリサが、さっきも今も泣いているのも気になった。
今日はバイトも休みだし、今夜にでももう一回詳しく聞くことにしよう。
本当に経験したことなら同じように話せるだろうし、それにイケメンの話もめちゃ気になる。
アリサはスマホを借りて会社を休むことと、管理会社に部屋を開けてもらえるように電話をする。
ついでに服も貸してもらう。
「アリサ、ここで着替えるの?」
優ちゃんが明らかにイヤそうな顔をするので面倒だけどバスルームに移動する。
こういうときだけ、優哉 であったころの名残が顔を出す。
敢えて理由は聞かないが、優ちゃんが全身手術をしたら平気になるのだろうか・・・
資金はとっくに貯めたらしいが、なかなか踏ん切りがつかないらしい。
「いろいろありがとう、もうすぐ部屋を開けにきてくれるみたいだから行くね。」
そう言いながらアリサは考える。
鞄がないってことは財布もない。現金もカードもない・・・ってことだよね。
「あとお金貸して!!あればあるだけ嬉しい!」
そう言って頭を下げた。




